サル免疫不全ウイルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

サル免疫不全ウイルス(サルめんえきふぜんウイルス、: simian immunodeficiency virus: SIV)は、霊長類自然宿主とするウイルスであり、宿主の免疫細胞に感染し免疫細胞を破壊して、後天的に免疫不全を発症させるウイルスである。SIVはアフリカ大陸に生息する霊長類に広く分布しており、アフリカミドリザル等のセルコピテクス属、マンドリル等のドリル属、スーティーマンガベー等のマンガベー属、そしてチンパンジーから分離されている。アジアに生息するマカク属のサルからも分離されているが、自然感染の例が無く、全てアメリカの霊長類センターで飼育されているサルから分離されたため、同施設で飼育されていたアフリカ産のサルから感染したものと考えられている。

ウイルスの分類上は、エンベロープを持つプラス鎖の一本鎖RNAウイルスであるレトロウイルス科 (Retrovividae) レンチウイルス (lentivirus) 亜群に属する。SIVとして一括りにされているが、実際には多くの種類が存在する。

SIVはヒト免疫不全ウイルスのHIV-1、HIV-2の起源と考えられており、突然変異によって人に感染する能力を獲得したものと考えられている。ウイルスの塩基配列を比較すると、HIV-1はチンパンジーから分離されたSIVcpzに近く、HIV-2はスーティマンガベーから分離されたウイルスSIVsmmに近い。この様なことから、SIVに感染したサルからヒトへと感染し、HIVに進化した物と考えられている。HIV-1とHIV-2の基本的な遺伝子の構造はほぼ同じであるが、塩基配列の類似性は低く60%ほどである。最も大きな遺伝子の相違は、HIV-1にはvpu、HIV-2にはvpxがそれぞれに存在することである。またこの相違はSIVcpzとSIVsmmの間にも見られることから、HIV-1とHIV-2はそれぞれ独立した祖先から、ヒトに感染する能力を持ったウイルスに進化したものと考えられている。

関連項目[編集]