火種

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  1. 可燃物に点火する際に起こす小さな。本項で記述。
  2. 1.から転じて、騒動や争いの発端となる発言や行動のこと。近年ではネット上で騒動に拍車をかけるような言動を「燃料」とも呼ぶ。

火種(ひだね)は、物質を燃焼させる上で使われる小さな火のこと。古くは摩擦熱などを利用してそれを籾殻おがくずなどに引火させ、空気を送ることで燃焼させたものを火種とした。専用の道具として、日本では打竹、中国では火折子という道具を使用した。

おもな火種の作り方[編集]

きりもみ式
よく乾燥した板(ヒキリ板)と棒(ヒキリギネ)を用意し、板に穴を開けてその上に棒の先がはまるほどのくぼみを作る。そして、くぼみに棒の先をあてがい、高速で回転させる方法。
弓きり式
きりもみ式は非常に労力を要するため、紐と棒で弓状の道具を作り、紐の部分を棒に一周させて前後に動かすようにしたもの。摩擦によって黒い粉が生じたら、さらに回転速度を上げる。煙が起き始めたら静かに息を吹きかけて小さな赤い火が起きるのを確認する。さらに上記の籾殻などを加え、徐々に火を大きくする。
舞きり式
一枚の板の中心部に穴を開けて棒を通し、紐を棒の上部に何周か巻きつけて板の左右の端に固定したもので前後にではなく上下に動かすようにしたもの。

火種の維持[編集]

マッチライターといった点火用具がなかった頃は、火をつけるのはそれほど簡単ではなく、一度つけた火種はできる限り保持することが望ましかった。ウェスタの聖火英語版のように火を燃やし続ける文化もあったが、火鉢暖炉などでは火のついたをかけて酸素量の低下で適度に燃え続けさせる燃えさしの状態にすることで長持ちさせることができた。

こういった維持の方法は、紀元前3300年頃の遺体アイスマンの持ち物からも発見されており、当時は燃えさしを楓の葉にくるんでいた[1]。燃えさしは、鉄容器に苔を入れ燃えさしを包むEmber Box法、小枝などと一緒に樹皮と苔でくるむ方法、多孔菌キノコで挟み苔でキノコを包む方法などで運ぶことも行われる[2]

火縄銃や大砲などの場合は開戦時に火をおこすわけにもいかず、あらかじめ火縄に点火し、これを消さないようにしなければならなかった。火縄銃用の携帯燃えさしは胴火という容器に入れられた。忍者の必須の持ち物には、竹に適度に穴が開けられた打竹という火を入れる容器が含まれた[3][4]。火種には、竹くずや木くず、竹や木を薄くした束にしたもの等に硫黄を塗った付竹・付木(硫黄木)、英語圏だと Sulfur stick をホルダー(holder)に入れて用いた。

中国では、577年に侍従が料理を作るために火折子というものを発明した。芋の蔓を水に漬けてからつぶし綿や葦を加えて乾燥させた物、もしくは土紙を丸めた物を作る。それに硝酸塩、硫黄、ロジン樟脳リンなど、それから匂いが付く香辛料を加えて竹筒か紙の筒に入れる。火をつけたあと、口の開いたキャップを付けて完成する。使用するには、キャップを外して、息をゆっくり吹きかけるか、軽く振ると火種として使えるようになる[5][6]

火種の継承[編集]

古くから火は信仰の対象でもあり、特定の火種から作られた火を特別視するケースもある。例えばオリンピック期間中に会場で点される聖火は、ギリシャにあるオリンピアの競技場跡で太陽光により点されたものがリレー形式で開催地まで運ばれる。リレー途中で火が消えないよう、常に分けておいた予備の種火を準備するなど、取り扱いには細心の注意が払われる。また、広島平和記念公園に点されている『平和の灯』は、厳島弥山に1200年間燃え続けているとされる『消えずの霊火』より採火され、今も絶やさず燃やされ続けている。

出典[編集]

  1. ^ アイスマンを解凍せよ キャプション:カエデの葉は、火の燃えさしを包むためのもの。 雑誌:ナショナル ジオグラフィック日本版 2011年11月号
  2. ^ How to Carry Fire サイト;The Art of Manliness 更新日:September 26, 2021、参照日:october 22, 2021
  3. ^ 日本の武器・甲冑全史 著者: 戸部民夫 p98-99
  4. ^ (エッセイ)ひとつ足りない?忍びの六具と七方出(吉丸雄哉) 著:吉丸雄哉 サイト:三重大学国際忍者研究センター
  5. ^ 揭秘古代黑科技:古代用的火折子,为什么一吹就燃,原理太简单 腾讯网
  6. ^ 古代火折子为什么一吹就着?怎么发明得? サイト:历史资料网 更新日;2021-07-10 参照日:2021-10-23