モレトゥム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
モレトゥム
再現されたモレトゥム(左)とパン。ウェルギリウスの文献には出来上がったモレトゥムは丸めると記されており、このペーストより硬かったと推察されるため、フレッシュチーズを使ったコルメラ式と推察される。
発祥地 古代ローマ帝国
関連食文化 ローマの料理
誕生時期 古代ローマ時代かそれ以前
提供時温度 室温
主な材料 ニンニク、チーズ、ハーブ
Cookbook ウィキメディア・コモンズ
テンプレートを表示
紀元一世紀のローマ時代のモルタリウム(mortarium)

モレトゥム(ラテン語:MORETVM、Moretum)は、古代ローマ時代のニンニクとチーズのスプレッドである[1]

古代ローマの偉大なる詩人と言われているウェルギリウス紀元前70年? - 紀元前19年)の初期作品であるウェルギリウス補遺集(en:Appendix Vergiliana[注釈 1]に登場する。その作品では厳しい環境の中、朝起きだしてきた農民が朝食用にパンに乗せるモレトゥムを用意をする姿が詩の形で描かれている[1]。農民とモレトゥムはあくまで多様性や政治に対する寓喩だと解釈されているが[3]、奇しくもあまり記録の無いローマ時代の貧困にあえぐ農民の食事の材料や調理方法が詳細に後世に伝わることとなった[4]

調理にはモルタリウムとピスティルリ[注釈 2]が使われ、ニンニクと塩で硬めに仕上げたチーズパセリ[注釈 3]ルー(ヘンルーダ)コリアンダー(パクチー)の香草が塩と共にすり潰され、仕上げにオリーブオイルとヴィネガーをたらし味や硬さが調えられた[1][5]。出来上がったペーストは球状にまとめられ、パンに添えられた[1]

名称の意味[編集]

モレトゥムはラテン語であるが、その意味は大まかにサラダとして訳されているものや[5][6]、「ガーデン・ハーブ (庭で育てられているハーブ[7])」とするものもある[8]

その他の文献における言及[編集]

ローマの作家コルメラ[9]紀元前4年ころ - 紀元70年)が記した『農事論』(De re rustica)にもモレトゥムが登場する[10]。ウェルギリウス補遺集に登場するハーブ以外にも、ミントチャィブにんにくの芽[注釈 4]レタスルッコラタイムキャットミントペニーローヤルと、香草だけでなく現代では葉菜類と考える野菜も加わっている[10]。コルメラはフレッシュチーズか既にガーリック入りのチーズを使っているほか、さらには松の実クルミアーモンドヘーゼルナッツ胡麻レーズンなどを入れる選択も記述している[10]。また塩は使用していないが胡椒が加わっている[10]

成立年月日は一世紀初期と八世紀ころと見解の相違があるローマの料理本『アピキウス』でも言及されている[11]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ かつては編纂されたすべての詩はウェルギリウス作だと伝えられていたが、近年の研究で使用語呂や作風の違いから、一、二編以外は他の作者によるものだという認識で一致してきている[2]
  2. ^ 古代ギリシア・ローマ時代の食生活に重要な役割を果たした陶器製の浅めの擦鉢とL字型擂粉木。食材を粉砕したり、擂り潰したり、擂り混ぜたり、混ぜ合わせることに使用された。
  3. ^ 実際のラテン語表記は”apii”でApiumのことを指すと解釈されており、パセリと同様に同属に属するセロリの若葉という解釈もある。Moretum”. memim.com. 2021年12月10日閲覧。
  4. ^ リーキやグリーンオニオンとする解釈もある。

出典[編集]

  1. ^ a b c d Appendix Vergiliana, Copa 1” (ラテン語). latin.packhum.org. The Packard Humanities Institute. 2021年12月10日閲覧。
  2. ^ FITZGERALD, W. (1996). LABOR AND LABORER IN LATIN POETRY: THE CASE OF THE “MORETUM.” Arethusa, 29(3), p390. http://www.jstor.org/stable/26309738
  3. ^ Gowers, Emily (2021), Morales, Helen; Fantuzzi, Marco, eds., Pun-fried Concoctions: Wor(l)d-Blending in the Roman Kitchen, Cambridge Classical Studies, Cambridge University Press, pp. 241–265, ISBN 978-1-316-51858-8, https://www.cambridge.org/core/books/reception-in-the-grecoroman-world/punfried-concoctions-worldblending-in-the-roman-kitchen/99F930691E58411DF153C3B3A9938AC5 2021年12月10日閲覧。 
  4. ^ FITZGERALD, W. (1996). LABOR AND LABORER IN LATIN POETRY: THE CASE OF THE “MORETUM.” Arethusa, 29(3), 389-390. http://www.jstor.org/stable/26309738
  5. ^ a b 荻野繁春 (2011). “古代ギリシア・ローマのテキストとモルタリア” (PDF). 福井工業高等専門学校 研究紀要 人文・社会科学 (45): 41, 43. https://karin21.flib.u-fukui.ac.jp/repo/kiyou45.p35-65_cover._?key=KWIRGL. 
  6. ^ Eight ancient Roman recipes from Around the Roman Table: Food and Feasting in Ancient Rome”. press.uchicago.edu. 2021年12月10日閲覧。
  7. ^ GARDEN HERB English Definition and Meaning | Lexico.com” (英語). Lexico Dictionaries | English. 2022年2月1日閲覧。
  8. ^ 1867. Virgil (70-19 B.C.). Respectfully Quoted: A Dictionary of Quotations. 1989”. www.bartleby.com. 2022年2月1日閲覧。
  9. ^ 第2版,世界大百科事典内言及, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,精選版 日本国語大辞典,世界大百科事典. “コルメラとは”. コトバンク. 2021年12月10日閲覧。
  10. ^ a b c d Columella: de Re Rustica XII” (ラテン語). www.thelatinlibrary.com. 2021年12月10日閲覧。
  11. ^ LacusCurtius • Apicius, De Re Coquinaria — Book I”. penelope.uchicago.edu. 2021年12月11日閲覧。

関連項目[編集]