ビル・イングリッシュ (コンピュータ技術者)

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ウィリアム・カーク・イングリッシュ
ビル・イングリッシュ (2008年)
生誕 (1929-01-27) 1929年1月27日
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ケンタッキー州レキシントン
死没 (2020-07-26) 2020年7月26日(91歳没)
国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
研究分野 発明家
研究機関 SRIインターナショナルオーグメンテーション研究センターPARCサン・マイクロシステムズ
主な業績 マウスの開発
プロジェクト:人物伝
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ウィリアム・カーク・イングリッシュ(William Kirk English、1929年1月27日 – 2020年7月26日)は、アメリカ合衆国コンピュータ技術者ビル(Bill)の名で通っていた[1]SRIインターナショナル在籍時にダグラス・エンゲルバートオーグメンテーション研究センター(ARC)でコンピュータマウスのプロトタイプ1号機を開発した[2][3]。後にゼロックスPARCサン・マイクロシステムズで勤務した[3]

学生時代[編集]

1929年1月27日、ケンタッキー州レキシントンにて、ハリー・イングリッシュとキャロライン(グレー)・イングリッシュの間で生まれた一人息子。父親と前妻との間に生まれた2人の異母兄弟がいた。ハリー・イングリッシュは炭鉱を管理する電気技師で、キャロラインは主婦であった。ビルは、アリゾナの寄宿学校に通い、その後、ケンタッキー大学電気工学を学んだ[1]

経歴と業績[編集]

エンゲルバートの「簡潔なノート」に基づいてイングリッシュが製作したプロトタイプマウス

イングリッシュは、1950年代後半まで米国海軍に所属し、一時期は北カリフォルニアや日本に配属された[1]。帰国後にスタンフォード大学で修士号を取得し、1960年代初めにスタンフォード研究所に入所してヒューイット・クレーンと磁石の研究を行い、磁性体のみでできたものとしては最初期の磁性体論理素子を構築した[4]

イングリッシュは、エンゲルバートと並び、マウスを初めて「作った」人物として知られている[5]。1963年、NASAからの補助金を得て、コンピュータの画面上で要素を選択するのに最も効率の良いデバイスは何かを決定するプロジェクトを、エンゲルバートの研究チームで進めることになった。エンゲルバートは自身のアイデアを記していた「簡潔なノート」[6]をイングリッシュに渡し、これに基づいてイングリッシュが製作した装置が、後にマウスと呼ばれるようになるデバイスの試作機1号となった[5][7][8]。1965年、NASAに評価レポートが提出され、マウスが最適なデバイスに選ばれた[4][9]

「すべてのデモの母」の準備をするイングリッシュ

かつての同僚ビル・デュヴァルによれば、イングリッシュは「何でも実現してしまう」人物であった[10]1968年12月9日サンフランシスコ公会堂(現ビル・グラハム公会堂)で後に「すべてのデモの母」として知られるようになったNLS(oN-Line System)のデモが行われた。壇上のプレゼンテーションは研究責任者のエンゲルバートが行い、マウスを含むコンピュータテクノロジーが披露されたが、イングリッシュはNASAからフォルクスワーゲン・ビートルに匹敵する大きさのプロジェクタを借り、デモ会場を30マイル(約48キロメートル)離れたSRIのラボにあるホストコンピュータと結ぶ回線をリースして音声と映像の通信を確保するなど、デモの実現に寄与した[4][11]

1971年、イングリッシュはSRIを去り、Xerox PARCに移ってオフィスシステム研究グループを率いた。PARC在籍中に、初期のマウスに使っていたホイールをボールに置き換えたボールマウスを開発した[3]。これに似た原理のデバイスとして、ドイツのテレフンケンが開発し、1968年からコンピュータ用の入力デバイスとして提供されていたRollkugelがあった[12][13]

イングリッシュは、その後1989年にサン・マイクロシステムズに移籍して国際化担当ディレクターとなった[3]

2020年7月26日、イングリッシュはカリフォルニア州サンラファエルで呼吸不全のため91歳で亡くなった[1]

出典[編集]

  1. ^ a b c d Metz, Cade (2020年7月31日). “William English, Who Helped Build the Computer Mouse, Dies at 91”. The New York Times. オリジナルの2022年10月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20221002000742/https://www.nytimes.com/2020/07/31/technology/william-english-who-helped-build-the-computer-mouse-dies-at-91.html 2022年10月8日閲覧。 
  2. ^ Shearer, Benjamin F. (2007). Home Front Heroes: A Biographical Dictionary of Americans During Wartime. Greenwood Publishing Group. p. 277. ISBN 9780313334214. https://books.google.com/books?id=UJhx8H8XLnQC&pg=PA277 2022年10月8日閲覧。 
  3. ^ a b c d Bill English”. Computer History Museum. 2012年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年10月8日閲覧。
  4. ^ a b c Alumni Hall of Fame 2006: Bill English”. SRI International. 2013年7月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年10月8日閲覧。
  5. ^ a b マウスの父、ダグラス・エンゲルバート氏インタビュー, インプレス, (2006), オリジナルの2022-04-09時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20220409094448/https://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0322/engelbart.htm 2022年10月8日閲覧。 
  6. ^ “Computer mouse co-creator dies at 91” (英語). BBC News. (2020年8月3日). https://www.bbc.com/news/technology-53638033 2020年8月4日閲覧。 
  7. ^ History of the First Computer Mouse, https://www.sri.com/hoi/computer-mouse-and-interactive-computing/ 
  8. ^ Firsts: The Mouse - Doug Engelbart Institute, https://dougengelbart.org/content/view/162/ 
  9. ^ Mouse”. Doug Engelbart Institute. 2013年1月25日閲覧。
  10. ^ William English, Who Helped Build the Computer Mouse, Dies at 91, (2020), https://web.archive.org/web/20221002000742/https://www.nytimes.com/2020/07/31/technology/william-english-who-helped-build-the-computer-mouse-dies-at-91.html 2022年10月21日閲覧。 
  11. ^ Hintz, Eric (2018年12月10日). “The Mother of All Demos”. Smithsonian Institution. 2020年8月2日閲覧。
  12. ^ Auf den Spuren der deutschen Computermaus” (German). Heise Verlag (2009年4月28日). 2013年1月7日閲覧。
  13. ^ Telefunken's 'Rollkugel'”. oldmouse.com. 2020年8月20日閲覧。