ファイブ・ポインツ

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ファイブ・ポインツの正面と側面
ファイブ・ポインツの背面

ファイブ・ポインツ (5 Pointz) と通称される、インスティテュート・オブ・ハイアー・バーリン (The Institute of Higher Burnin)[1]、ないし、ファイブ・ポインツ・エアロゾル・アート・センター (the 5Pointz Aerosol Art Center, Inc.) は、アメリカ合衆国ニューヨーク市クイーンズ区ロング・アイランド・シティにかつて存在した、世界最高の「落書きのメッカ (graffiti Mecca)」とされる屋外芸術展示空間(壁画で覆われたビル)である。

概要[編集]

近景

ファイブ・ポインツという名称は、ニューヨーク市の5つの行政区 がひとつになるという意味である。

この建物はJackson Avenueを挟んだMoMA PS1 (en) の向かいに位置し、ニューヨーク市地下鉄7 <7> 系統の列車IRTフラッシング線コート・スクエア駅からマンハッタン方面に少し出たあたりからよく見ることができた[2]。世界中からやってきたエアロゾルスプレー缶)のアーティストたちが工場跡の建物の壁面200,000-平方フート (19,000 m2)に色鮮やかな作品を描いていた[3]

ロングアイランドの開発事業者ジェリー・ウォルコフ (Jerry Wolkoff) と息子のデービッド・ウォルコフ (David Wolkoff) が所有するこの一帯の施設は、クレーン・ストリート・スタジオ (Crane Street Studios) と称され、200人のアーティストたちに対して、スタジオ空間が市場の相場よりも低廉に提供されていた。2009年の時点で、450-平方フート (42 m2)のスタジオの賃料月額は600ドルであった[4]

2011年3月に、ウォルコフは、高層住宅棟群を建設する再開発計画を発表し、ファイブ・ポインツは解体される運びとなった[5]。この再開発プロジェクトは、新しいビルの多くのスペースをグラフィティ専用に利用することを盛り込んでいる[6]。2014年2月より解体作業が始まり、2015年1月末にはこの敷地は完全に更地となった。

歴史[編集]

この建物は元々1892年にNeptune Meter社によって水道メーターの製造工場として建設された[2][7][8]

この工場は1970年代にジェリー・ウォルコフによって買収され[2][8]、1990年代になってアーティストたちが合法的にグラフィティ活動ができる場所として貸し出された[2]。この利用目的の下、1993年にパット・ディリリョ (Pat DiLillo) によって「ファン・ファクトリー (Phun Phactory)」が開設された。これは、グラフィティ・アーティストたちに正式な発表の機会を提供することで落書きによる破壊活動 (graffiti vandalism) の抑制を目指していた、グラフィティ・テーミネーターズ (Graffiti Terminators) という取り組みの一環であった[9]

2002年、「Meres」名義で活動していたジョナサン・コーエン (Jonathan Cohen) が、キュレーターを務めはじめた[10]。コーエンが知らないアーティストが活動する場合には、事前に作品見本の提出が求められ、壁画大の作品制作が予定された場合にはレイアウトの提出も求められた[10]。この頃にコーエンによって"5 Pointz"という名称が付けられ、後に有名になった[8]。彼はこの建物をグラフィティ・ミュージアムにする計画を持っていた[3]。グラフィティ界における中心的存在としての評判が高まった結果、この工場跡は、世界中のエアロゾル・アーティストたちの作品が集まることとなった。カナダスイスオランダ日本ブラジルや、アメリカ合衆国全土から、伝説的な描き手がやって来て、建物の壁面を飾ったが、その中には Stay High 149、Tracy 168、Cope2、Part、SPE、Tats Cru らが含まれていた。

2009年4月、ニューヨーク市建築局は、許可なく設置されたスタジオのパーティションなどを含め、建物に様々な問題が検査によって見つかったとして、最大の建物の閉鎖を命じた。この検査は、2009年4月10日に、コンクリート製の避難階段の一部が崩落し、アーティストが怪我をしたことを受けて行なわれたものであった[4]

2013年8月21日、ニューヨーク市都市計画局 (New York City Planning Commission) は満場一致でファイブ・ポインツを解体し新しいコンドミニアムに建て替える計画を承認した。この再開発計画では、二棟のタワーマンションが建てられ、小売り施設も入居する予定である。デベロッパーのデービッド・ウォルコフは2013年末までに解体したいと公表していた[11]。2013年10月9日、ニューヨーク市議会は満場一致で$400ミリオンの開発計画を承認した。この計画では、1,000ユニットのアパートと210ユニットの低価格住宅が設けられることになっている。また、10,000-平方フート (930 m2)のパネルと壁がアート専用に、さらに一階のファサードはグラフィティ専用に利用されることになっている[12][6]

2013年11月19日、TimeOut New Yorkはファイブ・ポインツのグラフィティは前夜のうちに白く塗りつぶされたことを報じた[13]。ファイブ・ポインツのツイッターアカウントもこの事実を報告した[14]。ファイブ・ポインツを保護するための制作者たちによる訴訟や2013年11月16日に行われた嘆願書名を集めるための集会もむなしく、この再開発者サイドによる白塗りはファイブ・ポインツがまもなく解体されることを知らしめた[15]。この作業は、夜中の1時から朝7時まで、部外者の闖入を阻止するため警察たちが見守る中で行われた[16]。2013年11月20日、ある連邦判事はこの予告無しの白塗りはウォルコフ・ファミリーによるアーティストたちへの損害賠償が生じる可能性を述べる判決を出した[17]

この建物の解体作業の第一段階として、アスベスト除去処理が2014年2月に始まった。この作業期間中、都市グループが建物の内装の映像記録を行った[18]。 ファイブ・ポインツ解体のニュースはアーティストたちに否定的に受け止められた。少なくとも二つの抗議アートが白塗りされたビルに対して行われた。2014年2月3日、"Art Murder"(アート殺し)と青と赤の文字で大きくビルの側面に描かれた[19]。2014年3月10日、"Gentrification In Progress"(高級化現象進行中)と書かれた大きな黄色い垂れ幕がビルの周囲を覆った[20][21][22]。 2014年11月の時点でメインの建物は完全に解体され[23][24]、2015年1月には隣接する建物も完全に解体され、この敷地は更地となった[25]

この場所で活動していたアーティストたちの一部はジャージー・シティおよびザ・ブロンクスへ移ると話している[26]

反響[編集]

ファイブ・ポインツの初期のグラフィティの一つen:Jam Master Jayの肖像。

About.com (en) のJohn Roleke は、「ファイブ・ポインツは、古い倉庫を転用したアーティストたちのスタジオを収めた施設を覆う、グラフィティ・アートの生きたコラージュである」と述べている[27]。ファイブ・ポインツは、世界的に知られており、世界中のタガー、ないし、グラフィティ・アーティストたちがグラフィティを描きにやって来る[10]。ファイブ・ポインツは、『クリスチャン・サイエンス・モニター[10]、『ボストン・グローブ[28]、『ニューヨーク・タイムズ[1]、『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン[29]などの新聞で取り上げられたことがある。

あるアーティストは、この施設の解体によって安くて合法的にグラフィティを行うことのできる場所がほとんどなくなると述べている。

大衆文化におけるファイブ・ポインツ[編集]

2011年、"レスキュー・ミー NYの英雄たち"の最終話でドラマの中で火事が起こった場所である[18]

2013年の映画"グランド・イリュージョン"にて、このビルはFour Horsemenマジックショーの最終演目のステージとして用いられた.[2]

この衝撃的な、グラフィティで埋め尽くされた倉庫がヒッピホップやR&Bのスターたちを引き寄せており、彼らのミュージック・ビデオの中に登場する。ダグ・E・フレッシュカーティス・ブロウ、Grandmaster Kaz、モブ・ディープラゼル (Rahzel)、DJ JS-1、ブート・キャンプ・クリック (Boot Camp Clik)、ジョーン・ジェットジョス・ストーンらが当地を訪れている[1][3]。2014年12月のこのビルが完全に更地になる直前には、en:John Truelove作詞、en:Terry King監修のKing Truelove Christmasビデオ"X Spells Christmas"に登場する[30]

出典・脚注[編集]

  1. ^ a b c Bayliss, Sarah (2004年8月3日). “Museum With (Only) Walls”. The New York Times. オリジナルの2008年4月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080403053428/http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9F04EFD9173CF93BA3575BC0A9629C8B63 2008年3月13日閲覧。 
  2. ^ a b c d e Sara Frazier and Jeff Richardson (2013年11月19日). “5Pointz Building, Graffiti Mecca in Queens, Painted Over During the Night”. NBC 4 New York (NBC Universal Media). http://www.nbcnewyork.com/news/local/5Pointz-Graffiti-Painted-Over-Whitewash-Developer-Queens-232503761.html 2014年8月31日閲覧。 
  3. ^ a b c 5ptz.com official website” (Retrieved 22 December 2014). 2011年1月23日閲覧。
  4. ^ a b Buckley, Cara (2009年4月18日). “One Artist Is Hurt, and 200 Others Are Feeling the Pain”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2009/04/19/nyregion/19pointz.html 2011年1月23日閲覧。 
  5. ^ Queens Graffiti Mecca Faces Redevelopment - WNYC Culture - March 7, 2011
  6. ^ a b Lawmaker: Deal Reached On 5Pointz Redevelopment Plan « CBS New York”. Newyork.cbslocal.com (2013年10月9日). 2013年11月19日閲覧。
  7. ^ When the 5Pointz Warehouse Was Home to Neptune Meter”. queens.brownstoner.com (2013年12月16日). 2014年3月25日閲覧。
  8. ^ a b c Night Falls, and 5Pointz, a Graffiti Mecca, Is Whited Out in Queens”. The New York Times (2013年11月20日). 2014年12月23日閲覧。
  9. ^ Weir, Richard (1998年2月15日). “Wall Hits a Patron of Graffiti”. The New York Times. http://www.nytimes.com/1998/02/15/nyregion/neighborhood-report-long-island-city-wall-hits-a-patron-of-graffiti.html 2011年1月23日閲覧。 
  10. ^ a b c d Kiper, Dmitry (2007年7月24日). “Curator of an urban canvas article”. The Christian Science Monitor. オリジナルの2008年4月1日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080401124114/http://www.csmonitor.com/2007/0724/p20s01-ussc.html 2008年3月19日閲覧。 
  11. ^ The City Planning Commission Votes for Big Changes in Queens Today | Brownstoner Queens”. Queens.brownstoner.com (2013年9月15日). 2013年11月19日閲覧。
  12. ^  . “Deal Reached For '5Pointz' Development In Queens”. NY1. 2013年11月19日閲覧。[リンク切れ]
  13. ^ [1] ,TimeOut article by Amy Plitt [2] Breaking: 5 Pointz was painted white overnight
  14. ^ [3] , "5 Pointz Is Gone" Tweet [4] Tweet from @5PointzNYC confirming overnight painting
  15. ^ [5] , 5 Pointz Petition Rally [6] Rally information on 5ptz.com
  16. ^ Graffiti mecca 5 Pointz erased overnight
  17. ^ Graffiti mecca 5Pointz whitewash could cost owners some green”. NY Daily News (2014年11月20日). 2014年12月24日閲覧。
  18. ^ a b 5 Pointz Explored”. ltvsquad.com (2014年3月25日). 2014年3月25日閲覧。
  19. ^ Turco Bucky (2014年2月3日). “5 POINTZ SPRAYED WITH "ART MURDER"”. Animal New York. 2014年6月11日閲覧。
  20. ^ Mathias, Christopher (2014年3月10日). “New York's Graffiti Mecca Receives Another Makeover In Protest Of Gentrification”. Huffington Post. 2014年6月11日閲覧。
  21. ^ Protesters hang "gentrification in progress" sign on 5 Pointz”. The Real Deal (2014年3月10日). 2014年6月11日閲覧。
  22. ^ "Gentrification in Progress" Banner Appears on 5Pointz Building”. Queens Courier (2014年3月10日). 2014年6月11日閲覧。
  23. ^ “RIP 5 Pointz”. (2014年8月25日). http://graffiticreator.org/blog/rip-5-pointz/ 2014年8月25日閲覧。 
  24. ^ Photos of 5Pointz's Heartbreaking Demolition”. Complex (2014年11月6日). 2014年12月23日閲覧。
  25. ^ See 5Pointz Go From Graffiti Mecca to Rubble in One Minute”. NY.Curved.com (2015年1月9日). 2015年2月1日閲覧。
  26. ^ Silver, Leigh (2014年11月19日). “Remembering 5 Pointz: A Community Reminisces on What Was So Much More Than Just a Legendary Graffiti Spot”. Complex. 2014年12月23日閲覧。
  27. ^ Roleke, John. “5 Pointz - Graffiti Mecca and Home to Artists”. About.com. 2008年3月11日閲覧。
  28. ^ Wallgren, Christine (2007年6月24日). “Graffiti crew wants a place to call its own”. The Boston Globe. オリジナルの2008年5月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080530203002/http://www.boston.com/news/local/articles/2007/06/24/graffiti_crew_wants_a_place_to_call_its_own/ 2008年4月22日閲覧。 
  29. ^ “Graffiti artists find legal haven in New York City”. International Herald Tribune. (2007年8月12日). オリジナルの2008年4月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080406020203/http://www.iht.com/articles/ap/2007/08/12/arts/NA-A-E-ART-US-New-York-Graffiti.php 2008年4月22日閲覧。 
  30. ^ "X Spells Christmas" - King Truelove Christmas 2014 - YouTube. Retrieved December 24, 2014. The shell of 5 Pointz can be seen behind the elevated subway tracks, to the left, from 0:00 to 2:50.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

座標: 北緯40度44分43秒 西経73度56分44秒 / 北緯40.745152度 西経73.94567度 / 40.745152; -73.94567