オノエリンドウ

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オノエリンドウ
オノエリンドウ、飛騨山脈の高山帯、長野県大町市にて、2021年8月31日撮影
オノエリンドウ、2021年8月
飛騨山脈高山帯長野県大町市にてにて
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク類 Asterids
: リンドウ目 Gentianales
: リンドウ科 Gentianaceae
: チシマリンドウ属 Gentianella
: オノエリンドウ
G. amarella subsp. takedae
学名
Gentianella amarella (L.) Börner subsp. takedae (Kitag.) Toyok.[1]
シノニム

Gentianella takedae (Kitag.) Satake[2]

和名
オノエリンドウ
品種

Gentianella amarella (L.) Börner subsp. takedae (Kitag.) Toyok. f. leucantha (Hayashi) Toyok.[3] シロバナオノエリンドウ

オノエリンドウ(尾上竜胆、学名Gentianella amarella (L.) Börner subsp. takedae (Kitag.) Toyok.[1])は、リンドウ科チシマリンドウ属分類される二年生植物高山植物の1[4][5][6][7][8][9]。種小名のamarellaは、「やや苦い」を意味する[4]。別名がオクヤマリンドウ[4][5]シノニムが、Gentianella takedae (Kitag.) Satake[2]。白花の品種のシロバナオノエリンドウ(白花尾上竜胆、学名:Gentianella amarella (L.) Börner subsp. takedae (Kitag.) Toyok. f. leucantha (Hayashi) Toyok.[3])が知られている[4][5]

学名変遷の経緯[編集]

本種は1902年8月に白馬岳で植物学者の矢部吉禎が発見採集し、翌年にチシマリンドウ同定されたが、裂片が状になる特徴を見落としていたものと考えられている[10]武田久吉はこの植物を大陸に分布する Gentiana amarella var. uliginosa Griseb.1905年に当てて、オノエリンドウという和名をつけた[10]1937年には北川政夫により、全く独立した新種 Gentiana takedai Kitagawa と命名された[10]豊国秀夫は本種とユウバリリンドウ(夕張竜胆、学名:Gentiana yuparensis Takeda[11])を詳細に検討した結果、花冠の色と萼裂片と萼筒に対する比、地理分布の差以外には両者の著しい相違点が見られなかったことから、1956年にオノエリンドウをユウバリリンドウの亜種とする新しい組み合わせ名、Gentiana yuparensis Takeda subsp. takedae (Kitag.) Toyok. を作り、さらに、1961年リンドウ属 Gentiana からチシマリンドウ属 Gentianella に移行し、Gentianella yuparensis (Takeda) Satake subsp. takedae (Kitag.) Toyok. とした[10]

本種をチシマリンドウ属のであるとする説もある[6]

特徴[編集]

草丈は高さは5-20 cm[4][9]。根もとのは小形で倒披針形[8]。茎葉は少数つき[8]、長さ1-5 cm、幅0.3-1.2 cmの広披針形-狭卵形で、基部はを抱き対生[12]、縁には微突起があり[4]、無[7]。葉表面は時に紫色を帯び、裏面は淡緑色[7]は紅紫色で、茎の先や上部の葉腋にふつう1個ずつつき[4]、上向きから横向きに開く[12]花柄は短柄か無柄[7]花冠は長さ1.6-2.3 cmの筒状鐘形で浅く4-6裂し、平開し[4]。裂片の内側には状に1/2-2/3程度細裂した長さ3-4 mmの内片があり[5]、のどの部分をふさぎ[4]、その隙間から雄蕊雌蕊が見える[9]。萼片は楕円形で1/2-3/5くらいまでさけ[4]、ほとんど反り返らず[9]、萼裂片の長さは萼筒の長さ4-6 mm[6]と同じくらいで[8]、裂片は線形で先が尖る[5]柱頭は2裂[7]。花期は8-9月[4][5][6][7][8][9]。ユウバリリンドウに非常に似ている[6][13]。ユウバリリンドウは本種よりも花が大きく、萼裂片が著しく長く、子房が有柄であるが、萼裂片が短く本種に近いものもあり、子房もほとんど無柄の物と完全に無柄の物もある[13]

分布と生育環境[編集]

高山帯の草地にハイマツトウヤクリンドウなどの高山植物と混生するオノエリンドウ

日本固有種[4][5]北海道羊蹄山)、本州中部地方飛騨山脈の白馬岳と針ノ木岳など、八ヶ岳赤石山脈塩見岳[4]荒川岳など)の高山帯に分布する[8]基準標本は白馬岳のもの[4][5]

高山帯の稜線沿い[9]の乾燥しない日当たりのよい草地砂礫[12]に生育する[7]。小さな草で他の高山植物と混生していて見つけにくい[5][9]

種の保全状況評価[編集]

環境省によるレッドリストで絶滅危惧IB類(EN)の指定を受けている[14]

絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト

[14]

また、以下の都道府県でレッドリストの指定を受けている。産地が限定されていて、人間による踏み付け、盗掘シカ食害の食害による個体数の減少が指摘されている[12]。静岡産の個体は環境省の新宿御苑種子が保存され、保護増殖が図られている[12]

脚注[編集]

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2012年5月12日). “オノエリンドウ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年9月18日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2012年5月12日). “オノエリンドウ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年9月18日閲覧。
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2012年5月12日). “シロバナオノエリンドウ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年9月18日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n 豊国 (1988)、203頁
  5. ^ a b c d e f g h i 清水 (2014)、302頁
  6. ^ a b c d e 佐竹 (1981)、33頁
  7. ^ a b c d e f g 小野 (1987)、207頁
  8. ^ a b c d e f 林 (2009)、259頁
  9. ^ a b c d e f g 久保田 (2007)、86頁
  10. ^ a b c d 豊国 (1980)、34頁
  11. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2012年5月12日). “ユウバリリンドウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年9月20日閲覧。
  12. ^ a b c d e f 植物レッドリスト(2018年部分改訂版)” (PDF). 静岡県. pp. 120. 2021年9月18日閲覧。
  13. ^ a b 豊国 (1956)、119頁
  14. ^ a b 環境省レッドリスト2019の公表について”. 環境省. 2021年9月18日閲覧。
  15. ^ 植物レッドリスト(2018年部分改訂版)” (PDF). 群馬県. pp. 102. 2021年9月18日閲覧。
  16. ^ 富山県の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブックとやま2012-” (PDF). 富山県. pp. 309. 2021年9月18日閲覧。
  17. ^ 北海道レッドデータブック、オノエリンドウ”. 北海道. 2021年9月18日閲覧。
  18. ^ 北海道レッドデータブック、シロバナオノエリンドウ”. 北海道. 2021年9月18日閲覧。
  19. ^ 長野県版レッドリスト(植物編)2014”. 長野県 (2020年11月30日). 2021年9月18日閲覧。

参考文献[編集]

  • 小野幹雄林弥栄『原色高山植物大図鑑』北隆館、1987年3月30日。ISBN 4832600079 
  • 久保田修『高山の花―イラストでちがいがわかる名前がわかる』学習研究社、2007年6月。ISBN 978-4054029033 
  • 清水建美門田裕一、木原浩『高山に咲く花』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑8〉、2014年3月22日。ISBN 978-4635070300 
  • 豊国秀夫長野県産の貴重なリンドウ科植物』(PDF)信州大学、1980年3月http://www.shinshu-u.ac.jp/group/env-sci/Backnumber/Vol02/02-09.pdf 
  • 豊国秀夫『日本の高山植物』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1988年9月。ISBN 4-635-09019-1 
  • 豊国秀夫「北海道産リンドウ屬植物 Conspectus Specierum Yesoensium Generis Gentiana」『植物分類,地理』第16巻第4号、日本植物分類学会、1956年、113-119頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001077746NAID 110003759163 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本Ⅲ合弁花類』平凡社、1981年10月。ISBN 4582535038 
  • 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]