幼稚園受験

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幼稚園受験(ようちえんじゅけん)とは、幼稚園入園試験を受けることである。
一般的に、近所の幼稚園ではなく、国立の幼稚園や、私立で系列の小学校が配置されている幼稚園、または人気が高い特定の私学幼稚園を受験することをさす。考査の内容は園単位に独自に設定される為に多種多様であり、中学受験のように一定の形式を持つものではない。小学校受験と共に「お受験」と呼称される場合がある。

幼稚園受験の現状[編集]

幼稚園受験自体はそう珍しいことではない。簡単に言えば、近所にある私立や公立の幼稚園に入園する前に、簡単な書類審査や面接をすることも広義で言えば幼稚園受験といえる。ただし、この記事で取りあげる国立や特定の幼稚園を受ける場合は様子が違ってくる。

近所にある幼稚園ではなく、あえてこれらの幼稚園を受験させる理由は家庭によって様々である。「幼小一貫教育でスムーズな教育を受けさせたい」「しっかりとした理念を持つ園と環境の中で子供を育てたい」という教育的事情、「系列の小学校へ幼稚園から内部進学し、小学校受験を避けたい」といった進学事情、「習い事や小学校受験に理解のある園や家庭の中で過ごしたい」「両親共働きなので都合の良い設備をもったところがいい」という環境的事情、「受験をするか、内部進学をするかどうかなどは一切決まっていないものの選択肢だけは広げておきたい」という今後の備えなどが挙げられる。「学力競争の中学受験は避けたい。小学校受験も人気の高まりにつれて難しくなってきたということで、幼稚園から高校・大学までエスカレーターで上がっていけるところがいい」という理由で受験を希望する者もいる[1]

一方、幼稚園の設立・運営の意図も様々である。これらの幼稚園は一条校として学習指導要領を踏襲しつつも、独自の教育方針・特色のある指導で教育を行っている。「系列校との幼小一貫教育のため」「系列の大学などでの教育実習の場のため」といったものから、「プリスクール同様に英語などの早期教育を行いたい」「運営母体の宗教の教えに従った子育てを行いたい」「公立よりも意識が高い保護者だけを集めた環境で、切磋琢磨させたい」「両親共働きだからと進学を諦めるのではなく、それをサポートしたい」などが挙げられる。

こういった保護者と幼稚園の互いの要求が一致したところで、入園希望者が募集定員を上回り、幼稚園受験という環境が生まれている[2]

そんな中にも少子化などの社会の波は少しずつ影響を及ぼしており、需要と供給のバランスが崩れて入園希望者が定員割れを起こしたり、園側の環境の変化で子供を受け入れられなくなったりすることで、規模縮小~閉園という展開をたどってしまう園も少なからず存在する[3]

一時期、「保育園に通っていると幼稚園受験・小学校受験に不利だ」という噂がまことしやかに流れたことがあるが、半分は嘘である。幼稚園が気にすることは、保護者が園を十分理解しているか、参加してほしい行事に保護者が出席できるかどうかなどである。両親共働きで保育園に通わせているような家庭は学校行事の参加が難しく、その場合は入園を嫌がられるであろうという推察が発端である。それは実際正しいのだが、共働きが珍しくない昨今では園も柔軟になっている。警察など緊急を要する職業はある程度は仕方ないとはいえ、保護者としては学校行事にはできる限り取り組んでいくし、なるべく都合をつけるように努力する。もし参加できない場合でも子供へのフォローはしっかりと行うという姿勢を示せれば問題はない[4][5][6]

幼稚園の種類[編集]

国立大学附属幼稚園[編集]

国立大学附属学校の系列の幼稚園で、現在の、そして今後の学習指導要領を検証するための実験園として運用される。系列校に進学できるかは園によって異なり、ほぼ全員が進学できるところもあれば、内部考査で合格した者だけの場合や、小学校受験の抽選を免除する程度でほぼ一般受験と同じというところもある。

私学の附属幼稚園[編集]

前述のとおり、幼小一貫教育の実践、早い段階での優秀な幼児の確保、ブランド力の維持、教育実習の場、独自の教育方針の実践などを目的として私学が設置した附属幼稚園である。国立同様、系列校に進学できるかは園によって異なり、内部進学が主流の園と、小学校受験で外部受験をすることが主流の園がある。

私学の人気園[編集]

俗に「受験幼稚園」と呼ばれることもある人気の私学幼稚園群。扱い的には一般的な私学幼稚園と同じである。通っている家庭の多くが小学校受験を想定しており、実質的に受験予備校的な存在になっている園が多い。教育意識が高い保護者が多く、子供を切磋琢磨させて成長させたいという目的で利用している。附属幼稚園同様、独自の教育方針を実践しており、一般的な私学の幼稚園より入試を意識した実践的な保育内容であったり、小学校受験に関する情報を提供したりと、様々なサポートが得られることが多い。受験をするかどうかは別にして、それらの独自の保育を目当てに利用する保護者も見られる。習い事や受験に関して寛容であり、中には「3年保育で入園して1年過ごした後、2年保育で再度幼稚園受験をして別の幼稚園に転園する」というケースもある。
小学校の附属園と違うところは、系列校がないため内部進学という道がそもそもない点である。小学校受験をするか、公立に進学をするかとなる。

入学考査の内容[編集]

入試は、保護者の面接、指示動作ができること、簡単な質問の受け答えや一般常識、行動観察などで構成される。母子分離が出来ており、自立的な態度が身についていることが基本とされる。就学前児童なので、基本的にひらがな数字の読み書きができないことを前提としているのが特徴。幼稚園生活を送るうえで必要な力が身についているかを確かめるものであり、知能指数(IQ)とは直接の関係性はない。

子供の試験結果と受験合否は連動しているもの、必ずしも一致するとは限らない。課題の成績が良い子を上から順に合格者を決めていくのではなく、園の考え次第でまるで扱いが変わるのが幼児の受験の世界である[7]
そもそも幼稚園に入る前の子供なのでできることは限られており、園によって考査の内容は微妙に異なるが、倍率による難易度の差はあれ、考査の難易度が劇的に違うということは少ない。その結果、子供の考査よりはるかに親の考査の方がウェイトが大きく、家庭の教育方針と園の方針が一致しているかや、通わせるだけの安定した経済力があるかなどが厳しく確認され、「幼稚園受験は親の受験」などと言われることもある。

募集人員は少ないことが多く、どんなに準備を入念に行っても不合格となってしまうことが珍しくない。

3年保育で失敗した場合は2年保育で再度受験をしたり、幼稚園受験を諦めて小学校受験で再チャレンジしたりすることがよく見られる。

近年は新型コロナウイルス感染症対策の一環として導入した三菱総研DCSのmiraicompassなどのウェブサイトと、園側の入試手続きの合理化が噛み合い、Web出願を行うところが増えてきている[8]

面接[編集]

ほぼ全ての園で面接を課しており、考査結果に与える影響が最も大きい。面接対象は園により異なるが、親子同時・両親のみのどちらかが多い。
子供に対しての面接は幾つかの質問をしてその受け答えの確認、保護者との面接中に静かに待っていられるかといった様子を見る程度である。重要なのは親の面接で、「志望動機」「家庭の教育方針」「入園後、園の行事にこまめに参加できるのか」「安定した経済力があるか」などが厳しく確認される。

その他[編集]

自由遊び[編集]

数人から十数人の子供を一つの部屋に入れ、玩具や絵本などを置いておき、自由に遊ばせて行動観察を行う。協調性や社会性、基本的な生活習慣を検査するもので、幼稚園での団体生活の基本が身についているかを確かめる。

指示行動・行動観察[編集]

心身の健康状況や指示された行動を取ることが出来るか否かを検査するもので、ボールなどを使用したものや、模倣体操ダンスゲームなどを行う。保護者も参加してままごとなどの親子課題が出されることも珍しくない。

制作[編集]

巧緻性や指示を守ることが出来るか否かを検査するもので、ちぎり絵や絵画などを行う。画用紙クレヨンのり粘土積木などを使用する。

書類審査[編集]

どの幼稚園でも行われる考査であり、記述する内容、園がどこを重要視するかは方針によって様々である。考査のわずかな時間で保護者の素性がどうなのか、信頼できる人なのかを見極めるのは難しいことであり、面接で確認しきれない点をフォローするため、別途身近な人物からの推薦状や身上書の提出を求めることもある。

抽選[編集]

主に国立幼稚園の入学者選抜において実施されるもの。入学考査前・入学考査後、あるいは両方で実施される。出願人数が一定数を超えた場合のみ入学考査前の抽選を行う園もある。考査当日、保護者の前で担当者が抽選器を使用する、中が見えないボックス等の中からカードを取り出すなどでくじを引き、受験番号を元に当選者のみが対象者となる。

推薦[編集]

子供のことをよく知る幼児教室や幼稚園・保育園教師の推薦による考査。
第一希望入試前提であり、この考査での合格者が辞退を行うと、園と推薦者との信用問題となるので注意が必要である。

受験者の資格[編集]

幼稚園受験では、保育年数によって対象が異なる。

  • 3年保育の幼稚園の場合、4月2日から翌年の4月1日までに出生した、入園する年の4月1日時点で満3歳の児童に受験資格がある。
  • 2年保育の幼稚園の場合、4月2日から翌年の4月1日までに出生した、入園する年の4月1日時点で満4歳の児童に受験資格がある。
  • 1年保育の幼稚園の場合、4月2日から翌年の4月1日までに出生した、入園する年の4月1日時点で満5歳の児童に受験資格がある。

子どもが安全に登下校できることが前提条件となることから、何らかの居住範囲の指定をしている園が多い。指定の形式は、「園まで公共交通機関で〇分以内に住んでいること」といった大まかなものから、「現住所が〇〇市××丁目であること」のような詳細なものまでさまざまである。例年の傾向は参考書などで確認できるものの、その年の正確な情報は各園の募集要項や説明会で確認する必要がある。

受験の時期[編集]

比較的同時期に行われる高校受験などと違い、地域や園によって大きく異なる。8月末~9月初頭に受験日があるところがあれば、遅いところでは12月~1月になってからというところもある。二次募集や三次募集も含めれば、尚更期間は広くなる。

試験対策[編集]

幼稚園受験を得意とする幼児教室や個人の教室に子供を通わせることが多い。前述のとおり、幼稚園受験で出題される課題は問題解決力や生活力を問うものが多く、教室で学ぶ内容は勉強というより習い事に近いものになる。受験内容が形式を持たないように、教室のスタイル・教え方もばらばらである。幼稚園受験の教室と、中学受験以上のいわゆる学習塾では決定的に違うところがあり、検討時には注意するべきである。

学習塾と違う点[編集]

新学期は秋[編集]

地域や教室にもよるが、幼稚園受験のピークが初秋~晩秋である関係上、新学期は11月に設定していることが多い。

合格実績の基準がない[編集]

各教室が発表している合格実績には統一的な基準は存在せず、業界標準的なものも存在しない。全国の学習塾で組織され、学習塾が合格実績の基準としてよく用いている全国学習塾協会も、学習塾の定義を「小学生、中学生及び高校生を対象として」(第3条)としており、幼稚園受験をする幼児が通う教室は管轄外となっている[9]

公表している実績に以下のようなケースが含まれている可能性は否定できない。教室によって在籍生徒として数える基準など根本的なところから異なるため、何が真実でどこから誇大広告なのかを見極めることは難しく、公表数字を信用するかどうかについては紳士協定同然と言っても過言ではない。

  • 発表している合格者数で注意するべき点
    • ほとんどの場合、合格者は延べ人数である。一人が複数の園に合格した場合はそれぞれの園でカウントされる。実際に進学する人数ではなく、辞退者も含まれている。定員を超える人数を合格実績として発表している教室も存在する。
    • 通常授業に参加しておらず、何度かテストや講習に参加しただけの人や、体操教室や絵画教室などのクラスだけを利用していた人を含んでいる可能性がある。
    • 通常授業に参加しておらず、一定額の料金を支払ったり、Webサイトから登録したりすることで講習などの予約が有利になる制度を利用していただけの人(準会員、Web会員など)を含んでいる可能性がある。
    • 一時期利用していたものの、受験をするずっと前に辞めている人を含んでいる可能性がある。
    • 補欠合格者として発表されただけで、繰り上がっていない人を含んでいる可能性がある。
    • 国立幼稚園の入試で、考査は合格したものの抽選で不合格となった方について、「教室としてできるところはやった。抽選は別問題」として実績に含んでいる可能性がある。
    • 『この園に合格率100%』という広告は、教室がその園に出願するとわかっていた保護者に結果を尋ねたところ100%だっただけであって、教室が把握していない受験者の有無、不合格だったものの担当者の顔色を窺って「合格しました」と嘘を伝えたかどうかはわからない。出願名簿、合格者名簿は個人情報であり公開されないため、教室には正確に確認する術はない。

クーリングオフは基本的にできない[編集]

特定商取引に関する法律が定める特定継続的役務提供での学習塾の範囲は『学校教育の補習のための児童、生徒又は学生を対象とした学力の教授』としており、学校教育を学ぶものではない教室は該当しない。このため、幼稚園受験に備える教室はクーリングオフの対象外である[10]。ただし、法律上では認められなくても教室の独自判断で認めていることがある。

脚注[編集]

関連項目[編集]

  • 文京区幼女殺人事件(音羽お受験殺人事件) - 「お受験」に関するトラブルが犯行動機だったとして報道され、「お受験」がクローズアップされた。

お受験(小学校受験・幼稚園受験)をモデルにした創作物[編集]

外部リンク[編集]