モルトケ級巡洋戦艦

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モルトケ級巡洋戦艦
艦級概観
艦種 巡洋戦艦
艦名 人名
前級 フォン・デア・タン
次級 ザイドリッツ
性能諸元
排水量 常備:22,979 t
全長 186.5 m
全幅 29.5 m
吃水 8.98 m
機関 シュルツ・ソーニクロフト式石炭専焼水管缶24基
+パーソンズ式低速タービン2基&高速タービン2基4軸推進
最大出力 52,000hp
最大速力 25.5ノット[注釈 1]
航続距離 14ノット/4,120海里
乗員 1,053名
兵装 28 cm SK/L50(50口径)連装砲5基
15 cm SK/L45(45口径)単装砲12基
8.8 cm SK/L45(45口径)単装砲12基
50 cm水中魚雷発射管単装4門
装甲 舷側装甲:100~120~270mm(水線面)、
200mm(第一甲板舷側部)、
50mm(弾薬庫水線面下部)、
30mm(機関区水線面下部)
甲板装甲:50mm
主砲塔装甲: 230mm(前盾)、
200mm(側盾)、
170mm(後盾)、
130mm(天蓋)
副砲ケースメイト装甲: 150mm
バーベット部:230mm
司令塔:350mm(前盾)、
250mm(側盾)、
-mm(後盾)、
60mm(天蓋)

モルトケ級巡洋戦艦 (モルトケきゅうじゅんようせんかん Große Kreuzer der Moltke-Klasse) はドイツ帝国海軍巡洋戦艦フォン・デア・タンの改良型。同型艦は2隻。

概要[編集]

試作艦的要素が濃かったフォン・デア・タンに引き続き、ドイツ帝国海軍として初の本格的巡洋戦艦タイプの大型巡洋艦の艦級である。このクラスでは対応する戦艦であるヘルゴラント級よりも一回り小さい主砲を採用することで、片舷砲力10門を確保した。英戦艦並みの重防御は健在である。

前級からの改良点として、後部主砲を背負式として1基を追加し、中心線上に計3基の主砲塔を配置する形態とした[1]。船型については、船首楼を後部マスト付近まで延長し、長船首楼型となっている[1]

1番艦「モルトケ」は1911年9月30日竣工。地中海戦隊 (Mittelmeerdivision) 旗艦だった姉妹艦「ゲーベン」の機関を本国で修理するため、1914年10月をもって「モルトケ」が地中海戦隊に配備予定だったが、その前に第一次世界大戦が始まった[2]。「モルトケ」は大洋艦隊 (Hochseeflotte) に所属し、ドッガー・バンク海戦[3]ユトランド沖海戦に参加した。1918年10月21日スカパ・フローに到着して抑留される[4]1919年6月21日、スカパ・フローにて他のドイツ艦と共に自沈した(スカパ・フローでのドイツ艦隊の自沈)。

2番艦「ゲーベン」は1912年7月2日に竣工。年内に地中海戦隊に配備され、地中海に進出した[5]。まだ平和だった頃、すでにオスマン帝国の首都イスタンブールに入港したこともある[6]。1914年7月28日の世界大戦開始直後、「ゲーベン」とマクデブルク級軽巡洋艦「ブレスラウ」[注釈 2]イギリス地中海艦隊追跡されて、コンスタンティノープルに逃げ込んだ[8]。同地で2隻はオスマン帝国に譲渡され、8月16日をもって「ゲーベン」はオスマン帝国海軍の「ヤウズ・スルタン・セリム」となった[9][注釈 3]。ただし2隻ともドイツ人将兵がそのまま乗り込み、ドイツ軍人の手によって運用を続けた[11]。有力なドイツ艦2隻を入手したオスマン帝国海軍は、イギリス地中海艦隊やロシア帝国黒海艦隊と苦しい戦いを続けた[12]。ロシア帝国海軍がインペラトリッツァ・マリーヤ級戦艦を配備すると、ヤウズ(ゲーベン)といえども油断できなくなった[13]。 第一次世界大戦後、トルコ共和国に引き渡されて「ヤウズ・セリム」と改名。つづいて「ヤウズ」と改名。第二次世界大戦時には機関部の改修、対空機銃の増設、後部マストの撤去を行っていたが、ドイツ帝国時代とほぼ同様の艦容を保っていた[14]1974年解体。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ゲーベンは公試で28.4ノットを発揮した。
  2. ^ 第二次世界大戦でドイツ海軍 (Kriegsmarine) を率いたカール・デーニッツ元帥が、海軍中尉として勤務していた[7]
  3. ^ 「ブレスラウ」は「ミディッリ」 (Midilli) と改名した[10]

出典[編集]

  1. ^ a b 「世界の艦船」1984年12月号(No.344) p.54
  2. ^ ドイツ海軍魂 1981, pp. 72–73.
  3. ^ 死闘の海 2004, p. 99(ドッガー・バンク海戦)参加艦艇と損失
  4. ^ 死闘の海 2004, p. 231スカパ・フローでイギリスに抑留されたドイツ艦
  5. ^ 死闘の海 2004, pp. 130–131ドイツ地中海戦隊
  6. ^ ドイツ海軍魂 1981, pp. 36–37.
  7. ^ ドイツ海軍魂 1981, pp. 30–31ブレスラウに配備される
  8. ^ 死闘の海 2004, pp. 132–134トルコへ向かうゾーヒョン隊
  9. ^ 死闘の海 2004, pp. 134–136トルコに編入されたドイツ軍艦
  10. ^ 死闘の海 2004, pp. 215–217開戦直後の黒海を巡る戦い
  11. ^ 死闘の海 2004, pp. 60–63トルコ海軍
  12. ^ 死闘の海 2004, pp. 265–267(7)トルコ海軍の総括
  13. ^ 死闘の海 2004, pp. 217–222ロシアとトルコが抱える問題
  14. ^ ジョーダン、戦艦 1988, pp. 112a-113トルコ/ヤヴース級

参考文献[編集]

  • ジョン・ジョーダン『戦艦 AN ILLUSTRATED GUIDE TO BATTLESHIPS AND BATTLECRUISERS』石橋孝夫 訳、株式会社ホビージャパン〈イラストレイテッド・ガイド6〉、1988年11月。ISBN 4-938461-35-8 
  • 「世界の艦船増刊第26集 ドイツ戦艦史」(海人社)
  • 「世界の艦船」1984年12月号(No.344) 特集 巡洋戦艦史のまとめ(海人社)
  • 高須廣一「巡洋戦艦のメカニズム」(『世界の艦船』 1999年3月号(No.553)(海人社)pp.78-85掲載)
  • カール・デーニッツ『ドイツ海軍魂 デーニッツ元帥自伝』山中静三 訳、原書房、1981年12月。ISBN 4-562-01191-2 
    • 第三章 一九一二~一四年 巡洋艦「ブレスラウ」/第四章 1914年大戦勃発/第五章 「ブレスラウ」がトルコ艦「ミディリ」となる
  • 三野正洋、古清水正夫『死闘の海 第一次世界大戦海戦史』光人社〈光人社NF文庫〉、2004年7月(原著2001年)。ISBN 4-7698-2425-4 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]