ザ・ホエール

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ザ・ホエール
The Whale
監督 ダーレン・アロノフスキー
脚本 サミュエル・D・ハンター
原作 サミュエル・D・ハンター
製作 ジェレミー・ドーソン
ダーレン・アロノフスキー
アリ・ハンデル
出演者 ブレンダン・フレイザー
セイディー・シンク
音楽 ロブ・シモンセン
撮影 マシュー・リバティーク
編集 アンドリュー・ワイスブラム
製作会社 A24
プロトゾア・ピクチャーズ
配給 アメリカ合衆国の旗 A24
日本の旗 キノフィルムズ
公開 アメリカ合衆国の旗 2022年12月9日[1]
日本の旗 2023年4月7日
上映時間 117分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
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ザ・ホエール』(原題:The Whale)は、2022年アメリカ合衆国ドラマ映画

劇作家サミュエル・D・ハンターが2012年に発表した同名舞台劇を映画化[2][3]ダーレン・アロノフスキー監督、ブレンダン・フレイザー主演[3][4]。フレイザーが本作で見せた演技は高い評価を受け、第95回アカデミー主演男優賞第28回クリティクス・チョイス・アワード主演男優賞第29回全米映画俳優組合賞英語版主演男優賞を受賞し[5][6][7]、本作はアカデミーメイクアップ&ヘアスタイリング賞も受賞した[8]。また、ホン・チャウアカデミー助演女優賞にノミネートされた[9]

あらすじ[編集]

病的肥満の英語教師チャーリーはオンラインで講義を行っているが、その外見を隠すためにウェブカメラは常にオフの状態である。彼の唯一の友人は看護師のリズで、病院に行った方がいいというリズの言葉に対して、チャーリーは治療費がないからと断り続けている。また、彼の元には新興宗教ニューライフの宣教師トーマスが訪れるようになるが、リズはニューライフの存在を嫌っている。

自分のうっ血性心不全の症状がステージ3にまで達しており、余命が幾ばくも無い事を知ったチャーリーは8年ぶりに娘のエリーと再会するが、かつてチャーリーは新しい恋人アランの為に娘と妻を捨てた過去があり、エリーはチャーリーを恨んでいた。預金の12万ドルを全て与えるという条件で何とかエリーを引き留めたチャーリーは、彼女の学校のエッセイの手直しを手伝うことにするが、自分に対してもエッセイを書いて欲しいと要求する。

度々訪れるトーマスに対してリズは不快感を露にする。リズの兄はアランであり、チャーリーと恋仲になった事で父や教会から受けた仕打ちに耐え切れずに自殺してしまったのだという。チャーリーが病的肥満になったのも、アランを亡くした悲しみから逃れるための暴飲暴食が原因だった。

エリーはチャーリーに睡眠薬入りのサンドイッチを手渡して眠らせ、その間にやってきたトーマスに大麻を吸わせながら問い詰める。彼は教会の青年団からお金を盗み逃げ出した事を告白するのだった。エリーは彼の告白を密かに録音していた。

エリーの母メアリーがリズに連れられてやってくる。チャーリーとメアリーが会話する中で、チャーリーが十分な預金をため込んでいる事が判明し、治療費がないと嘘をつかれていたことを知ったリズは部屋を出て行ってしまう。二人はかつての結婚生活や、娘のエリーについての議論を繰り広げる。チャーリーは「自分の人生で一つでも正しいことをしたと信じたい」と話した。

ピザの配達人ダンに初めて自分の姿を目撃されたチャーリーはショックから過食を始め、オンライン講義の生徒に下品な言葉使いで「正直な文章」を書けとメールする。

トーマスがチャーリーに最後の訪問をする。彼は喜んだ様子で、エリーが自分の告白の録音を家族に送り付けた事で、両親が彼を許してくれたのだと話した。彼は地元に帰ることを決めるが、最後に彼が行った説教の同性愛に対する解釈でチャーリーは傷つき、彼に聖書を手渡して、家族の元に帰るよう言うのだった。

メールが原因で仕事を辞めることになったチャーリーは最後の授業でウェブカメラをオンにする。衝撃を受ける生徒をよそに「大事なのは、生徒が書いた正直な言葉だけだ」と告げてパソコンを投げ飛ばし、授業を終了させる。

チャーリーの体調が悪化し始め、リズが戻って診察を行っているところへ、怒った様子のエリーが戻ってくる。彼女はチャーリーの手直ししたエッセイが8歳の頃に書いたエッセイとすり替えられていた事でチャーリーと対立する。チャーリーはそのエッセイが今まで読んだ中で一番正直な文だと評し、最初は彼を非難していたエリーも、チャーリーの強い希望に応えて、エッセイを音読し始める。チャーリーは歩行器なしで立ち上がり、エリーの元に歩み寄る。エリーがエッセイを読み終え、お互いが目を合わせて微笑み合った時、チャーリーは白い光の中に包まれていった。

キャスト[編集]

製作[編集]

キャスティング[編集]

チャーリー役を演じるのに適した俳優を見つけられず、本作の主役のキャスティングには10年以上の月日を要した。フレイザーのキャスティングについては、アロノフスキー監督が「復讐街英語版」の予告編を見たことが決め手になったという[10]

当初はジェームズ・コーデン主演、トム・フォード監督での制作も予定されていたが、クリエイティブ上での意見の相違からフォードが降板。ジョージ・クルーニーも監督を検討したが、最終的に辞退した[11]

脚本[編集]

本作にはアメリカ合衆国大統領予備選挙の速報がテレビから流れるシーンがあり[12]、時代設定が2016年であることが分かる。舞台劇の時代設定は2009年だったが、ハンターが出来事を大きな「地震的変化」の前にあるものとして見せたかった為、またコロナウイルスの流行以前の話であることを明確にする為、2016年に変更となった[13]。また、トーマスの設定も原作ではモルモン教の宣教師である[13]

撮影[編集]

撮影期間はおよそ40日[14]。特殊メイクはエイドリアン・モロ英語版により100%デジタル技術で製作されたもので、本作で演じる役柄の為にフレイザーは4時間以上かけて特殊メイクを施してから撮影に臨んだ。ファットスーツは5人がかりで着脱せねばならないほど重たいもので[15]、スーツを取り外す工程でも3時間が必要だった[16]

評価[編集]

Rotten Tomatoesでは334件の批評家のレビューに基づき支持率64%、平均評価6.6/10点を獲得した。批評家の一致した見解は「ブレンダン・フレイザーの演技に支えられた『ザ・ホエール』は、多くの観客が思わず涙を流すような共感の歌を歌い上げる。」となっている[17]

脚注[編集]

  1. ^ Canfield, David (2022年8月31日). “Inside Brendan Fraser's 'The Whale' Transformation: "I Wanted to Disappear"”. Vanity Fair. 2022年8月31日閲覧。
  2. ^ Dan Meyer (2021年1月11日). “Samuel D. Hunter Writing Movie Adaptation of The Whale”. Playbill.com. https://www.playbill.com/article/samuel-d-hunter-writing-movie-adaptation-of-the-whale 2021年1月12日閲覧。 
  3. ^ a b “体重270キロの父親の物語…『ブラック・スワン』監督の新作、ブレンダン・フレイザーが主演”. シネマトゥデイ. (2021年1月14日). https://www.cinematoday.jp/news/N0121009 2022年6月2日閲覧。 
  4. ^ Brent Lang (2021年1月11日). “Darren Aronofsky, Brendan Fraser Team on 'The Whale' for A24”. Variety. https://variety.com/2021/film/news/darren-aronofsky-brendan-fraser-team-on-the-whale-obese-recluse-1234882905/ 2021年1月12日閲覧。 
  5. ^ The 95th Academy Awards (2023) | Nominees and Winners”. Oscars.org. Academy of Motion Picture Arts and Sciences. 2023年1月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月12日閲覧。
  6. ^ 第24回:クリティクス・チョイス・アワード受賞内容からアカデミー賞予測! 急上昇している映画『ザ・ホエール』と主演男優ブレンダン・フレイザー”. otocoto | こだわりの映画エンタメサイト. 2023年6月11日閲覧。
  7. ^ Koyama, Keiichi (2023年2月27日). “第29回全米映画俳優組合賞(SAGアワード)の受賞結果一覧 『EEAAO』4部門制覇でアカデミー賞にまた一歩近づく”. Esquire. 2023年6月11日閲覧。
  8. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2023年3月13日). “【米アカデミー賞】メイクアップ&ヘアスタイリング賞に「ザ・ホエール」 272キロの巨体表現”. 産経ニュース. 2023年6月11日閲覧。
  9. ^ ホン・チャウ:プロフィール・作品情報・最新ニュース”. 映画.com. 2023年6月11日閲覧。
  10. ^ 『ザ・ホエール』主演ブレンダン・フレイザーが語る、 ジョークの対象でも欠点でもなく、肥満と共存する一人の男性の正直さを描くこと | 【GINZA】東京発信の最新ファッション&カルチャー情報”. 2023年6月11日閲覧。
  11. ^ Hammond, Pete (2022年12月30日). “Oscar’s Cash Value; Hello, Dolly De Leon; James Corden In ‘The Whale’ & Where Have The Globes Parties Gone? – Notes On The Season” (英語). Deadline. 2023年6月11日閲覧。
  12. ^ 体重272キロの男に、観客は自らを見る。『ザ・ホエール』、現代の神話のごとき映画表現 | CINRA”. www.cinra.net. 2023年6月11日閲覧。
  13. ^ a b Wilkinson, Alissa (2022年12月9日). “The Whale screenwriter on writing about religious fundamentalism, bodies, and hope” (英語). Vox. 2023年6月11日閲覧。
  14. ^ 『ザ・ホエール』特殊メイクで変身する様子を捕らえたメイキング映像解禁!ブレンダン・フレイザーがハードな撮影を振り返る | anemo”. www.anemo.co.jp (2023年3月10日). 2023年6月11日閲覧。
  15. ^ Inc, Natasha. “ブレンダン・フレイザーが272kgの男に変貌、「ザ・ホエール」メイキング映像”. 映画ナタリー. 2023年6月11日閲覧。
  16. ^ 『ザ・ホエール』主演ブレンダン・フレイザーが語る、 ジョークの対象でも欠点でもなく、肥満と共存する一人の男性の正直さを描くこと”. GINZA (2023年4月13日). 2023年6月11日閲覧。
  17. ^ The Whale - Rotten Tomatoes” (英語). www.rottentomatoes.com (2022年12月21日). 2023年6月11日閲覧。

外部リンク[編集]