悪徳学園

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悪徳学園』(あくとくがくえん)は、平井和正の短編SF小説早川書房SFマガジン』1969年10月臨時増刊号に掲載された。本作を表題作とした短編集も刊行されている。本項では主に短編小説について扱う。

あらすじ[編集]

東京の私立中学校・博徳学園。だが、「徳」とは名ばかりで、実際は腐敗・堕落した徳学園だった。転校生・犬神明は、ここで卒業を待つつもりだったが、女性教師・斎木美夜が赴任してきてから騒動に巻き込まれる。

登場人物[編集]

犬神明(いぬがみ あきら)
主人公。語り手も兼ねている(『アダルト・ウルフガイ』シリーズと同じ一人称小説)。
狼男で、あだ名はウルフ。敵視する人物は「ワン公」などと呼ぶ(他の犬神明と共通)。
中学3年生。クラスは〈はきだめ教室〉、席は最後尾。「学校無宿」を自認しているほど転校を重ねている。博徳学園には半年前に転校してきた。
斎木美夜(さいき みや)
新任の女性教師。〈はきだめ教室〉のクラス担任。担当科目は国語。
四国出身。そのため犬神伝承を聞かされて育った。犬神明の正体に薄々気がついており、親近感を持っている。
犬神明は、彼女のロングヘアーを西田佐知子になぞらえた。また「はきだめに鶴」とも。
郷明日子(ごう あすこ)
博徳学園の生徒。犬神明の恋人を自認している。学年・クラスは不明。
山本勝枝(やまもと かつえ)
犬神明の伯母で大富豪。渡欧中で作中には登場しない。
〈七人衆〉
学園を牛耳る不良グループ。7人とも〈はきだめ教室〉の生徒(彼らを集めたため〈はきだめ教室〉と呼ばれている)。
授業中に喫煙を行う、音楽を大音量でかける、などは日常的に行っている。教師への闇討ちも辞さないため、教師からも恐れられている。
鏡(かがみ)
リーダー格で刃物キチガイ。ニキビ面。郷明日子を暴行した。
野村(のむら)
通称ノム。身長188cm、体重88kgの巨漢。
黒田(くろだ)
通称クロ。小柄で非力だが、性格は偏執的で残忍。
その他のメンバー(氏名不詳)
キタロウ、シゲの2名以外は通称も不明。
その他の教師
沢村(さわむら)
教頭。小柄で気が弱い。
ハゲクマ
斎木の前任の担任。本名不明。30代半ばにして禿頭。
田所(たどころ)
生活指導の教師。
校長
犬神明に休学を申し出る。犬神明によると「イレブン・ドクターに似ている」、「エッチな話の方が似合う」。

『狼の紋章』との対比[編集]

犬神明と山本勝枝と田所と〈七人衆〉の黒田の4名を除いた登場人物の個人名の違い(斎木美夜と青鹿晶子など)や、名前やキャラクターの入れ替えなどがある。最も大きい相違点は、羽黒獰は暴力団組長(正確には組長代理の幹部)の息子だが、〈七人衆〉の鏡には暴力団とのつながりがないこと(「ある」とは明言されていない)。また、本作には神明(もしくは対応する人物)が登場しない。

本作の犬神明は、登場順では2番目であるが、シリーズを持たないため、他の2名より知名度は低い。

他の平井和正作品との関係[編集]

アダルト・ウルフガイシリーズ
本作の原型。
狼の紋章』(ウルフガイシリーズ)
本作の設定を利用した作品。
ウルフランド
大学生となった犬神明(本作の)が登場する(『あいつと私』、『ウルフランド消滅』)。
魔女の標的
短編。斎木美夜が赴任してきた時の描写が、同作の女性教師(三輪真名児)赴任時の描写と似ている(池上遼一版『スパイダーマン』の『金色の目の魔女』も同じく)。
あとがき小説「ビューティフル・ドリーマー」
本作の主人公が超常現象研究家として登場。犬神明が“一刻館”に入居するという小説の構想もあったらしい。
女神變生
本作の主人公が大日高校“七人衆”の一人として登場。
地球樹の女神
妻木美夜(さいき みや)が鷹匠中学の女性教師として活躍。

収録[編集]

短編集[編集]

SF短編小説集『悪徳学園』は、1974年にハヤカワ文庫JAから刊行され、翌1975年に角川文庫版が刊行された。すでに単行本で刊行していた短編集『虎は目覚める』 (1967年)、『エスパーお蘭』(1971年)の文庫化に際し、(分量が多かったため)3冊に再編したうちの2冊目にあたる。具体的には次のように再編された。

  • 悪夢のかたち(1973年) - 『虎は目覚める』から一部を割愛し、タイトルも変更
  • 悪徳学園 - 『エスパーお蘭』から一部を割愛し、タイトルも変更
  • 虎は暗闇より(1974年) - 『虎は目覚める』『エスパーお蘭』から上記で割愛された作品を収録

ハヤカワ文庫JA版のあとがきで、平井は「これで、『悪徳学園という単行本はない』と説明する必要がなくなった」と述べている。

短編集『悪徳学園』には以下の作品が収録された。

  • 悪徳学園
  • 星新一の内的宇宙(インナー・スペース)
  • 転生
  • エスパーお蘭
  • 親殺し

「星新一の内的宇宙」は、星新一や平井たちSF作家仲間の集まりを題材にしたショートショートであるが、「『狼男だよ』改竄事件」について触れている箇所がある。

なお、上述の『日本SF傑作選4 平井和正』に、これら5作のうち「親殺し」を除く4作が収録されている。

関連項目[編集]