スヴィプダグ

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スヴィプダグスヴィグダーグ古ノルド語: Svipdagr 「素早い日」[1][2][3])は、古ノルド語の「古エッダ」『グローアの呪歌英語版』と『フィヨルスヴィズの歌』(Fjölsvinnsmál)に登場する英雄[2]

継母の命令でメングロズの愛を得るため、亡母グローアの助力を得て九つの世界を巡る旅に出る。

あらすじ[編集]

ソルビャルト(Sólbjartr、「太陽の輝き」の意)[4][2]巫女グローアの子であるが[2]、母を失い父の後妻に辛く当たられた[5]

スヴィプダグは、 継母の言いつけで、彼の「運命の花嫁」である女神メングロズ(Menglöð)の愛を得る旅に出る[6]。 この一見不可能な任務を果たすために「スノッリのエッダ」にも登場する巫女で亡母のグローアの墓を訪ね、降霊術によって母の霊を召喚し呪文を教えてくれと頼んだ。グローアはスヴィプダグの苦難を防ぐ呪文[note 1]を授けるが、1つ目の詩はここで唐突に終わる。

2番目の詩の始まるところでスヴィプダグはメングロズの城にたどり着き、そこでは自分の本当の名を明かさずにヴィンドカルド(風の冷たさ)と名乗り[8]、明らかに自身を霜の巨人と装う[9]門番によってなぞなぞ遊びを仕掛けられる。門番の名はフィヨルスヴィズ(Fjölsviðr)であるが、この名は「グリームニルの言葉」47節に登場するオーディンの名前のひとつである[10]。彼にはウルフハウンドのゲリ(Geri)とギフ(Gifr)[11]が付き添っている。その住民およびその環境に関する一連の18の問答の末、スヴィプダグはついに城の門がただひとりの人間にしか開かれないこと、そしてそれがスヴィプダク自身であることを知る。スヴィプダグが正体を明らかにすると門が開き、メングロズは立ち上がって待ち望んでいた恋人に「おかえりなさい」と歓迎した。

他の資料[編集]

スヴィプダグと同じ名の英雄が「散文エッダ」の序文、『ヘイムスクリングラ』、『デンマーク人の事績』にも登場する。スヴィプダグと名付けられた英雄のひとりは王フロールヴ・クラキの仲間である。

アングロサクソン年代記では、デイラエラ英語版の祖先の中にスウェブダイ(Swæbdæg)の名がある。

解釈[編集]

19世紀以降ヤーコプ・グリムを支持して、ほとんどの学説でメングロズは女神フレイヤと同定されている。スウェーデンの研究者ヴィクトル・リュードベリ英語版は自身の子供向けの著書 Fädernas gudasaga の中でスヴィプダグをフレイヤの夫オーズあるいはオッタルと同定し、その理由を彼の著書『ゲルマン神話研究英語版』(1882)第1巻で概説している。これらの詩について詳細にコメントした学者は他にヤルマル・ファルク英語版(1893)、バレンツ・シモンズドイツ語版ヒューゴ・ゲリング英語版(1903)、ヘンリー・ベロウズ(1923)、オットー・ヘフラー英語版(1952)、リー・ホランダー英語版ロッテ・モッツ英語版エイナル・オーラヴル・スヴェインソン英語版(1975)、カロリーネ・ラリントン英語版(1999)、ジョン・マッキンネル(2005)らがいる。

注釈[編集]

  1. ^ 1.万病を治療する呪文、2.正しい道を示す呪文、3.水が彼を避ける呪文、4.攻撃を回避するため相手の賛同を得られるようになる呪文、5.あらゆる拘束から逃れる呪文、6.安全に航海できる呪文、7.凍傷や凍死を防ぐ呪文、8.暗闇に迷わず、死んだキリスト教徒の女の呪いを退ける呪文、9.巨人たちとの弁論にも勝てる知恵と弁舌が備わる呪文の9つ。[7]

参考文献[編集]

翻訳元

  • Bellows, Henry Adams (1923). The Poetic Edda: Translated from the Icelandic with an Introduction and Notes. American Scandinavian Foundation. https://archive.org/details/poeticedda00belluoft 
  • Orchard, Andy (1997). Dictionary of Norse Myth and Legend. Cassell. ISBN 0-304-34520-2

翻訳

  • G. ネッケル他編 『エッダ—古代北欧歌謡集』 「谷口幸男訳、新潮社、1973年。ISBN 4-10-313701-0、p.56。
  • Simek, Rudolf (2007) translated by Angela Hall. Dictionary of Northern Mythology. Boydell & Brewer英語版. ISBN 0-85991-513-1, p.307。
  • 菅原邦城 『北欧神話』 東京書籍、1984年、p.128。
  • キース・クロスリイ・ホランド『北欧神話物語』「スヴィクダーグのバラード」山室静、米原まり子訳、青土社、1991年、p.200 - p.207、p.317 -319、索引、p.vi。

出典[編集]

  1. ^ Orchard (1997:157).
  2. ^ a b c d Simec 1987, p. 307
  3. ^ 『北欧神話物語』索引 p.vi
  4. ^ 『北欧神話物語』「スヴィプダークのバラード」p.206
  5. ^ 『北欧神話物語』「スヴィプダークのバラード」p.200。
  6. ^ cf. Grógaldr 3 and Fjölsvinnsmál 40-41.
  7. ^ 『北欧神話物語』「スヴィプダークのバラード」p.201。
  8. ^ 『北欧神話物語』「スヴィプダークのバラード」p.202。
  9. ^ Bellows 1923, p. 240 and note
  10. ^ 『北欧神話物語』「北欧神話ノート」、p.318。
  11. ^ 『北欧神話物語』「スヴィプダークのバラード」p.204。