オオヤマネコ属

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オオヤマネコ属
オオヤマネコ
オオヤマネコ Lynx lynx
地質時代
鮮新世 - 現代
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
亜目 : ネコ型亜目 Feliformia
: ネコ科 Felidae
亜科 : ネコ亜科 Felinae
: (ネコ族 Felini)
: オオヤマネコ属 Lynx
学名
Lynx Kerr, 1792[1]
タイプ種
Lynx lynx (Linnaeus, 1758)[1]
和名
オオヤマネコ属[2]
英名
Lynx

分布域

オオヤマネコ属(オオヤマネコぞく(大山猫属)、Lynx)は、食肉目ネコ科に分類される属。欧米での呼び方をそのまま用いて、リンクスと称することもある。

特徴[編集]

体長85-115センチ。は短い。アメリカに生息するカナダオオヤマネコは平均12キロ、ユーラシアに生息するオオヤマネコは平均22キロと体のサイズに開きがある。北米ヨーロッパアジア北部に生息する。の上でも楽にジャンプできるため、行動範囲が広く1晩で40km移動することもある。カナダオオヤマネコは主にネズミリス昆虫ウサギを捕食し、大柄なオオヤマネコはこれらに加えシカなどの大きな獲物も狙うことがある[3]。天敵はピューマオオカミクズリ等。

ノースウエスト準州ノース・ナハニ川英語版を泳ぐリンクス

分類[編集]

以下の分類・英名はMSW3に、和名は成島(1991)と伊澤(1992)に従う[1][2][4]

かつてカラカルを含めることもあったが、形態情報や分子情報を用いた解析により否定されている[5][6]

進化[編集]

ヒョウ亜科(もしくはヒョウ族)

Catopuma属(マーブルキャット含む)

Caracal属(サーバル含む)

Leopardus

ボブキャットL. rufus

カナダオオヤマネコL. canadensis

オオヤマネコL. lynx

スペインオオヤマネコL. pardinus

ネコ亜科(もしくはネコ族)の他属

X染色体・Y染色体・ミトコンドリアDNAの遺伝子から推定した系統樹より抜粋[6]

化石を含む骨の形態情報から推定されたLynx属の進化史は以下の通りである。鮮新世から更新世にかけてヨーロッパ南部に分布した絶滅種L. issiodorensis†が、現生全てのLynx属の祖先にあたると考えられる。アフリカからもこの種に相当するより古い(400万年前)化石が産出しており、オオヤマネコ属の起源と考えることもある。ヨーロッパ南部のL. issiodorensisL. pardinusへ、アジアへ進出したものはL. lynxへ、さらに北米大陸に到達したものはボブキャット(L. rufus)へと進化した。L. lynxは時代が下り更新世になってから、ヨーロッパへ進出しL. pardinusと競合するようになり、また北米大陸に渡ってL. canadensisとなった。[5]

しかしこれは分子情報に基づいて推定された系統関係(右図)とは合致しない。Lynx属の共通祖先から、まず鮮新世の320万年前にボブキャットが分かれ、更新世になって160万年前にL. canadensisが分かれ、120万年前にL. lynxL. pardinusが分岐したと推定されている。また他属との系統関係から、Lynx属の共通祖先は北米大陸にいたと考えられる[6]

日本におけるオオヤマネコ[編集]

日本列島では、秋吉台の洞穴で旧石器時代更新世)の化石骨が発見されているほか、縄文時代を通して北海道・本州・四国・九州の各島の遺跡で断片的であるが化石が発掘されている。オオヤマネコはユーラシア大陸におけるマンモス動物群の一要素として、最終氷期の最盛期にヘラジカトナカイなどとともにおそらく北海道経由で日本列島に渡来したと考えられる。縄文時代の遺物の中には犬歯の歯根部への穿孔したものがあり、垂飾りに使われたと考えられている。つまり縄文人の狩猟対象動物として、食用にするのみならず勇敢さと狩猟技量の高いことなどを誇示する最良の動物であったと考えられる[7]。その後、数千年前まで生息していた日本列島において絶滅した原因は不明である[要出典]

文化[編集]

オオヤマネコ/リンクス lynx の名は、「」を意味するギリシャ語に由来し、照度の単位ルクス lux とも同根である。これは、オオヤマネコの眼がかすかな光でもよく見えることに由来するが、古代ローマでは観察眼の鋭さを「オオヤマネコの眼」と表現し、英語では、lynx-eyed 「オオヤマネコの眼をした」という表現で「眼の鋭い」ことを表す。古代から中世にかけて、どんなものでも見透かしてしまう超越的な視線の持ち主と考えられた「ボイオティアの大山猫(リンクス)」の名が、しばしば比喩として引かれた。[注釈 1]

中世キリスト教では、明敏や明智を表すものとして、貴族の紋章にオオヤマネコを用いたものがある。17世紀に設けられた西洋星座やまねこ座も、明るい星のない星域に「この星座を見るためには誰もがヤマネコのような目を必要とするから」という理由からオオヤマネコがイメージされている。また、1993年公開の映画山猫は眠らないはスナイパーである主人公をオオヤマネコに例えたものである。

出典[編集]

  1. ^ a b c W. Christopher Wozencraft, "genus Lynx," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Page 540.
  2. ^ a b 伊澤雅子編著 「食肉目(ネコ目)の分類表3」『動物たちの地球 哺乳類II 1 トラ・ライオン・ヤマネコほか』第9巻 49号、朝日新聞社、1992年、32頁。
  3. ^ オオヤマネコ”. ナショナルジオグラフィック日本版. 日経BP. 2018年3月19日閲覧。
  4. ^ 成島悦雄 「ボブキャット」「カナダオオヤマネコ」「スペインオオヤマネコ」「オオヤマネコ」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、165-167頁
  5. ^ a b Lars Werdelin (1981). “The evolution of lynxes”. Ann. Zool. Fennici 18: 37-71. http://www.sekj.org/PDF/anzf18/anz18-037-071.pdf. 
  6. ^ a b c Warren E. Johnson, Eduardo Eizirik, Jill Pecon-Slattery, William J. Murphy, Agostinho Antunes, Emma Teeling, Stephen J. O'Brien (2006). “The Late Miocene Radiation of Modern Felidae: A Genetic Assessment”. Science 311 (5757): 73-77. doi:10.1126/science.1122277. 
  7. ^ 長谷川善和・金子浩昌・橘麻紀乃・田中源吾「日本における後期更新世~前期完新世産のオオヤマネコLynxについて」(pdf)『群馬県立自然史博物館研究報告』第15号、2011年、43-80頁。 

注釈[編集]

  1. ^ ボイオティア Boeotia は中部ギリシャの1地方。「もしも人間がボイオティアの大山猫のように、皮膚の下にあるものを見ることができるならば、誰もが女を見て吐き気を催すことになろう」というオドン・ド・クリュニー(10世紀フランス修道士)の言葉が有名。

関連項目[編集]