死霊のえじき

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
死霊のえじき
Day of the Dead
監督 ジョージ・A・ロメロ
脚本 ジョージ・A・ロメロ
製作 リチャード・P・ルービンスタイン
製作総指揮 サラ・M・ハッサネン
出演者 ロリー・カーディル英語版
リチャード・リバティー英語版
テリー・アレクサンダー英語版
ジャーラス・コンロイ英語版
ジョセフ・ピラトー
シャーマン・ハワード英語版
音楽 ジョン・ハリソン
主題歌 The World Inside Your Eyes
John Harrison & Sputzy Sparacino
撮影 マイケル・ゴーニック
編集 パスカル・ブーバ
製作会社 ローレル・プロダクション
配給 アメリカ合衆国の旗 United Film Distribution Company (UFDC)
日本の旗 東北新社/東映クラシックフィルム[1]
公開 アメリカ合衆国の旗 1985年7月3日
日本の旗 1986年4月19日
上映時間 102分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $3,500,000[2]
興行収入 $5,000,000[2]
前作 ゾンビ
次作 ランド・オブ・ザ・デッド
テンプレートを表示

死霊のえじき』(しりょうのえじき、Day of the Dead)は、1985年7月3日アメリカで公開されたゾンビ映画。監督はジョージ・A・ロメロ

概要[編集]

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』から続く、ロメロが手がけたゾンビ三部作の第3作目である。7年前に制作された前作『ゾンビ』に引き続き、ダリオ・アルジェントと共同で制作する予定であったが、ヨーロッパの通貨に対して米ドルが高騰したため、アルジェント側からの協力が得られなくなった。単独で資金を調達することになったロメロは脚本を大幅に変更し、規模を縮小して本作を製作した。

前作にフラン役で出演したゲイラン・ロスが本作のキャスティングスタッフ、ドライバーゾンビを演じたジョン・ハリソンが本作の音楽と第二助監督を担当し、キャスティングディレクターを務めたジョン・アンプラスが本作のテッド役を演じるなど、前作に参加したスタッフ・キャストの一部が引き続き本作にも参加している。

当初の脚本では主人公サラは女ゲリラという設定で、ゾンビと軍隊の戦闘シーンなどがあり、トム・サヴィーニ曰く「ゾンビ版『インディ・ジョーンズ』」であった。この脚本は現在、国内で販売されている『死霊のえじき 完全版』のDVDの特典DVD-ROMで読むことができる(対応しているPCが必要)。

ストーリー[編集]

世界は死者と生者の数が逆転し、ゾンビが蔓延する世界と成り果てていた。アメリカフロリダ州郊外の地下施設(セミノル地下倉庫)。そこでは女科学者のサラローガン博士らゾンビを研究する科学者たち、施設を牛耳る軍人グループ、両者に組せず技術契約だけを遂行するヘリコプターパイロットのジョンと無線技師のビリーなど、生き残った少数の人間たちが閉鎖した軍施設内に立て篭もり、ヘリでの生存者の捜索を行っていた。

上官(クーパー少佐)が死亡し基地の指揮権を得た横暴なローズ大尉は高圧的な態度で軍人グループ優位を主張、科学者らの批判、差別ばかりを主張する。

絶望的な現実、仲間である軍人達から虐められて精神を病みつつあるミゲルとの問題が恋人サラを疲労させていく。先の見えない行き詰まる日々の中、ローガン博士は密かにゾンビを飼いならす実験をするが、殆どのゾンビは期待を裏切った。しかしバブと命名した、元軍人らしきゾンビは生前の記憶があるかの様な立ち振る舞いをしローガン博士は研究に没頭する。

ある日、実験用に新たなゾンビを捕獲しようとした際、ミゲルのミスで兵士が死亡、ミゲル自身も片腕を失う。この件によってサラ達と軍人らが一触即発となり、さらにローガン博士がバブを飼い慣らすために死亡した兵士の肉を与えていたことが発覚する。

激怒したローズ大尉はローガン博士を殺害する。自暴自棄となっていたミゲルは地上と基地を遮断する巨大エレベーターを作動させ、ゾンビの大群を施設内へ侵入してしまう。パニックになった軍人達はバラバラに逃げ、追い詰められた者はゾンビの餌食となっていく。

スタッフ[編集]

日本語版制作スタッフ
  • プロデューサー:鈴木淳一(是空)、藤井健一(ポニーキャニオン
  • プロデューサー補:藤村健一(フィールドワークス)
  • 演出:吉田啓介[3]
  • 翻訳:堀池明[3]
  • 調整:村越直、大村雛子
  • ME制作:宮本浩
  • スタジオ:グロービジョン
  • 制作:是空、ポニーキャニオン
  • 製作協力:フィールドワークス
  • 協力:ふきカエル大作戦
  • 日本語版制作:グロービジョン[3]

登場人物・キャスト[編集]

サラ・ボウマン
演 - ロリー・カーディル英語版、日本語吹替 - 本田貴子[3]
この世界における問題の根本的要因である「死者の蘇り阻止」を研究する科学者。地下基地内唯一の女性である事から、弱さを見せず常に気を張った状態が続いており、それがジョンやミゲル達との、すれ違いや軍人達との対立の一因となる。
マシュー・ローガン博士
演 - リチャード・リバティー英語版、日本語吹替 - 大塚芳忠[3] / 千葉繁(配役交換版)
「ゾンビのコントロール」を研究する科学者。バブを教育(餌付け)していた。ゾンビと生き残った人間との比率を40万対1と計算する。口達者で激昂するローズ大尉にも臆せず逃げ場の無い状況を説明し、自説の有効性を主張しながら、研究継続の必要性を訴えた。
テッド・フィッシャー
演 - ジョン・アンプラス英語版、日本語吹替 - 川本克彦[3]
サラの同僚で科学者。ローズ大尉を「前任者のクーパー少佐よりもたちが悪い」と評する。ローガン博士殺害後、施設を退去しようとするローズ大尉に人質に取られ、見せしめに射殺された。
ジョン
演 - テリー・アレクサンダー英語版、日本語吹替 - 内田直哉[3] / 三宅健太(配役交換版)
ヘリコプターのパイロット。科学者グループにも軍人グループにも属さず、積極的に関わりを持たないが、軍人達にとって「価値の低い」サラ達の危険な立場を忠告する等、第三者的な立場で居るが非常時に見せる判断や言動は主役級である。
ウィリアム・“ビル”・マックダーモット
演 - ジャーラス・コンロイ英語版、日本語吹替 - 千葉繁[3] / 大塚芳忠(配役交換版)
無線技師 愛称はビリー。ジョンと共に、区画内の宿舎ではなく区画外のトレーラーハウスで生活している。酒好きで、ブランデーの入ったスキットルを片時も手放さない。
ヘンリー・ローズ大尉
演 - ジョセフ・ピラトー、日本語吹替 - 山路和弘[3] / 諏訪部順一(配役交換版)
前任のクーパー少佐の死亡後、新たに指揮官となった人物。軍人主義的かつ冷酷な性格で、研究は軍事作戦であるとして科学者グループを指揮下に置こうとするが、サラ達の反発を招いて事態を悪化させる。
ローガン博士殺害後、ジョンを脅迫してヘリで脱出しようとするが、一瞬の隙を突いたジョンに殴られ失神、武器を全て奪われる。その後ミゲルの暴走やゾンビ檻の開放でゾンビの大群が地下基地になだれ込んできた際には動揺し部下達を見捨てて逃亡し宿舎に立て篭もるが、ローガンの仇を討とうとするバブによって撃たれ満身創痍にされ、最期は大勢のゾンビに胴体を貪られながらゾンビ達に向かって捨て言葉を吐きつつ死亡した。
演者のジョセフ・ピラトーは前作『ゾンビ』でも巡視艇基地からボートで脱出を図る警官のリーダー役で出演している。
ウォルター・スティール
演 - ゲイリー・ハワード・クラー英語版、日本語吹替 - 三宅健太[3] / 内田直哉(配役交換版)
兵士。リックルスと主にコンビを組むがローズとも組む。巨漢で粗忽な乱暴者。ゾンビの大群に襲われた際にローズに見捨てられる。ローズの後を追うようにドアを破壊して宿舎へ逃走、ゾンビ達を宿舎へ雪崩れ込ませる。バブに銃撃されるも部屋に逃げ込み扉越しにバブを殺そうと身構えていたが、別扉から雪崩れ込んで来たゾンビに喉を齧られ拳銃で自殺する。
また、ミラーを介錯したのも彼である。
ロバート・リックルス
演 - ラルフ・マレロ英語版、日本語吹替 - 諏訪部順一[3] / 山路和弘(配役交換版)
下品なジョークを連発する小柄な兵士。サラの皮肉を理解出来ないスティールに助け舟を出す等、頭の回転は早い。
地下にゾンビの大群が襲撃してきた際にスティールと共にローズに見捨てられゾンビ檻に1人逃走、大勢のゾンビに囲まれて自動小銃や拳銃での自衛も虚しく、トレズに続いて生きたままゾンビの餌食となった。
フアン・トレズ
演 - タソ・N・スタブラキス英語版 、日本語吹替 - 田村真[3]
兵士。物語終盤、ローズに見捨てられスティール達と共に地下空間に取り残され、地下へ雪崩れ込んで来たゾンビの大群の最初の餌食となる。絶叫を上げながら首を引き千切られ絶命する。
演者のタソはエレベーターから落ちるゾンビやサラに角材で殴られるゾンビ、ローズ大尉のカートに引き摺られるゾンビ等も演じた他(ローズ大尉の内臓を取り出すヘルメット姿のゾンビもタソである)、スティールに投げ飛ばされるミゲル、ローズ大尉に撃たれるローガン博士などの本作のスタントも担当した。
ミゲル・サラザール
演 - アントン・ディレオ、日本語吹替 - 浪川大輔[3]
冴えない兵士で他の兵士達から暴力や蔑視の的となっており、その為か事有る毎にサラに擁護される。極限的状況が続く中でのストレスから不安定な精神状態にある。遂にはゾンビに腕を噛まれ、その腕をサラに切断される。この事が引き金となって絶望し、己を囮に地下の基地内へ外部のゾンビの大群を誘導、基地内の人間を道連れにする事を願いながら生きたままゾンビの餌食になる。
バブ
演 - シャーマン・ハワード英語版 、日本語吹替 - 堀総士郎[3]
研究用のサンプルとして捕獲されたゾンビ。生前は軍人だったらしく、ローガン博士に教育(餌付け)された事でローズに敬礼したり銃の使い方を覚えていた。ゾンビとしては知能が高く、ローガン博士が殺された事に怒りや悲しみを表す等、通常のゾンビとは一線を画す存在。終盤、弄っていた鎖が外れ研究所兼宿舎をさ迷う。その際に博士の死を知り復讐に銃を手に取りスティールを銃撃。最後はローズ大尉を銃撃し満身創痍にした上で致命傷を与え身動き出来なくさせる。自らはローズを喰らうことなく他のゾンビ達に止めを委ねて何処かへ立ち去った。
ジョンソン
演 - グレゴリー・ニコテロ 、日本語吹替 - 堀総士郎[3]
ローズ大尉率いる兵士の一人。ゾンビ捕獲用の道具が外れ、仲間の兵士・ミラーが襲われ喉を噛みちぎられた際、手にしていたマシンガンで誤射されて死亡。その遺体はローガン博士の実験材料に使用される。
ミラー
演 - フィリップ・G・ケラムス、日本語吹替 - 木村隼人[3]
ローズ大尉率いる兵士の一人。ゾンビ捕獲用の道具が外れた時に、ゾンビに襲われた際に喉を噛みちぎられてしまう。最後はスティールに介錯され死亡する。

※日本語吹替の配役交換版はクラウドファンディングのリターンとして支援者限定で配布された。

劇場公開・ソフト化[編集]

日本では1986年に劇場公開されたが、一部残酷なシーンがコマ単位でカットされていたり、エンドロールで流れる曲のヴォーカルトラック部分が抜かれていたりと不完全なバージョンでの公開となった。その後に発売されたVHS・Betamax・VHD・LDには、劇場公開版が収録されていた[注 1]

1998年から1999年にかけて『死霊のえじき 最終版』と銘打たれたバージョンのVHS・LD・DVDがJVDから発売されたが(現在はすべて廃盤)、これはテレビ放送用に残酷なシーンをカットして再編集や一部台詞の吹き替えを行ったもの。サウンドトラックの再ダビングが行われていないため、カットされたシーンとその前後に音楽が流れていた場合、曲が途切れ途切れになってしまうという不自然な場面が多々見られた。

海外ではオリジナルバージョンがソフト化されていたが、日本では2004年にハピネット・ピクチャーズから『死霊のえじき 完全版』のタイトルで発売されたDVDで、初めてオリジナルバージョンを観賞できるようになった。

  • 死霊のえじき 最終版(1999年10月27日、彩プロ、B00005H6VV)
  • 死霊のえじき 完全版(2004年10月27日、ハピネット・ピクチャーズ、B0002ZEV4Y)
  • スマイルBEST 死霊のえじき(2007年12月21日、Happinet、B00WPEIQA)
  • 死霊のえじき Blu-ray(2012年9月14日、Happinet、B00856TM2S)
  • 死霊のえじき Blu-ray <HDニューマスター・スペシャルエディション>『通常版』(2020年2月5日発売、ポニーキャニオン
  • 死霊のえじき Blu-ray <HDニューマスター・スペシャルエディション メモリアルコレクション>『初回生産限定版』(2020年2月5日発売、ポニーキャニオン)

オリジナルサウンドトラック[編集]

  • 死霊のえじき(1985年4月25日にポリドール・レコードよりLPとカセットテープが販売された)
  • Day Of The Dead(2013年10月8日、Analog盤としてWaxWorkRecordsより発売)
  • Day Of The Dead(2013年10月11日、サントラ専門レーベルLa-La-Land Recordsより3000枚限定販売)

関連作品[編集]

1986年に講談社X文庫から発売された小説『死霊のえじき』(翻訳家の岡山徹[7]によるノベライゼーションであり、原作小説は存在しない。ISBN 9784061900530)では、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の主人公・ベンをモデルにした人物が狂言回しとなり、プロローグにゾンビ発生の過程を前2作を参考にしたストーリーで説明しているうえ、ラストにはサラたち3人が逃げ延びた島へ謎の船が近づいていたことを示す、映画本編にはないエピソードが加えられている。

ロメロのノータッチで続編『Day of the Dead 2: Contagium』が作られ、日本では2008年に『デイ・オブ・ザ・デッド2』のタイトルでDVDが発売された。

スティーヴ・マイナー監督により、原典と同名のリメイク版『Day of the Dead』が作られ、アメリカでは劇場未公開のまま2008年にDVDで発売された。その後、日本では2008年に『デイ・オブ・ザ・デッド』のタイトルで劇場公開された。

よもやま話[編集]

ローズ大尉がゾンビの大群の餌食となっていくシーンで使用された豚の内臓は、クリスマス休暇による撮影中断中は冷蔵庫に保管されていたが、何者かが誤って電源を切ったため、撮影再開時には腐ってしまっていた。代わりを用意する時間がなかったため、撮影はそれを使って行われた。異臭を放つ内臓を目の前に置かれたローズ大尉役のジョセフ・ピラトーは、酸素マスクを使って呼吸しながら撮影に臨んだ。『死霊のえじき 完全版』のDVDや『ファンゴリア・ビデオマガジンVol.1 トム・サビーニ・スペシャル』のVHS・VHD・LDに収録されているメイキング映像では、同場面の撮影で「カット」の声がかかるとゾンビ役のエキストラ達が一斉に声を上げ、手団扇で臭気を払う様子を見ることができる。また、ジョセフはその直後に嘔吐した。

ゴリラズのファーストアルバム・「Gorillaz」に収録されている曲「M1A1」には冒頭のミゲルが拡声器で生存者へ呼びかけるシーンがサンプリングされており、サウンドトラックのベースラインに合わせてバンドの演奏が始まる仕組みになっている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 2021年9月8日に、東北新社スター・チャンネルは、動画配信サービスのDisney+において、新ブランドであるスターを開始するのに伴い、ウォルト・ディズニー・ジャパンとの間でブランド・ライセンス契約を締結。これにより、スターチャンネルにおいて、ウォルト・ディズニー・カンパニー20世紀スタジオ作品の放映が出来るようになった[6]。なお、WOWOWでの放送においては、この月を「ディズニー月間」と銘打ち、ディズニーのアニメーション映画を特集することにより残酷なシーンが避けられていたのに対し、スターチャンネルでの放送においては、ウォルト・ディズニー・カンパニーや20世紀スタジオ作品の放映が出来るようになったことにより残酷なシーンが避けられていない。

出典[編集]

  1. ^ 岡田茂『悔いなきわが映画人生 東映と、共に歩んだ50年』財界研究所、2001年、462頁。ISBN 4-87932-016-1 
  2. ^ a b Day of the Dead”. Box Office Mojo. Amazon.com. 2012年11月16日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 死霊のえじき”. ふきカエル大作戦!! (2019年12月17日). 2023年2月10日閲覧。
  4. ^ 「死霊のえじき」吹替版の全キャスト決定、千葉繁、山路和弘、諏訪部順一ら参加”. 映画ナタリー. 2019年9月19日閲覧。
  5. ^ ゾンビ映画の大傑作『死霊のえじき』が初の《日本語吹替版》と共に蘇る!実力派声優 本田貴子、大塚芳忠からコメント到着! 幻のオリジナル脚本など豪華特典も明らかに!”. ポニーキャニオンニュース. 2019年11月13日閲覧。
  6. ^ 東北新社&スター・チャンネル ウォルト・ディズニー・ジャパンとの協力関係強化”. 東北新社 / スターチャンネル (2021年9月8日). 2021年9月13日閲覧。
  7. ^ 翻訳家 岡山徹の部屋

外部リンク[編集]