ぼくが電話をかけている場所

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ぼくが電話をかけている場所
著者 レイモンド・カーヴァー
訳者 村上春樹
イラスト 落田謙一
発行日 1983年7月25日
発行元 中央公論社
ジャンル 小説
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 上製本
ページ数 184
コード 0097-001644-4622
ウィキポータル 文学
[ ウィキデータ項目を編集 ]
テンプレートを表示

ぼくが電話をかけている場所』は、アメリカ小説家レイモンド・カーヴァーの短編小説集。日本で最初に翻訳出版された短編集で、作品のセレクトと翻訳は村上春樹が行っている。1983年刊行。

1988年5月に本国で出版された、37編から成る精選作品集『Where I'm Calling From: New and Selected Stories』と本書は別のものである。

概要[編集]

文芸誌『』1983年5月号の特集「今日の海外文学-21- レイモンド・カーヴァー」にカーヴァーの作品が一挙7編掲載される[注 1]。それに「何もかもが彼にくっついていた」を加えたものが本書である。1983年7月25日中央公論社から刊行された。表紙の絵と装丁は落田謙一。1985年12月25日中公文庫として文庫化された。

のちにカーヴァーの個人全集を単独で翻訳することになる村上だが、生まれて初めて読み、また最初に訳した作品が「足もとに流れる深い川」(So Much Water So Close to Home)だったという[注 2][3][4]

村上は1982年から1986年まで『Sports Graphic Number』にアメリカの雑誌や新聞を題材にしたコラム「スクラップ」を連載していたが、同誌1982年7月20日号でいち早くカーヴァーの作品を紹介している。該当箇所は以下のとおり。

「最近では『ニューヨーカー』に載ったレイモンド・カーバーの『僕が電話をかけている場所』(Where I'm Calling From)とドナルド・バーセルミの「落雷」(Lightning)の二冊がお勧め品である。カーバーもいつもながらほれぼれするような好短編である。」[5]

内容[編集]

タイトル 初出 単行本 初出(翻訳)
1 ダンスしないか?
Why Don't You Dance?
Quarterly West, No.7
(Autumn 1978)
愛について語るときに我々の語ること
(クノップフ社、1981年4月20日)
』1983年5月号
2 出かけるって女たちに言ってくるよ
Tell the Women We're Going
Sou'wester Literary Quarterly,
Summer 1971
『愛について語るときに我々の語ること』 『海』1983年5月号
3 大聖堂
Cathedral
The Atlantic Monthly, September 1981 大聖堂
(クノップフ社、1983年9月15日)
『海』1983年5月号
4 菓子袋
Sacks
Perspective, 17, No.3
(Winter 1974)
『愛について語るときに我々の語ること』 『海』1983年5月号
5 あなたお医者さま?
Are You a Doctor?
Fiction, 1, No.4
(1973)
頼むから静かにしてくれ
(マグロー・ヒル社、1976年3月9日)
『海』1983年5月号
6 ぼくが電話をかけている場所
Where I'm Calling From
The New Yorker, March 15, 1982[6] 『大聖堂』 『海』1983年5月号
7 足もとに流れる深い川
So Much Water So Close to Home
Spectrum, 17, No.1
(Fall 1975)
『怒りの季節』
(キャプラ・プレス、1977年11月)
『海』1983年5月号
8 何もかもが彼にくっついていた
Everything Stuck to Him
Chariton Review, 1, No.2
(Fall 1975)
『愛について語るときに我々の語ること』 訳し下ろし

2. 「出かけるって女たちに言ってくるよ」の雑誌掲載時のタイトルは "Friendship"

4. 「菓子袋」は "The Fling" というタイトルで2冊目の短編集『怒りの季節』(キャプラ・プレス、1977年11月)に収録されている。それを改題・改稿したものが3冊目の『愛について語るときに我々の語ること』に収録された。本書『ぼくが電話をかけている場所』に収められているバージョンは後者。

7. 「足もとに流れる深い川」はロング・バージョンが『怒りの季節』に収録され、その後ショート・バージョンが『愛について語るときに我々の語ること』に収録された。本書『ぼくが電話をかけている場所』に収められているバージョンは前者。なお『怒りの季節』に収録されたバージョンと、1983年4月に出版された『ファイアズ (炎)』収録のバージョンはほぼ同じである[7]

8. 「何もかもが彼にくっついていた」は "Distance" というタイトルで『怒りの季節』に収録されている。それを改題・改稿したものが『愛について語るときに我々の語ること』に収録された。本書『ぼくが電話をかけている場所』に収められているバージョンは後者。なお、『ファイアズ (炎)』収録のバージョンはそのどちらとも異なり、編集者ゴードン・リッシュによるいくつかの改変部分とテス・ギャラリーの提案部分が反映されている[8]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ このときの『海』の担当編集者が、のちに「生原稿流出事件」で知られる安原顯であった。村上はカーヴァーの訳書のあとがきで安原に謝辞を述べたあと、次のように述懐している。「僕が『レイモンド・カーヴァーというとても面白いアメリカの作家がいるんだけど』と話を持っていくと、『いいよ、それ次で特集やろう』ということであっというまに話がまとまった。そのころにはレイ・カーヴァーの名前を知る人もろくにいなかったわけだから、そんな気楽なことがよくできたものだと今にしてみれば思う。」[1]
  2. ^ 村上春樹は次のように述べている。「僕がカーヴァーを最初に見つけたのは、たまたま The West Coast Fictions というアンソロジーを読んでまして、カーヴァーのところにきたら、もうそこのページだけが光り輝いているんです。ビリビリくるのね。そのときに読んだのは "So Much Water So Close to Home"、『足もとに流れる深い川』と訳したっけ。僕は読んでもう本当に胸が震えるぐらいびっくりしたんです。『これだ!』と思った」[2]

出典[編集]

  1. ^ レイモンド・カーヴァー 『Carver's Dozen レイモンド・カーヴァー傑作選』中公文庫、350-351頁。
  2. ^ 村上春樹・柴田元幸翻訳夜話文藝春秋、2000年10月、196-197頁。
  3. ^ キャロル・スクレナカ 『レイモンド・カーヴァー 作家としての人生』中央公論新社、2013年7月、解説、729頁。
  4. ^ レイモンド・カーヴァー 『THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER 2 愛について語るときに我々の語ること』中央公論社、1990年8月、295頁。
  5. ^ 村上春樹 『THE SCRAP 懐かしの一九八〇年代文藝春秋、1987年2月、24頁。
  6. ^ WHERE I'M CALLING FROM BY RAYMOND CARVER, March 15, 1982The New Yorker
  7. ^ レイモンド・カーヴァー 『ビギナーズ』中央公論新社、2010年3月30日、「『ビギナーズ』のためのノート」(ウィリアム・L・スタル、モーリーン・P・キャロル)、497頁。
  8. ^ レイモンド・カーヴァー『ビギナーズ』前掲書、501-502頁。

関連項目[編集]