マリコ・タマキ

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マリコ・タマキ
Mariko Tamaki
誕生 1975年(48 - 49歳)
カナダの旗 カナダオンタリオ州トロント
職業 漫画原作者作家パフォーマンスアーティスト
国籍 カナダ
活動期間 2000年代 -
代表作 Skim(『GIRL』)
This One Summer(『THIS ONE SUMMER』)
Laura Dean Keeps Breaking Up with Me
公式サイト www.marikotamaki.com
ウィキポータル 文学
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マリコ・タマキ: Mariko Tamaki1975年 - )は、カナダコミック原作者、作家、パフォーマンスアーティスト。2020年アイズナー賞最優秀原作者のほか、ヤングアダルト文学の賞であるマイケル・L・プリンツ賞オナーをグラフィックノベル作品によって2度受けている。散文の小説やノンフィクションでも知られる[1]。2016年からはアメリカの二大コミック出版社マーベル・コミックスDCコミックスの両方で原作者として活動している。

生い立ち・学歴[編集]

カナダオンタリオ州トロントにおいて日系カナダ人ユダヤ系カナダ人英語版の家系に生まれる[2]。子供のころは『ニムの秘密』のようなファンタジー映画やテレビアニメ『トランスフォーマー』を好んでおり、見たシーンを自身で演じるのも好きだった。児童文学では少女探偵物「トリクシー・ベルデン英語版」、地元トロントの作家による「ブッキー英語版」シリーズ、『クローディアの秘密』など、今ではそれほど知られていない作品を愛読していた[3]

女子中等学校ハヴァーガル・カレッジ英語版から[4]マギル大学に進学し、英文学を学んで1994年に卒業した[5]。その後女性学で修士号を取得し[6]トロント大学のPh.Dコースで言語人類学を研究した[7]。トロント大学でクリエイティブ・ライティングを教えることもある[6]

同性愛者であることを公開しており、自作には必ずクィアや人種的に多様なキャラクターを登場させている[8]

経歴[編集]

初期の活動[編集]

トロントでパフォーマンスアートの脚本家・演者として活動を始める[3]。アーティストとしてはキース・コール英語版の「チープ・クィアーズ」に出演したり、プリティ・ポーキー・アンド・ピスト・オフ英語版というファット・アクセプタンス運動英語版のグループを立ち上げて公演を行ったりしている[9]

2000年に最初の小説『カバー・ミー』を出版した[10]。自傷の問題を抱え周囲になじめないでいるティーンの少女が主人公である。「抑うつと向き合う思春期を描いた痛切な物語」と評されており、フラッシュバックの連続で語られている[11]

グラフィックノベル原作[編集]

イラストレーターの従妹ジリアン・タマキ英語版と共作したグラフィックノベル第1作『スキム英語版』は2008年にグラウンドウッド・ブックス英語版 から刊行された(邦訳『GIRL』2009年)[12]。二人はそれまでコミック制作の経験はなく、互いに親交もなかったが、タマキの思い付きから始まった作品は大きな成功を収めることになった[6]。『スキム』はオカルトに傾倒する太り気味の日系女子高生を主人公とした「陰影に富んだ成長物語」[12]である[13]。スキムは同性の教師に恋心を抱いたり、美人の同級生と親しくなったことで本来の友人と疎遠になったりするが、それらのドラマは明確には解決されない。文学者ジゼル・バクスターは本作が「身をよじるような苦痛を伴う変化の時期を過ごすことについて、… そして、どこかに所属する必要とそれに抗う心の衝突について」の作品だと書いている[14]。主人公のクィアネスは、作者タマキによると主題の中心というわけではない。「『スキム』は若さについて、そこに内包されうるあらゆる奇妙な体験についての物語だと思っています」[15]。プロットは最小限、セリフは簡潔であり、ある評者によると「表現主義的で流れるような白黒のイラストレーションが長々とした散文の代役を果たしている」[14]。タマキが語るところでは、作風の上でエルジェイゴルトイタリア語版ヴィットリオ・ジャルディーノイタリア語版のような漫画家、さらにアジアの作品から影響を受けているものの、ルーツはダニエル・クロウズチェスター・ブラウン英語版ウィル・アイズナーのようなアメリカンコミックだという[16]

次作『エミコ・スーパースター』は作画家スティーヴ・ロルストン英語版との共作で、2008年にDCコミックスの少女向けレーベルMinx英語版から刊行された[17]。パフォーマンスアートやモントリオールオープンマイクイベント「ガールスピット」(Girlspit) に触発された作品で[15]、郊外での生活に物足りなさを感じていた主人公エミコはパフォーマンスアートの公演に足を運んで感銘を受け、自身も演者になろうとする。「カウンターカルチャー界の虚名に飲み込まれながら、本当の自己、心の声、本性を見つけ出す物語」と評されている[18]

2014年、再びジリアン・タマキと組んで『ディス・ワン・サマー英語版』をファーストセコンド・ブックス英語版から出版した(邦訳『THIS ONE SUMMER』、2021年)。カナダの湖畔を舞台に、毎年の夏休みを隣同士のコテージで過ごす二人の女の子、ローズとウィンディが主人公となる[6]。思春期の入り口に差し掛かった子供の視点から[19]、地元の青年への一方的な思慕や、ローズの両親の間のわだかまりなど、周囲の大人たちを含めたリアルで繊細な人間関係が描かれている[6]

ローズマリー・ヴァレロ=オコンネル英語版と共作した『ローラ・ディーン・キープス・ブレーキング・アップ・ウィズ・ミー英語版』は2019年にファーストセコンドから刊行された[20]。レズビアンの女子高生フレディは学校で最も人気があるローラ・ディーンと付き合っているが、移り気で不実な言動に引き込まれるあまり、別の親友との間に距離を生じてしまう[21]野中モモによると、「カミングアウトするか否かや同性愛嫌悪に苦悩する必要はもうそれほどないカリフォルニア州バークレーの進歩的な環境」を舞台にした思春期の恋愛物語である[22]。タマキはこの作品について、完璧な相手と出会って終わる物語ではなく、心から惹かれる一方で自分にとって有害な相手との関係を主題にしたかったと語っている[3]

メジャーコミック出版社での活動[編集]

2016年からはスーパーヒーロー・コミックの原作を手掛け始めた。マーベル・コミックスでは『ハルク』誌の派生キャラクターであったシーハルクが「ハルク」の名で活躍するストーリーアークに起用された[23]DCコミックスではミニシリーズ『スーパーガール: ビーイング・スーパー』を書いた。そのほかマーベルのX-23英語版など、キャラクターの内面に焦点を当てたストーリーラインを多く手掛けている[3]

2017年、ブーム!スタジオズ英語版のコミックシリーズ『ランバージェーンズ英語版』のノベライズを書き始めた[24]

2019年11月、再びマーベルで全4号のミニシリーズ『スパイダーマン&ヴェノム: ダブル・トラブル』の原作を書いた[25](邦訳2021年)。

2021年8月、DCコミックスのヤングアダルト向け書き下ろしグラフィックノベルシリーズの一冊として『アイ・アム・ノット・スターファイヤー』が出た[26]。作画はヨシ・ヨシタニによる。DCコミックスの他作品とはストーリー的に独立した一冊で、主人公マンディ・コリアンダーはティーン・タイタンズの一員として名高いスターファイヤーの娘である。母親と正反対の性格のマンディは周囲から色眼鏡で見られて孤立し、母への反発、セクシュアリティの混乱、進路の悩みに立ち向かう[27][28]

2021年にはDCコミックスの「フューチャー・ステート英語版」イベントの一環として作画家ダン・モーラと組んで『ダーク・ディテクティブ』を書いた。同誌は1月から2月にかけて全4号が刊行された。続く3月にタマキとモーラは『ディテクティブ・コミックス』(バットマンの本誌)第1034号から新しくレギュラー制作チームとなった。ウェブメディアCBRによると、同誌の長い歴史の中で最初の女性レギュラー原作者である[29]

2019年、エイブラムス・ブックス英語版でシュアリー・ブックスというインプリントを起ち上げ、キュレーター・編集者の役割に就いた。ノンジャンルでLGBTQIAの作家や作品を扱うグラフィックノベルのレーベルで、2021年から刊行が始められた[8][30]

受賞[編集]

『スキム』は2009年にイグナッツ賞ジョー・シュースター賞英語版ダグ・ライト賞英語版を受賞し、カナダ総督文学賞英語版児童文学部門にノミネートされた。2012年には同作などによりLGBT作家を対象とするカナダのデイン・オジルビー賞英語版栄誉賞を受けた[31]

『ディス・ワン・サマー』は2014年イグナッツ賞にノミネートされ[32]、2015年にはマイケル・L・プリンツ賞オナーとアメリカ図書館協会コールデコット賞を受けた。翌年にはドイツのルドルフ・ディルクス賞を青春ドラマ・成長物語部門で受賞した。

2019年、『ローラ・ディーン・キープス・ブレーキング・アップ・ウィズ・ミー』でイグナッツ賞グラフィックノベル部門[33]ハーベイ賞児童・ヤングアダルト部門を受賞した[34]。翌年には2度目となるマイケル・L・プリンツ賞オナーを受け[35]、多様性の推進を掲げるウォルター・ディーン・マイヤーズ児童文学賞をティーン部門で受賞した[36]。2020年アイズナー賞では同作でティーン向け部門を受賞しただけでなく、同作および『ハーレイ・クイン: ブレーキング・グラス』『アーチー英語版』で最優秀原作者に輝いた[37]

作品[編集]

小説[編集]

  • Cover Me (2000, ISBN 9780969806493)
  • (You) Set Me on Fire (2012, ISBN 9780143180937)
  • Saving Montgomery Sole (2016, ISBN 9781626722712)
  • Lumberjanes(ノベライズ)

エッセイ[編集]

コミック原作[編集]

オリジナル

マーベル・コミックス

DCコミックス

ダークホース・コミックス

脚注[編集]

  1. ^ Mariko Tamaki”. The Oakland Artists Project. 2021年11月6日閲覧。
  2. ^ “Tamaki no fake”. NOW. (2005年6月30日). オリジナルの2014年1月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140112084638/https://nowtoronto.com/books/story.cfm?content=148090 2021年11月7日閲覧. "The title of this collection of essays reflects a theme in Tamaki’s work: the paradox of her identity. She’s half Jewish and half Japanese, which translates as "Asian" to ignorant people." 
  3. ^ a b c d Why writing realistic teenage stories and comic books is important to Mariko Tamaki”. CBC (2019年6月27日). 2021年11月6日閲覧。
  4. ^ Cole (2001年1月11日). “Mariko Tamaki”. nowtoronto.com. 2021年11月7日閲覧。 “Havergal (Tamaki’s alma mater)”
  5. ^ As comics become a cultural force, McGill graduates are making their mark”. McGill News (2009年6月17日). 2014年1月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年11月7日閲覧。 “It’s a safe bet that no one was more surprised by MARIKO TAMAKI’s sudden, overnight success in the comics realm than Tamaki, BA’94, herself.”
  6. ^ a b c d e Summer Blues: Mariko Tamaki and Jillian Tamaki”. Publishers Weekly (2014年4月11日). 2021年11月6日閲覧。
  7. ^ Skim, a beautiful graphic novel”. Xtra. 2021年11月6日閲覧。
  8. ^ a b Queer comic creator and Surely Books founder Mariko Tamaki is tired of diversity panels”. SYFY WIRE (2021年7月1日). 2021年11月20日閲覧。
  9. ^ Indie Comics Spotlight: Surely Books founder Mariko Tamaki is tired of diversity panels”. SYFY. 2021年11月1日閲覧。
  10. ^ Cover Me”. Quill and Quire. 2021年11月6日閲覧。
  11. ^ Muser, Ilyse (October 2001). “Review of Cover Me”. Journal of Adolescent and Adult Literacy 45 (2): 171. 
  12. ^ a b Skim: Tales of a Teenage Wicca”. Publishers Weekly (2008年3月3日). 2021年11月6日閲覧。
  13. ^ Capturing the complexity of Kim's world”. The Irish Times. 2021年11月6日閲覧。
  14. ^ a b Baxter, Gisele M. (Winter 2009). “The School of Life”. Canadian Literature 203: 133–134. 
  15. ^ a b Whittal, Zoe (Fall 2008). “Graphic Scenes”. Herizons 22 (2): 37–39. 
  16. ^ “Skim: Book Review”. Kirkus Reviews 76 (23): 18. (1 December 2008). 
  17. ^ Emiko Supersutar”. Steve Rolston. 2021年11月3日閲覧。
  18. ^ Gorman, Michele (March–April 2009). “Getting Graphic: Comic Chick Lit”. Library Media Connection 27 (5): 42. 
  19. ^ This One Summer”. Kirkus (2014年5月6日). 2021年11月6日閲覧。
  20. ^ Laura Dean Keeps Breaking Up With Me”. us.macmillan.com. 2019年9月25日閲覧。
  21. ^ The best comics of 2019”. Polygon (2019年12月30日). 2021年11月7日閲覧。
  22. ^ 野中モモ (2020年8月8日). “北米漫画界を前に進めるクィア・パワー:『ハーレイ・クイン:ガールズ・レボリューション』とマリコ・タマキ──「モダン・ウーマンをさがして」第32回”. GQ JAPAN. 2021年11月16日閲覧。
  23. ^ Marvel Announces New Jennifer Walters Hulk Series”. CBR (2016年9月19日). 2021年11月7日閲覧。
  24. ^ See an Exclusive Look at the Cover for the First 'Lumberjanes' Novel”. Meredith (2017年3月1日). 2021年11月7日閲覧。
  25. ^ Venom Finally Gets His Own Theme Song in Spider-Man & Venom: Double Trouble #1 [Preview]” (2019年11月3日). 2021年11月7日閲覧。
  26. ^ Johnson (2020年11月30日). “Meet Starfire's Gay Goth Daughter Mandy, in I Am Not Starfire YA OGN”. Bleeding Cool. 2020年12月6日閲覧。
  27. ^ DC's I Am Not Starfire Soars Above and Beyond Expectations”. ScreenRant. 2021年11月3日閲覧。
  28. ^ Starfire's Daughter Mandy Introduced in New DC Graphic Novel”. ScreenRant. 2021年11月3日閲覧。
  29. ^ Mariko Tamaki Is Detective Comics' First Long-Term Female Writer”. CBR (2020年12月6日). 2021年11月7日閲覧。
  30. ^ New Imprint for Graphic Novels Aims to Increase the Presence of Queer Authors”. The New York Times (2019年10月3日). 2021年11月20日閲覧。
  31. ^ Amber Dawn receives Writers’ Trust Dayne Ogilvie Prize for LGBT Authors”. The Book and Periodical Council. 2021年11月3日閲覧。
  32. ^ Canva (2014年8月18日). “SMALL PRESS EXPO: Here are your nominees for the 2014 SPX Ignatz Awards…”. The Washington Post. 2014年8月18日閲覧。
  33. ^ MacDonald (2019年9月16日). “'Laura Dean Keeps Breaking Up With Me' leads 2019 Ignatz Award winners”. comicsbeat.com. 2019年9月25日閲覧。
  34. ^ Arrant (2019年10月5日). “And the Winners of the 2019 HARVEY AWARDS are...”. Newsarama. 2021年11月7日閲覧。
  35. ^ Michael L. Printz Winners and Honor Books”. Young Adult Library Services Association. 2021年11月4日閲覧。
  36. ^ We Need Diverse Books Names 2020 Walter Dean Myers Award Winners”. School Library Journal. 2021年11月3日閲覧。
  37. ^ And the winners of the 2020 Will Eisner Comic Industry Awards are...”. Newsarama (2020年7月25日). 2020年8月3日閲覧。
  38. ^ NYCC: Tamaki Sends Lara Croft on New Adventures in "Tomb Raider II" Series”. comicbookresources.com (2015年10月8日). 2021年11月7日閲覧。

外部リンク[編集]