モンテプルチャーノ (ブドウ)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
モンテプルチャーノ
ブドウ (Vitis)
アブルッツォ州で栽培されるモンテプルチャーノ種ブドウの果房
紫色
ヨーロッパブドウ
別名 別名節を参照
原産地 イタリアの旗 イタリア
主な産地 トスカーナ州アブルッツォ州ほかイタリア中部・南部
主なワイン モンテプルチャーノ・ダブルッツォ
VIVC番号 7949
テンプレートを表示

モンテプルチャーノ (Montepulciano) はイタリア赤ワイン用ブドウ品種であり、統制保証付原産地呼称 (D.O.C.G.) 認定ワインのモンテプルチャーノ・ダブルッツォ・コッリーネ・テラマーネ (Montepulciano d'Abruzzo Colline Teramane) やロッソ・コーネロ (Rosso Conero) 、統制原産地呼称 (D.O.C.) 認定ワインのモンテプルチャーノ・ダブルッツォ (Montepulciano d'Abruzzo) 、ロッソ・ピチェーノ・スペリオーレ (Rosso Piceno Superiore) などによって非常に有名である。

名称の似たトスカーナ・ワインのヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノと混同してはならない。こちらは原料主体がサンジョヴェーゼであり、その名称はモンテプルチャーノ種がブレンドされているからではなく、生産地の村に由来しているためである。

このブドウはイタリア中部・南部各地で広く栽培され、なかでもアブルッツォ州ラツィオ州マルケ州モリーゼ州ウンブリア州プッリャ州で顕著である。100前後あるイタリア全県のうち、20県のD.O.C.ワインでこの品種の使用が許可されている。モンテプルチャーノは成熟が遅い傾向があり、収穫が早すぎると極度に未熟になってしまうこともあるため、イタリア北部で見られることは稀である。

完熟した場合、モンテプルチャーノは色味の深いワインを生み出すことが可能であり、中程度のおよび高濃度の抽出物 (エキス)アルコールをもつ[1]

発祥・原産および他の「モンテプルチャーノ」ワインとの混同[編集]

イタリア国内におけるモンテプルチャーノ種の栽培地域

ワイン専門家のジャンシス・ロビンソンによると、モンテプルチャーノ種の原産地はトスカーナ地方である可能性が高く、混同されることの多いサンジョヴェーゼと類縁関係にあるかもしれないという。発祥に関してこうした可能性があるにもかかわらず、ブドウ品種のモンテプルチャーノはその名を冠しヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノを生産するとは、ロビンソンが「言語学的なもの」と呼ぶ以上の物的なつながりは一切なさそうである[2][3]。さらに、モンテプルチャーノ種はイタリア中部で広く栽培されているものの、当のモンテプルチャーノの村周辺のブドウ畑では栽培されていない[4]

ワイン生産地域[編集]

モンテプルチャーノはサンジョヴェーゼに次いでイタリアで栽培地域が2番目に広い土着品種である。100前後あるイタリア全県のうち20県で栽培が推奨されており、プッリャ州、モリーゼ州、ラツィオ州、ウンブリア州、マルケ州、エミリア=ロマーニャ州、アブルッツォ州、トスカーナ州のD.O.C.認定赤ワインには、このブドウの使用が許可もしくは必要とされているものがある。モンテプルチャーノ使用のD.O.C.認定ワインのなかで非常に有名なのは、アブルッツォ州のモンテプルチャーノ・ダブルッツォ、マルケ州のオッフィーダ・ロッソDOCG、ロッソ・コーネロ、ロッソ・ピチェーノである。カステル・デル・モンテDOCではウーヴァ・ディ・トロイアに次ぐ二次的な品種だが、ワイン専門家のジャンシス・ロビンソンによれば、そのブレンドに寄与するモンテプルチャーノの性格はひょっとすると「もっとも見事に体現されている」かもしれないという[2]

D.O.C.認定ワインおよびD.O.C.G.認定ワイン[編集]

以下の一覧に含まれるのは、モンテプルチャーノの使用が認められているD.O.C.およびD.O.C.G.認定ワインであり、D.O.C.およびD.O.C.G.表記の規格に則った割合でブレンドに入れることのある他品種も併記している。モンテプルチャーノを50%以上使用しなければならないものは太字で示してある[5]

日本語表記 イタリア語表記 DOC/

DOCG

ブレンドの基準(ブレンド規格対象の品種)
アレツィオ Alezio DOC プッリャ ネグロアマーロ、サンジョヴェーゼ、マルヴァジア
ビフェルノ Biferno DOC モリーゼ モンテプルチャーノ60-70%が必要。アリアニコ、(ロゼおよび赤の場合)トレッビアーノ・トスカーノ
ブリンディジ Brindisi DOC プッリャ ネグロアマーロ、サンジョヴェーゼ、マルヴァジア
カッチェ・ミッテ・ディ・ルチェーラ Cacc'e mmitte di Lucera DOC プッリャ スマレッロ、サンジョヴェーゼ、マルヴァジア、トレッビアーノ、ボンビーノ・ビアンコ
カステル・デル・モンテ Castel Del Monte DOC プッリャ ウーヴァ・ディ・トロイア、サンジョヴェーゼ、アリアニコ、ピノ・ノワール
カステッリ・ロマーニ Castelli Romani DOC ラツィオ チェザネーゼ、メルロー、サンジョヴェーゼ、ネロ・ブォーノ
チェルヴェーテリ Cerveteri DOC ラツィオ サンジョヴェーゼ、チェザネーゼ、カナイオーロ・ネロ
チェザネーゼ・ディ・オレヴァーノ・ロマーノ Cesanese di Olevano Romano DOC ラツィオ チェザネーゼ、サンジョヴェーゼ、バルベーラ、トレッビアーノ、ボンビーノ・ビアンコ
コッリ・アメリーニ Colli Amerini DOC ウンブリア サンジョヴェーゼ、チリエジョーロ、カナイオーロ、メルロー、バルベーラ
コッリ・エトルスキ・ヴィテルベージ Colli Etruschi Viterbesi DOC ラツィオ サンジョヴェーゼ
コッリ・マチェラテージ Colli Maceratesi DOC マルケ サンジョヴェーゼ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、チリエジョーロ、ラクリマ、メルロー、ヴェルナッチャ・ネーラ
コッリ・マルターニ Colli Martani DOC ウンブリア サンジョヴェーゼ、カナイオーロ、チリエジョーロ、バルベーラ、メルロー、トレッビアーノ、グレケット、マルヴァジア、ガルガーネガ、ヴェルディッキオ
コッリ・ペルジーニ Colli Perugini DOC ウンブリア サンジョヴェーゼ、チリエジョーロ、バルベーラ、メルロー
コッリ・ペザレージ Colli Pesaresi DOC マルケ サンジョヴェーゼ、チリエジョーロ
コッリ・ディ・リミニ Colli di Rimini DOC エミリア=ロマーニャ サンジョヴェーゼ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、バルベーラ、テッラーノ、アンチェロッタ
コッリ・ロマーニャ・チェントラーレ Colli Romagna Centrale DOC エミリア=ロマーニャ カベルネ・ソーヴィニヨン、サンジョヴェーゼ、バルベーラ、メルロー
コッリ・デッラ・サビーナ Colli della Sabina DOC ラツィオ サンジョヴェーゼ
コーネロ Conero DOCG マルケ モンテプルチャーノ85-100%。サンジョヴェーゼ
コントログエッラ Controguerra DOC アブルッツォ モンテプルチャーノ60%以上。メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン
コペルティーノ Copertino DOC プッリャ ネグロアマーロ、マルヴァジア、サンジョヴェーゼ
コーリ Cori DOC ラツィオ ネロ・ブォーノ、ボンビーノ・ネロ
エシーノ Esino DOC マルケ モンテプルチャーノ60%以上。サンジョヴェーゼほか地元品種
ジョイア・デル・コッレ Gioia del Colle DOC プッリャ プリミティーヴォ、サンジョヴェーゼ、ネグロアマーロ、マルヴァジア
ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ Lacrima di Morro d'Alba DOC マルケ ラクリマ、ヴェルディッキオ
レヴェラーノ Leverano DOC プッリャ ネグロアマーロ、マルヴァジア、サンジョヴェーゼ
リッツァーノ Lizzano DOC プッリャ ネグロアマーロ、サンジョヴェーゼ、ボンビーノ・ネロ、ピノ・ノワール 、マルヴァジア
モンテプルチャーノ・ダブルッツォ Montepulciano d'Abruzzo DOC アブルッツォ モンテプルチャーノ85%以上。サンジョヴェーゼ
モンテプルチャーノ・ダブルッツォ・コッリーネ・テラマーネ Montepulciano d'Abruzzo Colline Teramane DOCG アブルッツォ モンテプルチャーノ85%以上。サンジョヴェーゼ
ナルド Nardo DOC プッリャ ネグロアマーロ、マルヴァジア
オッフィーダ Offida DOCG マルケ モンテプルチャーノ50%以上。カベルネ・ソーヴィニヨン
オルタ・ノーヴァ Orta Nova DOC プッリャ ウーヴァ・ディ・トロイア、ランブルスコ・マエストリ、トレッビアーノ
パッリーナ Parrina DOC トスカーナ サンジョヴェーゼ、カナイオーロ、コロリーノ
ペントロ・ディ・イセルニア Pentro di Isernia DOC モリーゼ モンテプルチャーノ45-55%。サンジョヴェーゼ
ロッソ・バルレッタ Rosso Barletta DOC プッリャ ウーヴァ・ディ・トロイア、サンジョヴェーゼ、マルベック
ロッソ・カノーサ Rosso Canosa DOC プッリャ ウーヴァ・ディ・トロイア、サンジョヴェーゼ
ロッソ・ディ・チェリニョーラ Rosso di Cerignola DOC プッリャ ウーヴァ・ディ・トロイア、ネグロアマーロ、サンジョヴェーゼ、バルベーラ、マルベック、トレッビアーノ
ロッソ・コーネロ Rosso Conero DOC マルケ モンテプルチャーノ85-100%。サンジョヴェーゼ
ロッソ・オルヴィエターノ Rosso Orvietano DOC ウンブリア アレアティコ、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、カナイオーロ、チリエジョーロ、メルロー、ピノ・ノワール 、サンジョヴェーゼ、バルベーラ、チェザネーゼ、コロリーノ、ドルチェット。稀ながらモンテプルチャーノ85%のものも存在する
ロッソ・ピチェーノ Rosso Piceno DOC マルケ サンジョヴェーゼ、トレッビアーノ、パッセリーノ
サン・セヴェーロ San Severo DOC プッリャ モンテプルチャーノ70-100%。サンジョヴェーゼ
タルクイーニア Tarquinia DOC ラツィオ サンジョヴェーゼ60%以上。チェザネーゼ
トルジャーノ Torgiano DOC ウンブリア サンジョヴェーゼ、カナイオーロ、トレッビアーノ、チリエジョーロ
トルジャーノ・ロッソ・リゼルヴァ Torgiano Rosso Riserva DOCG ウンブリア サンジョヴェーゼ、カナイオーロ、トレッビアーノ、チリエジョーロ
ヴェッレトリ Velletri DOC ラツィオ サンジョヴェーゼ、チェザネーゼ、ボンビーノ・ネロ、メルロー、チリエジョーロ
ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ Vernaccia di Serrapetrona DOCG マルケ ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ、サンジョヴェーゼ、チリエジョーロ

注) 「マルヴァジア」はマルヴァジア・ネーラを指す

ブドウ栽培およびワインの特徴[編集]

アブルッツォ州産のモンテプルチャーノ種から作られた、モンテプルチャーノ・ダブルッツォのワイン

モンテプルチャーノは成熟が遅く、収量が多い傾向がある。果粒は丸々としていて果皮/果汁比は低いといえる。しかしながら、果皮には色素タンニンや発色に寄与するフェノール化合物がかなりの量含まれているため、マセレーション英語版 (浸漬) の過程で深いルビー色のワインもしくはピンク色のチェラスオーロ英語版を生み出すことができる[2]。イタリアのほとんどの品種と比べ、モンテプルチャーノはがほどよく控えめで、タンニンは角の立った渋みというよりも、まろやかなものである[3]。ワイン専門家のオズ・クラーク英語版は、モンテプルチャーノが生み出すのは「丸くふくよかで、どっしりとした赤ワインであり、熟したタンニンと良質の酸、そして低価格を持ち合わせている」と言い表している[6]。ジャンシス・ロビンソンはモンテプルチャーノのことを、収穫年 (ヴィンテージ) の3、4年後で向上し、なめらかな飲み頃のワインを生み出す「有望な品種」だと評価している[2]

別名[編集]

モンテプルチャーノ種およびそのワインには、さまざまな別名が使われている:コルディシオ (Cordiscio) 、コルディスコ (Cordisco) 、コルディジオ (Cordisio) 、モンテ・プルチャーノ (Monte Pulciano) 、モンテプルチャーノ・コルデスコ (Montepulciano Cordesco) 、モンテプルチャーノ・ディ・トッレ・デ・パッセリ(Montepulciano di Torre de Passeri) 、モンテプルチャーノ・プリマティコ (Montepulciano Primatico) 、モレッローネ (Morellone) 、プレムティコ (Premutico) 、プリマティッチョ (Primaticcio) 、プリムティコ (Primutico) 、サンジョヴェーゼ・カルディスコ (Sangiovese Cardisco) 、サンジョヴェーゼ・コルディスコ (Sangiovese Cordisco) 、サンジョヴェット (Sangiovetto) 、トッレ・デイ・パッセリ (Torre dei Passeri) 、ウーヴァ・アブルッツェーゼ (Uva Abruzzese) 、ウーヴァ・アブルッツィ (Uva Abruzzi)[7]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ J. Robinson Jancis Robinson's Guide to Wine Grapes p. 112 Oxford University Press 1996 ISBN 0-19-860098-4
  2. ^ a b c d J. Robinson Vines, Grapes & Wines p. 212 Mitchell Beazley 1986 ISBN 1-85732-999-6
  3. ^ a b Montepulciano d’Abruzzo: A Wonderful Red Wine from the Region of Abruzzo”. 2018年12月27日閲覧。
  4. ^ Jancis Robinson (ed) The Oxford Companion to Wine Third Edition p. 450 Oxford University Press 2006 ISBN 0-19-860990-6
  5. ^ P. Saunders Wine Label Language pp. 119–215 Firefly Books 2004 ISBN 1-55297-720-X
  6. ^ Oz Clarke Encyclopedia of Grapes p. 139 Harcourt Books 2001 ISBN 0-15-100714-4
  7. ^ Montepulciano”. Vitis International Variety Catalogue (VIVC). 2018年12月27日閲覧。