吉祥寺駅構内ビラ配布事件

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最高裁判所判例
事件名 鉄道営業法違反、建造物侵入
事件番号 昭和59(あ)206
1984年(昭和59年)12月18日
判例集 刑集第38巻12号3026頁
裁判要旨

 一 駅係員の許諾を受けないで駅構内において乗降客らに対しビラ多数を配布して演説等を繰り返したうえ、駅管理者からの退去要求を無視して約二〇分間にわたり駅構内に滞留した被告人らの所為につき、鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法二一条一項に違反しない。
二 鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」とは、鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるものをいう。
三 刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」とは、人が事実上管理・支配する建造物をいう。

四 構造上駅舎の一部で鉄道利用客のための通路として使用されており、また、駅の財産管理権を有する駅長が現に駅構内への出入りを制限し又は禁止する権限を行使している本件駅出入口階段付近(判文参照)は、鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」にあたるとともに、刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」にあたる。
第三小法廷
裁判長 木戸口久治
陪席裁判官 伊藤正己安岡滿彦長島敦
意見
多数意見 全会一致
意見 伊藤正己
反対意見 なし
参照法条
鉄道営業法35条,刑法130条,憲法21条1項
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吉祥寺駅構内ビラ配布事件(きちじょうじえきこうないビラはいふじけん)は1976年5月に発生した事件[1][2]。駅管理者の許可を得ない駅構内におけるビラ配布行為を禁じた鉄道営業法表現の自由を規定した日本国憲法第21条に違反するかが注目された。

概要[編集]

1976年5月4日午後6時半ころから、団体役員ら4人は東京都武蔵野市日本国有鉄道中央本線吉祥寺駅南口1階の階段付近で、駅員の承諾を受けずに多数の乗降客、通行人らに「5.5狭山闘争勝利武蔵の三鷹集会に結集しよう!」と題したビラ多数を配布しながら同時に携帯用拡声器で呼びかけ、同駅の管理者からの退去要請を無視して同駅構内に滞留したため、鉄道営業法第35条違反及び不退去罪で起訴された[3][4]

1982年11月9日東京地方裁判所八王子支部で被告ら4人に科料3000円や罰金1万円の有罪判決が言い渡された[3][4]1984年1月23日東京高等裁判所は控訴を棄却した[4]

1984年12月18日最高裁判所第三小法廷は「駅構内で、駅員の許可を受けずにビラ多数を配布、演説を続ける行為について鉄道営業法を適用、処罰することは、憲法に違反しない」との判断を示し、4人の被告の有罪が確定した[3]。なお伊藤正己最高裁判所裁判官は「本件行為が行われた場所は駅舎の一部だが、駅前広場のような場所はその状況によっては『パブリック・フォーラム』の性格を強く持つことがあり、このような場所にそこでのビラ配布行為を鉄道営業法違反で処罰することは、憲法に違反する疑いが強い」との補足意見を述べた[3]

脚注[編集]

  1. ^ 斎藤康輝 & 高畑英一郎 (2017), p. 104.
  2. ^ 戸松秀典 & 初宿正典 (2018), p. 249.
  3. ^ a b c d 「駅構内の無断ビラ配布 鉄営法処罰は合憲 最高裁」『朝日新聞朝日新聞社、1984年12月19日。
  4. ^ a b c 憲法判例研究会 (2014), p. 116(曽我部真裕執筆)

参考文献[編集]

  • 憲法判例研究会 編『憲法』(増補版)信山社〈判例プラクティス〉、2014年6月30日。ASIN 4797226366ISBN 978-4-7972-2636-2NCID BB15962761OCLC 1183152206国立国会図書館書誌ID:025522543 
  • 戸松秀典初宿正典 編『憲法判例』(第8版)有斐閣、2018年4月。ASIN 4641227454ISBN 978-4-641-22745-3NCID BB25884915OCLC 1031119363国立国会図書館書誌ID:028886855 
  • 斎藤康輝、高畑英一郎 編『憲法』(第2版)弘文堂〈Next教科書シリーズ〉、2017年4月11日。ASIN 4335002254ISBN 978-4-335-00225-0NCID BB23498284OCLC 985068279国立国会図書館書誌ID:028073378