阪急710系電車

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阪急710系電車
急行運用の710系(1956年)
基本情報
運用者 阪急電鉄
製造所 ナニワ工機
製造年 1950年 - 1953年
製造数 14両
廃車 1983年
投入先 京都線
主要諸元
軌間 1,435 mm
電気方式 直流1500V・600V
全長 19,000 mm
全幅 2,750 mm
全高 4,260 mm
台車 扶桑金属工業 FS-5・3
主電動機 東洋電機製造 TDK-536-A
駆動方式 吊り掛け駆動方式
制御方式 抵抗制御
制御装置 東洋電機製造 ES-552 電動カム軸
制動装置 AMA-R・ACA-R自動空気ブレーキ
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710系電車(710けいでんしゃ)は、1950年より京阪神急行電鉄が導入した電車である。阪急標準車体寸法に準じた京都線用車両で、1953年までに合計14両がナニワ工機で製造された[1]

車体[編集]

第二次世界大戦後京阪電気鉄道を分離した京阪神急行電鉄では、神戸・宝塚・京都の各線区の規格の差異の統一が課題となった[2]。車体の統一による運用効率向上を図るため、神戸線用810系とともに阪急標準車体寸法を確立し、寸法は全長19,000mm、全幅2,750mmとなった[2]。長さは京都線100形(P-6)、幅は神宝線800系に準じた[1]

窓構造は神宝線に準じた一段下降窓を採用、窓配置は京都線の100形(P-6)に準じた[1]。810系とは線区の違いによる様々な相違点があり、710系は窓枠を車体色と同一色で塗装、標識灯は上下逆、行先表示板の固定具など、京都線の慣例に準じた[3]

当初は扉間を固定クロスシートとしたが、最終製造の2編成4両(716-766・717-767)はロングシートで竣工している[3]。なお最終製造分のうち718-768は、製造途中で神戸線の輸送力増強への対応のため810系に変更されており、822-872として落成している[4]。このため、主電動機東洋電機製造TDK-536であり[4]、台車も京都線用のFS-103Kを使用、また貫通扉も運転台側に開くなど、純正の810系との違いが見られる。

主要機器[編集]

電装品[編集]

新京阪鉄道時代からの京都線の慣例で、電装品は東洋電機製造製である。主制御器を含めて600・1500Vの複電圧対応で、全線で本来の性能を発揮可能であった[1]。主電動機は810系と同様、170kW×4である[1]。最終増備の717の主制御器・主電動機はP-6の余剰品の流用で[3]、150kW×4となった。

台車[編集]

715-765までの各編成は新設計の扶桑金属工業FS-5・FS-3ウィングばね式台車を装着して竣工した[1]。FS-5が710形用、FS-3が760形用である。

716-766および717-767の2編成はゲルリッツ式のFS-103を全車とも装着して竣工、乗り心地が更に改善された[3]。1956年6月のノンストップ特急運転開始後、特急の乗り心地改善のため、クロスシート車の714-764・715-765の2編成のFS-5・3との振り替えが実施されている[3]

ブレーキ[編集]

台車シリンダー方式を採用したため、中継弁付きのAMA-R・ACA-R自動空気ブレーキが採用された[1]

改造工事[編集]

1956年に蛍光灯化や正面扉への幌枠取付けや、乗り心地向上のため、台車にオイルダンパーが取り付けられた。

「歌劇号」を除く特急運用から完全に退いた1965年9月より、クロスシート車のロングシート化が実施され、1968年には、当初からロングシートだった716-766・717-767の3扉化が実施された[3]。ブレーキは、1962年に長編成化を見越してARSE方式に改造された[5]

1971年より更新工事が行われ、元クロスシート車は3扉化され、前照灯はシールドビーム2灯となり、雨樋を設置、窓枠はベージュ色となった[5]。4両固定編成化と一部の運転台撤去も行われ、ブレーキはHSC(電磁直通ブレーキ)に改造された[5]。4両固定化に際しては、車体形状の違いが考慮され、711-761のみMc-Tcの2両編成で残される事になり[5]、中間に入る713・715・717および762・764・766の6両の運転台撤去が実施され、以下の編成が4両固定編成となった[5]。。

  • 712-762+713-763
  • 714-764+715-765
  • 716-766+717-767

運用[編集]

引退目前の710系(1983年 桂駅

登場以来、京都線特急用として使用されたほか、複電圧を生かして京都 - 宝塚間の京宝特急(歌劇号)にも充当された。河原町延伸による特急の増発時には、主に2300系が特急に使用されていたが、710系もロングシートの716・717編成を含めて時折特急として運用された。

クロスシートの特急専用車である2800系が1964年に登場したため特急運用から外れ、クロスシートもロングシート化されて本線急行・普通列車運用となったが、5300系の増備が進んだ1973年頃からは千里線で使用され、1976年からは、210系700系に代わって嵐山線でも使用された[6]

1981年より廃車が開始され、1983年に全廃となった[5]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g 山口益生『阪急電車』98頁。
  2. ^ a b 篠原丞「阪急クロスシート車の系譜2」『鉄道ファン』2004年2月号、123頁。
  3. ^ a b c d e f 山口益生『阪急電車』99頁。
  4. ^ a b 山口益生『阪急電車』103頁。
  5. ^ a b c d e f 山口益生『阪急電車』100頁。
  6. ^ 阪急 710系 消えた車両写真館(鉄道ホビダス)、2006年8月15日。

参考文献[編集]

  • 山口益生『阪急電車』JTBパブリッシング、2012年。
  • 篠原丞「阪急クロスシート車の系譜2」『鉄道ファン』2004年2月号、交友社。121-127頁。