モスコリヌス

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モスコリヌス
地質時代
ペルム紀後期から三畳紀前期
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱 : 四肢動物上綱 Tetrapoda
: 単弓綱 Synapsida
: 獣弓目 Therapsida
階級なし 獣歯類 Theriodontia
亜目 : テロケファルス亜目 Therocephalia
: Akidnognathidae科
: モスコリヌス属
学名
Moschorhinus
Broom, 1920
  • M. kitchingi

モスコリヌス (Moschorhinus) は、古生代後期ペルム紀の約2億5900万年から約2億5200万年前にかけて生息していた単弓類の絶滅。単弓綱 - 獣弓目 - 獣歯類 - テロケファルス亜目 - アキドノグナトゥス科英語版に属する。長い犬歯と幅広で分厚い鼻面を備えていた。衰退/絶滅したゴルゴノプス亜目のニッチへ入り込み、ペルム紀末から三畳紀初頭までの数百万年間では、陸上で最大級の捕食動物になった。

特徴[編集]

知られる限り最後の大型肉食性テロケファルス類であり、ペルム紀末の大量絶滅を唯一生き延びた大型の陸棲捕食者。だが、三畳紀初頭のたび重なる環境悪化によって大気中の酸素濃度が低下したうえ、三畳紀になって新たな競合相手が登場したことにより、まもなく絶滅した[1]

その後、本種の生態的地位はキノグナトゥスのような肉食性キノドン類[2]、もしくはプロテロスクスやサウロスクスのような肉食性の主竜類によって引き継がれることになる。

古生物学[編集]

頭部[編集]

肉食性の獣歯類にしばしば見られる長い切歯犬歯を持つ。また後頭部の側頭窓や下顎の筋突起が大きく発達していることから、それなりに噛む力が強かったとされる。 モスコリヌスが獣歯類の中でも異質なのは犬歯の断面。例えばゴルゴノプス亜目が薄く鋭利なサーベル状の“剣歯”を進化させたのに対し、モスコリヌスは現在のネコ科。とりわけウンピョウのような分厚く丸い断面の“犬歯”を進化させている[3]

古生態学[編集]

モスコリヌスは大型のネコ科のような捕食者だった。暴れる獲物を抑え込むため、長い犬歯を相手に刺突用の武器として使っていた。これは現在のネコ科に通じる狩りの手法であり、この手法を狩りに活用したのはモスコリヌスが初めてである。

強力な咬筋、太い鼻面、鋭い犬歯を総合して考えると、モスコリヌスは恐ろしい捕食動物だったと考えられる[2]

古環境[編集]

最後のモスコリヌスが生息していた三畳紀初頭は、ペルム紀末の大量絶滅の爪痕が色濃く残る時代だった。ペルム紀に初期のモスコリヌスと共存していた大型生物のパレイアサウルス類ゴルゴノプス亜目は絶滅事件によって絶滅し、ディキノドン類も一握りの種類しか残っておらず、同じテロケファルス類もテトラキノドンプロモスコリヌスイクチドスクス類などの数種類が生き残るのみだった。この内テロケファルス類では本種が最も大きい。

こうしたペルム紀の残存勢力が僅かに存在していただけで、三畳紀初頭の陸上世界は非常に単調な生態系によって構築されていたとされる[4]。現在までに発見済みの化石だけで判断すると、植物食の単弓類リストロサウルスが生物全体の95%を占めていたとされる。このリストロサウルスを狙う捕食動物は、本種(モスコリヌス)か主竜類のプロテロスクスの2種に絞られた[5]。しかし上記2種だけではトップダウン効果が不十分だったようで、三畳紀初頭にはリストロサウルスの個体数が爆発的に増えていた。

出典[編集]

  1. ^ Peter D Ward; Jennifer Botha; Roger Buik; Michiel O. De Kock; Douglas H. Erwin; Geoffrey H Garrison; Joseph L Kirschvink; Roger Smith (2004-02-04). “Abrupt and Gradual Extinction Among Late Permian Land Vertebrates in the Karoo Basin, South Africa”. Science 307 (5710): 709–714.. doi:10.1126/science.1107068. PMID 15661973. https://science.sciencemag.org/content/307/5710/709. 
  2. ^ a b Van Valkenburgh B; Jenkins I (2002). “Evolutionary Patterns in the History of Permo-Triassic and Cenozoic Synapsid Predators”. Paleontological Society Papers 8: 267–88. 
  3. ^ Huttenlocker; Adam Keith (2013-11-14). “The Paleobiology of South African Therocephalian Therapsids (Amniota, Synapsida) and the Effects of the End-Permian Extinction on Size, Growth, and Bone Microstructure”. Biology 156. https://hdl.handle.net/1773/24299. 
  4. ^ https://royalsocietypublishing.org/doi/abs/10.1098/rspb.2007.0515
  5. ^ Botha, J.; Smith, R.M.H (2007-04-08). “Lystrosaurus species composition across the Permo–Triassic boundary in the Karoo Basin of South Africa”. Lethaia 40 (2): 125–137. doi:10.1111/j.1502-3931.2007.00011.x. 

関連項目[編集]