ドクター前夜

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ドクター前夜
The Night of the Doctor
ドクター・フー』のエピソード
8代目ドクターの衣装
監督ジョン・ヘイズ
脚本スティーヴン・モファット
制作デニス・ポール
音楽マレイ・ゴールド
初放送日2013年11月14日
エピソード前次回
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ドクターの名前
次回 →
The Last Day
(ミニエピソード)
ドクターの日
ドクター・フーのエピソード一覧

ドクター前夜」(ドクターぜんや、原題: "The Night of the Doctor")は、イギリスSFドラマドクター・フー』のミニエピソード。2013年11月14日に『ドクター・フー』50周年記念スペシャル「ドクターの日」の前日譚として BBC iPlayer とYouTube上で公開された[1][2]。脚本はスティーヴン・モファットが担当し、ポール・マッギャンがドクター役に返り咲いた[3]

本作はタイム・ウォーの時代を舞台とし、宇宙船の操縦士キャス(演:エマ・キャンベル=ジョーンズ)と8代目ドクター(演:ポール・マッギャン)の出会いと、これまで描かれることのなかった彼の最期、そして彼が再生を行ってウォードクター(演:ジョン・ハート)になる過程が描かれている。マッギャンがドクター役でスクリーンに姿を現わすのは、1996年のテレビ映画版以来であった[4]

連続性[編集]

再生直前にドクターはビッグ・フィニッシュ・プロダクション英語版のオーディオドラマでのコンパニオンであるちゃーリー・ポラード英語版クリズ英語版ルーシー・ミラー英語版、タムシン・ドリュー、モリー・オサリバン英語版の名前を挙げている[5]。これはビッグ・フィニッシュのオーディオシリーズの登場人物がテレビ版で言及される最初の例となった[6]。惑星カーンと修道女は8代目ドクターの物語にも登場するが、テレビでの初登場は4代目ドクターの「モービアスの脳」(1976年)であった [6]。彼らは第9シリーズ「魔術師の弟子」にも再登場する[7]

本作に登場した尼僧オヒラは「モービアスの脳」に登場した女教皇オヒカに名前が似ているが、両者の直接的な繋がりは説明されていない[8]

製作[編集]

「ドクター前夜」のアイディアは、「ドクターの名前」でジョン・ハートの演じる未知のドクターが登場したことに端を発する。ドクターがジョン・ハートの姿になった過程を見たいと感じたスティーヴン・モファットは、8代目ドクターから直接再生するというアイディアを考案し、彼が常々見たいと思っていた8代目ドクターの最期を描写できるという利点がもたらされることになった。彼は参加の意思を示していたポール・マッギャンにコンタクトを取り、「ドクターの日」への導入にもなるファンへのサプライズの1つとしてミニエピソードを構成した[9]

「ドクター前夜」は Roath Lock で2013年5月7日と8日で撮影された。初日にはカーンを舞台とする場面が、2日目にはキャスの宇宙船での場面が撮影された[10]。テレビ映画版の衣装を再登場させる、あるいはビッグ・フィニッシュ版に登場した衣装を使用するよりも、モファットはハワード・バーデンのデザインしたテレビ映画版の衣装を改変して登場させることに決めた。新しい衣装は前の衣装を参考にしており、緑のロングコートとグレーのウエストコートはそのままに、紳士というよりは冒険者をイメージさせる衣装になっている[9]。同時に、衣装を着て11代目ドクターのターディスのコンソールルームのセットにいるマッギャンの写真も撮影された[11]

若いウォードクターが鏡に映っているシーンは、1976年のBBC版『罪と罰』にロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ役で出演した際のジョン・ハートの写真が使用されている[12][13]

放送と反応[編集]

本作の公開は直前まで視聴者に伏せられており、公開約1時間前にTwitterを介して告知された[14]。同様にポール・マッギャンの再登場も視聴者には予期できないものであった。本作は元々50周年の実際の週に公開が予定されていたが、ミニエピソードの存在自体やマッギャンの出演がリークされそうになっていたため前倒しされた[15]The Atlantic は「ドクター前夜」を2013年で最高のテレビエピソードの1つに挙げた[16]

本作はBBCのYouTubeチャンネルとBBC iPlayer、BBC Red Button で視聴可能となった[17]。公開から1週間以内に250万再生を記録し 、マッギャンの演技は称賛を受けた。ファンはBBCに8代目ドクターのスピンオフシリーズ製作を求め、Webサイト Change.org では1万5000を超える署名が集まった[18]

ファンの反応[編集]

ミニエピソード公開後、『ドクター・フー』のファンはマッギャンが出演するさらなるエピソードを求めた[19]。スピンオフを求める署名は2013年11月に目標の1万5000人を突破し、2万5000人に拡大、さらにその後も2万人増加した[20]。マッギャンは復帰の意思を示し、自ら署名したと述べた[21]。キャス役を演じたエマ・キャンベル=ジョーンズも、キャスの死亡が明言されていないことに触れて復帰に意欲的である旨の主張をし、「キャスは彼が良いドクターであることを知る必要がある」と述べた[22][注 1]

しかし、『ドクター・フー』の当時の製作総責任者スティーヴン・モファットは、マッギャンのスピンオフを製作する予定がないこと、本作が番組50周年という例外であること、同時に存在する現役ドクターは1人だけにすべきであることを述べた[23]。また、彼はマッギャンの再登場はファンへのサプライズとしての意義が最大のものであることを示し、製作価値の高いさらなるミニエピソードが製作されたらファンどころかBBCにとってもサプライズになるだろうと主張した[24]

ホームメディア[編集]

本作は「ドクターの日」のブルーレイとDVDのリリースに収録され[25]、2014年9月8日に "50th Anniversary Collectors Edition" ボックスセットの一部として「ドクターの名前」、 An Adventure in Space and Time、「ドクターの日、「ドクターの時」、The Five(ish) Doctors Reboot と共にDVDとブルーレイディスクがリリースされた[26]

日本では2015年3月6日に発売された『ドクター・フー ニュー・ジェネレーション スペシャル』に「ドクターの日」と「ドクターの時」および特典映像「劇場鑑賞の心得」[注 2]と共に特典映像として収録された[27]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ キャスは墜落しかけている宇宙船にいたところをドクターに救出されるが、彼がダーレクと戦争中のタイムロードだと知ると態度を変え、宇宙の危機の元凶であるタイムロードを殺すべく助けを拒んでドクターを道連れに墜落した。
  2. ^ ソンターランが「ドクターの日」上映前に映画のマナーを警告する映像。

出典[編集]

  1. ^ Wilson, Dan (2013年11月15日). “The Night of the Doctor rewrites Doctor Who history for the better”. Metro. 2013年11月17日閲覧。
  2. ^ Hayes, John (Director) (2013). The Night of the Doctor. YouTube: BBC. 2013年11月14日閲覧
  3. ^ Steven Moffat on The Night of the Doctor”. BBC (2013年11月14日). 2013年11月17日閲覧。
  4. ^ Jeffery, Morgan (2013年11月14日). “Paul McGann returns to 'Doctor Who' in new 50th anniversary mini-episode”. Digital Spy. 2013年11月17日閲覧。
  5. ^ Blair, Andrew (2013年11月15日). “A guide to the Eighth Doctor Audio Adventures”. Den of Geek. 2013年11月17日閲覧。
  6. ^ a b Patrick, Seb (2013年11月14日). “'Doctor Who': Making Sense of 'The Night of the Doctor'”. BBC America. 2013年11月17日閲覧。
  7. ^ Fullerton, Huw (2015年9月19日). “Doctor Who Series 9: 'The Magician's Apprentice', spoiler-free preview”. Radio Times. 2015年9月19日閲覧。
  8. ^ Doctor Who: geeky spots in The Magician's Apprentice”. denofgeek.com. Den of Geek (2015年9月19日). 2015年9月22日閲覧。
  9. ^ a b Steven Moffat on The Night of the Doctor”. BBC (2013年11月14日). 2013年11月19日閲覧。
  10. ^ Pixley, Andrew (August 2014). “The Night of the Doctor”. Doctor Who Magazine (Royal Tunbridge Wells: Panini Comics) The Year of the Doctor: The Official Guide to Doctor Who's 50th Anniversary (Special Edition 28): 6–9. 
  11. ^ Paul McGann's eighth Doctor takes over the 11th Doctor's Tardis”. ラジオ・タイムズ (2014年3月11日). 2014年8月14日閲覧。
  12. ^ The Sunday Post: Classically Russian”. BBC. BBC (2016年1月31日). 2020年5月2日閲覧。
  13. ^ John Hurt (1940 - 2017)”. BBC. BBC. 2020年5月2日閲覧。
  14. ^ @bbcdoctorwho (2013年11月14日). "Surprise! The 50th starts NOW! The Night Of The Doctor on iPlayer in less than an hour. Speak to no one till you've see it! RUN!". X(旧Twitter)より2020年9月8日閲覧
  15. ^ Kelly, Stephen (2013年11月18日). “Paul McGann: we were forced to release The Night of the Doctor early”. Radiotimes.com. 2013年11月19日閲覧。
  16. ^ The Best Television Episodes of 2013”. TheAtlantic.com (2013年12月11日). 2013年12月12日閲覧。
  17. ^ See Night of the Doctor on BBC Red Button”. Doctor Who website. BBC (2013年11月16日). 2013年12月3日閲覧。
  18. ^ LaMonica, Bridget (2013年11月23日). “Doctor Who: Petition For Paul McGann Spinoff Passes 15,000 Signatures!”. Den of Geek. 2013年11月23日閲覧。
  19. ^ Where is Paul McGann's Doctor Who Spin-Off? - Tor.com”. Tor.com (2013年11月14日). 2020年9月8日閲覧。
  20. ^ http://touch.denofgeek.us/denofgeekus/#!/entry/doctor-who-petition-for-paul-mcgann-spinoff-passes-15000-signatures,5290c404025312186c8f148b/1 Archived 14 October 2013 at the Wayback Machine.
  21. ^ McGann Signed Petition for 8th Doctor Spin-off”. doctorwhotv.co.uk (2014年6月6日). 2020年9月8日閲覧。
  22. ^ Campbell-Jones Wants McGann Spin-Off”. doctorwhotv.co.uk (2014年5月26日). 2020年9月8日閲覧。
  23. ^ Joe Dussander (2013年11月27日). “Doctor Who Paul McGann spin-off won't happen says Moffat”. scifinow.co.uk. 2020年9月8日閲覧。
  24. ^ Moffat on McGann Spin-off & Future Minisodes”. doctorwhotv.co.uk (2013年11月30日). 2020年9月8日閲覧。
  25. ^ The Day of the Doctor DVD Extras”. Doctor Who TV (2013年11月18日). 2014年5月17日閲覧。
  26. ^ Doctor Who: 50th Anniversary DVD Collection”. Doctor Who TV. 2014年7月23日閲覧。
  27. ^ 『ドクター・フー ニュー・ジェネレーション スペシャル』DVDパッケージ裏面