日本語の世界16 国語改革を批判する

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日本語の世界16.国語改革を批判する』(こくごかいかくをひはんする)は、1983年5月中央公論社日本語の世界」シリーズの第16巻で出版された。1999年10月に、丸谷才一編著「国語改革を批判する」(中公文庫)で再刊された。

国字改良論に各自否定的な立場を取る6編の論考で構成。正字体および歴史的仮名遣を是とし、新字体および現代仮名遣いを非とすることを唱える著作で、國語改革反対派が改革派を批判する際に用いる常套的な主張をまとめており、福田恆存私の國語敎室」など、反対派の関連書籍に数えられる。

目次[編集]

  • 国語改革の歴史(戦前)(大野晋
  • 国語改革の歴史(戦後)(杉森久英
  • 現代日本語における漢字の機能(岩田麻里
  • 国語改革と私(入沢康夫
  • 「日本語改革」と私―ある国語生活史(山崎正和
  • 言葉と文字と精神と(丸谷才一)

内容[編集]

国語改革の歴史(戦前)[編集]

前島密漢字御廃止之議から説きおこし、否定的な評価をさしはさみつつ、国字改良論の展開についてのべる。

国語改革の歴史(戦後)[編集]

第二次大戦の日本の敗戦後、1946年の現代仮名遣いと当用漢字常用漢字)の制定について、旧字旧かなの是認を基調にしつつその経緯をのべる。

現代日本語における漢字の機能[編集]

漢語(二字熟語)について、和語に比べて語彙の多いことを長所とし、形態素の結合を分子になぞらえ、漢字の性質と漢字の重要性を説く。

国語改革と私[編集]

著者がいわゆる旧仮名派になった経緯と、研究者としての「校本宮澤賢治全集」(筑摩書房)の刊行と歴史的かなづかいの使用に対する批判者への反論とをのべる。

「日本語改革」と私―ある国語生活史[編集]

少時の文章に対する印象や、文章語と異なる口頭語の性質(記憶力に起因して、長い文においては文の始めから終わりまでが整合的にならないこと)などについて述べた随筆

言葉と文字と精神と[編集]

平易な表記をもって読み書きの普及に資するという国字改良論の目的を不要とする。ついで現代仮名遣いの弊害と称して、(1)語源の曖昧化(2)言語体系の破壊(3)同語異発音の余裕の消滅(4)拗音促音について述べる。また、「伝統」および「文化の断絶」という概念についてもふれる。

丸谷才一の表記観[編集]

本書の「言葉と文字と精神と」で、丸谷才一は簡潔に新字体・当用漢字(常用漢字)に関する自分の見解を述べている。それによれば、次の三つからなる。

  1. 現代仮名遣いの和語の表記を変更した点は全く愚挙である。
  2. 漢語の仮名表記(字音仮名遣)を変更し、簡略化したことには賛同する。和語の表記と漢語の表記は別の基準でよい。
  3. 漢字の字体の簡略化自体は必要であるが、当用漢字(常用漢字)に挙げられているものには主観的に気に入らない字が多い。

全体的に新字新かなを非とするが、一部に留保をつけているのが特徴である。

しかし国語改革が文明全般に与へた災厄を言ふ前に、予備的な手続きとして、一連の改革が日本語に対してどういう弊害をもたらしたかを大ざつぱに調べてみよう。(わたしのこの文章は一般にさうなのだが、以下しばらくのところは特に、時枝誠記「国語問題のために」、福田恆存「私の國語敎室」その他の著作、伊藤正雄「国語の姿勢」を参照しながら書くことになる。)まづ新仮名づかひ。第一に読みづらくなった。日本語はもともと母音が五つしかなくて同音異義語が生じやすいのに、それを表面に押し出して、表記による区別をぐつとすくなくしたのである(後略)

— 同書341p

次に、漢字の問題。しかし漢字関係の改変がもたらした弊害について述べる前に、その改変のうちわたしの肯定する二つの件について記さなければならない。さうでなければ公正を欠くことになろう。その第一は、字音仮名づかひを新仮名方式に直したことである。これは大賛成である。(中略)それゆゑ字音を新仮名方式に改めることは、国語改革以前の慣習を公式に認めたもので、極めて正しい態度と言はなければならない。

— 同書354p,355p

第二に、新字について。これは、双手をあげて賛成といふほどでないが、新かなづかひにくらべれば遥かに首肯できる。字画の多い字は読むにも書くにもかなりの労苦を強ひるからである。(殊に読む場合のそれははなはだしい。漢字はもともとその一字一字がある程度以上の広い空間を必要とするのに、新聞その他ではそこのところを無視して、うんと小さな字を使ひたがるからだ。)だが、そのことは当用漢字ないし常用漢字の字体を全面的に支持することを意味しない(後略)

— 同書358p

刊行書誌[編集]

関連項目[編集]