1994年の関税及び貿易に関する一般協定

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1994年の関税及び貿易に関する一般協定(1994ねんのかんぜいおよびぼうえきにかんするいっぱんきょうてい、英語: General Agreement on Tariffs and Trade 1994、通称1994年のガットガット1994)とは、ウルグアイラウンドにおいて合意されて、1995年世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO設立協定)1附属書1Aに含まれる条約である。

1947年に採択され、WTO発足までに発効した訂正、改正及び修正を受けた関税及び貿易に関する一般協定を主要な構成要素とする1994年の関税及び貿易に関する一般協定は、WTO協定と不可分の一部とされている(WTO協定第2条第2項)。

このようにまったく同じ条文でありながら、WTO発足までの関税及び貿易に関する一般協定は、1947年の関税及び貿易に関する一般協定(1947年のガット)とよばれ、WTO協定附属書1Aの1994年のガットとは、別個の条約であり法的に別個のもの(WTO協定第2条第4項)。とされている。

概要[編集]

WTO協定は、1994年の関税及び貿易に関する一般協定(1994年のガット)は、次のものにより構成されると規定している[1]

国際連合貿易雇用会議準備委員会第2会期の終了の時に採択された最終議定書(暫定的適用に関する議定書を除く。)に附属する1947年10月30日付けの関税及び貿易に関する一般協定(世界貿易機関協定の効力発生の日前に効力を生じた法的文書[注 1]により訂正され、改正され又は修正されたもの)

世界貿易機関協定の効力発生の日前に1947年のガットの下で効力を生じた次に掲げる法的文書

関税譲許に関連する議定書及び確認書

加入議定書(暫定的適用に関する規定(当該加入議定書の日付の日に有効な法令に反しない最大限度において1947年のガット第2部の規定を暫定的に適用する旨定める規定を含む。)及び暫定的適用の撤回に関する規定を除く。)

義務の免除に関する決定(1947年のガット第25条の規定に基づいて行われたもの)であって、世界貿易機関協定の効力発生の日に効力を有しているもの[注 2]

その他1947年のガットの締約国団が行った決定

次に掲げる了解

1994年の関税及び貿易に関する一般協定第2条1(b)の解釈に関する了解

1994年の関税及び貿易に関する一般協定第17条の解釈に関する了解

1994年の関税及び貿易に関する一般協定の国際収支に係る規定に関する了解

1994年の関税及び貿易に関する一般協定第24条の解釈に関する了解

1994年の関税及び貿易に関する一般協定に基づく義務の免除に関する了解

1994年の関税及び貿易に関する一般協定第28条の解釈に関する了解

1994年の関税及び貿易に関する一般協定のマラケシュ議定書


国際連合貿易雇用会議準備委員会第二会期の終了の時に採択された最終議定書中から「暫定的適用に関する議定書」を除くことにより,1947年のガットと異なり、1994年のガットは確定的に適用される[5]

1994年ガットの基本的な規定であるガットの条文そのものは,WTO協定には添付されておらず,まわりくどい表現で、間接的に規定している。

これは、ガットには、1947年の採択時点では意味があったが現在では規定する意義の失われた規定[6]、WTO協定の文言との平広が合っていない規定[7]等があるため、これらの規定については,削除又は何らかの調整を行う必要があった。しかし、ガット規定をWTO協定の中に取り込むにあたっての問題点を法律的にかつ詳細に検討を始めたのは交渉の末期であり,実際に検討を始める段になると,物品の貿易に関する協定の基本を成し、長年の経緯を掛まえた条約である1947年ガットの修正には慎重を期す必要があるとの考え方が多くの交渉参加国の意見となった。このためこれらの作業を短時間では行うことができないとの判断から引用方式を採用した[8]ものである。なおもともとの1947年のガットは、英語とフランス語で作成されていたが、WTO協定ではスペイン語も正文とする[9]ため、そのための規定[注 3]もされている。

また、ウルグアイ・ラウンド交渉においてガット規定の改正についても交渉が行われたが、合意された内容については条文自体を改正すべきとの意見もあったが、他の交渉の実施ぶりと合わせて検討する必要があるとの意見が大勢となり条文自体は改正せず、解釈に関する了解をとして1994年のガットに添付して実質的な改正を行った[10]

なお、このような構成をとる結果、WTO協定本体、1994年のガット、附属書1Aの1994年のガット以外の協定(例えばダンピング防止協定)との間で規定が抵触する可能性があるが、そのため

WTO規定といずれかの多角的貿易協定の規定とが抵触する場合には、抵触する限りにおいて、WTO規定の規定が優先する[9]。 1994年のガット、附属書1Aの1994年のガット以外の協定(例えばダンピング防止協定)との間で規定が抵触する場合には、抵触する限りにおいて、994年のガット以外の協定の規定が優先する。[11]

と規定し、更に締約国等の文言は、注釈で最小限の読み替え[注 4]を行っている。

注釈[編集]

  1. ^ WTO協定の効力発筆までに,1947年10月30日付けの一般協定が訂正,改正又は修正を受けた法的文書としては,以下のものがある[2]
    1.  ガットの若干の規定を修正する議定書(1948年3月24日作成:同日発効)
    2.  第14条を修正する特別議定書(1948年3月24日作成:1948年5月9日発効)                    ト‘I
    3.  第24条に関する特別議定書(194看年3月24日作成:1948年6月7日発効)
    4.  第ⅠⅠ部及び第26条を修正する議定書(1948年9月14日作成:1948年12月14日発効)
    5.  第Ⅰ部及び第29条を修正する議定書(1948年9月14日作成:1952年9月24日発効)
    6.  第26条を修正する議定書(1949年8月13日作成:1950年3月28日発効)
    7.  前文並びに第ⅠⅠ部及び第ⅠⅠⅠ部を改正する議定書(1955年3月10日作成:1957年10月7日発効)
    8.  ガット第ⅠⅤ部を追加する議定書(1965年2月8日作成:1966年6月27日発効)
  2. ^ 世界貿易機関協定の効力発生の日に効力を有していた1947年のガットでのウエイバーを予めリストアップすることが物理的に困難であったため、下記の注が協定に挿入された[3]。 注:この規定の対象となる義務の免除については、1993年12月15日の文書(文書番号MTN―FA)の第2部の11ページ及び12ページの脚注7並びに1994年3月21日の文書(文書番号MTN―FA―訂正6)に掲げる。閣僚会議は、その第1回の会合においてこの規定の対象となる義務の免除に関するリストを改定する。その改定されたリストにおいては、1993年12月16日から世界貿易機関協定の効力発生の日前までに1947年のガットに基づいて決定される義務の免除を追加し、かつ、世界貿易機関協定の効力発生の日前に効力を失う義務の免除を削除する。 この規定により作成された一覧[4]によると37件のウエイバーが存在していた。またこのうち、WTO協定第9条の規定により1996年11月に1997年1月以降も存続が認められたのは9件[3]である。
  3. ^ 1994年のガットの条約文は、英語、フランス語及びスペイン語を正文とする。 1994年のガットのフランス語による条約文は、文書番号MTN・TNC―四一の文書の附属書Aの規定に従って訂正される。 ガット基本文書選集(BISD)第四巻に含まれている条約文が文書番号MTN・TNC―四一の文書の附属書Bの規定に従って訂正されたものを、1994年のガットのスペイン語による正文とする。
  4. ^ 1994年のガットの規定中「締約国」とあるのは「加盟国」と、「低開発締約国」及び「先進締約国」とあるのはそれぞれ「開発途上加盟国」及び「先進加盟国」と、「書記局長」とあるのは「世界貿易機関事務局長」と読み替えるものとする。 1994年のガットの第15条の1、2及び8の規定、第38条の規定、附属書1(注釈及び補足規定)の「第12条について」及び「第18条について」の規定並びに第15条の2、3、6、7及び9における特別為替取極に関する規定中「締約国団」(共同して行動する締約国をいう。)とあるのは、「世界貿易機関」と読み替えるものとする。1994年のガットが定める締約国団のその他の任務については、閣僚会議が割り振る。

出典[編集]

  1. ^ 平成6年条約第15号として公布された日本の公定約による。ただし漢数字をアラビア数字に変更してある。
  2. ^ 津久井(1993)p126
  3. ^ a b 津久井(1993)p131
  4. ^ WTO文書WT/L/3 and Corr.1
  5. ^ 津久井(1993)
  6. ^ 例えばガットとハバナ協定との関係を規定する第29条
  7. ^ 加入に関する規定(第33条)や特定の締約国間での不適用に関する規定(第35条)
  8. ^ 津久井(1993)p127
  9. ^ a b WTO協定第16条3
  10. ^ 津久井(1993)p134
  11. ^ 附属書一Aに関する解釈のための一般的注釈

参考文献[編集]

  • 津久井 茂充『ガットの全貌 コンメンタール・ガット』日本関税協会、1993年。ISBN 4-88895-160-8 
  • 津久井 茂充『WTOとガット コンメンタール・ガット 1994』日本関税協会、1997年。ISBN 4-88895-196-9 
  • 奥和義「ウルグアイ・ラウンドをめぐる各国の戦略と日本」(PDF)『山口經濟學雜誌』第43巻第5号、山口大學經濟學會、1995年5月、571-601頁、OCLC 835558263 
  • 奥脇直也、小寺彰『国際法キーワード』(第2版)有斐閣、2006年。ISBN 4-641-05884-9 
  • 小寺彰、岩沢雄司、森田章夫『講義国際法』有斐閣、2006年。ISBN 4-641-04620-4 
  • 杉原高嶺、水上千之、臼杵知史、吉井淳、加藤信行、高田映『現代国際法講義』有斐閣、2008年。ISBN 978-4-641-04640-5 
  • 滝井光夫「大統領の通商交渉権限と連邦議会」(PDF)『ITI季刊』第69号、国際貿易投資研究所、2007年、28-41頁、OCLC 852436260 
  • 辻正次、田岡文夫『現代国際マクロ経済学』多賀出版、2005年。ISBN 4-81155431-0 
  • 筒井若水『国際法辞典』有斐閣、2002年。ISBN 4-641-00012-3