GE/PAC-4020

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GE/PAC-4020とは、ゼネラル・エレクトリック (GE) が開発製造した産業用コンピュータである。1966年10月初出荷された[1]東京電力福島第一原子力発電所1号機、2号機のプロセス計算機として納入されたことでも知られる。

仕様[編集]

下記にしめす物は、福島第一原子力発電所1号機に設置されたケースである[2]

  • 中央演算制御装置
  • 入出力・通信仕様
    • 磁気ドラム:188K~最大262Kまで拡張可能
    • 周辺機器
      • 紙テープ読取装置1台、読取速度100文字/s
      • 紙テープせん孔装置1台、せん孔速度120文字/s
      • タイプライタ(警報用、定周期ログ用、オンデマンド入出力用)各1台計3台
    • アナログ入力:アナログ走査器、125点/s
    • オペレータコンソール:1台
    • デジタル入力:入力走査器
    • デジタル出力:多重出力装置
  • 内部ストレージ
    • Bits per Microsecond:15.00[5]
    • Cycle Time(in micro seconds):1.6[5]
    • Bits per Cycle:24[5]

プロセス計算用途[編集]

本機にて全ての制御機能を果たしている訳ではないため、計算機を使用しない場合でも原子炉の性能には殆ど影響が無いが、計算機による監視データの処理がなされていないため、炉心が性能限界に近い状態になる場合、より拘束された運転限界を設定して運転する。従って全負荷(定格出力100%の状態)においては計算機の使用が前提となり、計算機無しでは90~95%程度の出力が上限とされる[6]

当時、プロセス計算の機能として求められたのは概略下記であった[7]

  • 性能計算
  • 炉心性能計算
    • 炉心熱出力分布
    • 炉心流量分布
    • 限界出力密度と限界熱流束比
    • 原子炉出力
  • プラント性能計算
    • 流量、熱効率、復水器、給水加熱器、炉心内平均ボイド率等
  • 運転補助手段
    • 炉心モニタ:インコアモニタの走査を行って設定値と比較する[6]
    • 制御棒反応度モニタ:制御棒価値ミニマイザの機能[8]
    • 制御棒位置指示:制御棒の位置を記憶させておき、定期的にプリントアウトする[9]
    • 各種接点信号作動順序記録:80点の接点信号変化を記録し、事故解析の参照資料として使用
    • 事故記録:25点のアナログ入力をプラントトリップ前後5分間記憶

性能計算が必要な理由は欲しい状態量がそのままの形で計測できないため、中性子量などの情報から間接的に計算値を求めるためである。計算機システム全体に占める比率は計算機の記憶容量に対して炉心性能計算が約80%、プラント性能計算が約10%であるが、プラント性能計算はプラントからの入力点数が非常に多い特徴がある[10]

備考[編集]

1960年代、BWRの開発が進展してくると、GE社は原子炉内にインコアモニタ(TIP)[11]を本格採用し、その設置をユーザー側が選択する段階を経て、ブラウンズフェリー(en)以降は全てのBWRプラントに計算機を包含した。東京電力が福島第一原子力発電所1号機の建設を行った際も、当初は後に標準化された計算機システムとは異なった計算機を導入する計画だったが、後に本機をベースとした上述のシステムを採用している。なお、ドレスデン2・3号機(en)、ブラウンズフェリー1・2号機など建設年代が極めて近く、プラントの仕様が揃っているGE製BWRでは計算機を共用する例が見られたが、福島第一では炉型が変更・設計も改良を続けていったこともあり、計算機は各炉に別置された[12]

また、日立製作所と同じく、GEと1967年に技術導入契約を結んでいた東芝[13]、本機相当のプロセス計算機としてTOSBAC7000を製造・福島第一原子力発電所3号機やBWR運転訓練センターなどに設置された[7][14]

脚注[編集]

  1. ^ Adams associates 1967, p. 244.
  2. ^ 斉藤毅 1971, p. 120.
  3. ^ a b Adams associates 1967, p. 28.
  4. ^ Adams associates 1967, p. 228.
  5. ^ a b c Adams associates 1967, p. 255.
  6. ^ a b 斉藤毅 1971, p. 118.
  7. ^ a b 橋本弘他 1969, p. 40.
  8. ^ 制御棒価値ミニマイザとは、制御棒の引き抜き動作が前もって決めた枠内の順序で実施されているか監視し、ある引き抜きが高い反応度を持つ制御パターンとなる場合、その操作を阻止する。(斉藤毅 1971, p. 118)
  9. ^ 中央操作室の制御盤の角に備えられている八角形状の表示器、制御棒位置指示回路は計算機とは独立した回路になっており、計算機が使用できない場合でも、全ての制御棒位置を確認できる。なお制御棒価値ミニマイザもこの表示器と同じ盤に配されている(斉藤毅 1971, p. 118)
  10. ^ 橋本弘他 1969, p. 40,43.
  11. ^ Traversing Incore Probe:LPRMなど他の中性子検出用(核計装)機器が燃料集合体に固定されているのに対して、TIPは高さ方向に移動が可能な可動型検出器で、プロセス計算機と組み合せた運用では欠かせない存在である。(佐藤隆久他 1972, pp. 66)
  12. ^ 橋本弘他 1969, p. 39.
  13. ^ 日本電機工業会「昭和43年度 原子力発電プラントの国産化および核燃料加工に関する融資についての要望(輸入対抗国産化推進対策)」『電機』第235巻、日本電機工業会、1968年1月、116-117頁。 
  14. ^ 「シミュレータの技術導入、東芝、GE社より」『原子力通信』1971年2月15・17日

参考文献[編集]

  • GE/PAC-4000 PROCESS COMPUTER Summary of Characteristics (PDF)P7-9は4020の基本仕様を記載。
  • Adams associates (1967年). COMPUTER CHARACTERISTICS QUARTERLY First and Second Quarters 1967 (PDF) (Report). Adams associates. 2011年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ (PDF)
  • GE/PAC-4020 COMPACT COMPUTER FOR PROCESS CONTROL PROGRAMMING MANUAL(PDF)GENERAL ELECTRIC 1967/10
  • 橋本弘他「BWR原子力発電所の計算機制御」『東芝レビュー』第24巻、東芝、1969年1月、39-43頁。 
  • 斉藤毅「原子力発電におけるプロセスコンピュータによるプラントの運転について」『配管技術』、日本工業出版、1971年4月、112-122頁。 
  • 佐藤隆久他「BWR原子力発電所のプロセス計算機」『電気計算』第40巻、電気書院、1972年11月、66-69頁。 

外部リンク[編集]