クロボウモドキ

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クロボウモドキ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : モクレン類 magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: バンレイシ科 Annonaceae
亜科 : クロボウモドキ亜科[1] Malmeoideae
: クロボウモドキ連[1] Miliuseae
: クロボウモドキ属[1][2] Monoon
: クロボウモドキ M. liukiuense
学名
Monoon liukiuense
(Hatus.) B.Xue & R.M.K.Saunders (2012)
シノニム
和名
クロボウモドキ、アカンギ[3]

クロボウモドキ学名: Monoon liukiuense)とは、バンレイシ科クロボウモドキ属に分類される高木の1種である。沖縄県八重山諸島台湾に分布し、1970年代初頭に西表島で発見され、1979年に新種記載された。「クロボウ」とはリュウキュウガキカキノキ科)の沖縄方言であり、樹皮や葉がそれに似ていることから「クロボウモドキ」の和名がつけられた[4]

特徴[編集]

常緑高木で、樹高15メートル (m) ほどになる[2][3]。全体はほぼ無毛[2]は直立し、樹皮は黒褐色[3]

は互生、葉柄は長さ5–10ミリメートル (mm)、葉身は卵形から長楕円形、革質、10–25 × 6–10センチメートル (cm)、先端は尖り、基部はややゆがんだ鈍形、無毛、表面は光沢がある[2][3]

花期は夏から秋、葉腋に1–6個の花がつく[2][3]。花序柄は長さ 1–1.5 cm、花柄は長さ 2–3 cm、短毛が散在または無毛[2]。萼片は3枚、円形から三角状円形、長さ 3–5 mm、短毛が散在する[2]。花弁は6枚、細長い披針形、長さ 6–10 cm、初めは緑色で後に黄緑色になる[2][3]

果実は枕状楕円形、長さ 2–2.5 cm、直径約 1 cm、赤色を経て冬から春に黒色に熟す[2][3]種子は枕形、直径 1.5-2 cm、長さ 2-3 cm[3]染色体数は 2n = 18[2]

分布[編集]

沖縄県八重山諸島西表島及び波照間島)と台湾蘭嶼に分布する[2]。低地の石灰岩地のごく限られた森林内に生育する[2][3]。西表島には複数の自生地があるが、ダム建設や農地造成によって生育環境が悪化している[3]。また波照間島御嶽林にはクロボウモドキの純林があるが、台風による風害で生育環境が悪化している(2018年現在)[3]

保全状況評価[編集]

絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト

日本では、環境省レッドリストにおいて絶滅危惧IA類(統一カテゴリ名で絶滅危惧I類)の指定を受けている[5]。生育地である下記の地方公共団体が作成したレッドデータブックに掲載されている[5]

  • 沖縄県:絶滅危惧IB類(統一カテゴリ名では絶滅危惧I類)

分類[編集]

クロボウモドキは1973年8月に玉城松栄[注 1]西表島大富北方の石灰岩地帯で初めて発見したが、この時は花も果実も採取されず属の同定は難航し、初島住彦Polyalthia と目星をつけつつ米国のウォーカー(Walker)やオランダファン・ステーニス(van Steenis)に鑑定を依頼したものの、結局何であるのかは判明しなかった[6]。ところが1972年から1981年にかけて行われた社寺林の全国的調査の一環として八重山列島の伝統信仰の聖地・御獄うたきが調査された[8]ことで状況は一変する。1975年6月に琉球大学の宮城康一やすかず波照間島の拝所に多数自生しているのを偶然発見し、果実の標本も採取した[6]。これを受けて初島は当初の見立て通り Polyalthia に属する種であるとの結論に達し、1979年に新種 Polyalthia liukiuensis として記載した[6]ホロタイプ(正基準標本)は先述の宮城が波照間島で採取したもの(5707番)で、琉球大学理学部の植物標本室に所蔵されている[6]。これに伴い、Polyalthia には、クロボウモドキ属の和名が充てられた[4]

その後、Polyalthia が多系統群であることが示され、分類学的再検討が行われた[9]。その結果、クロボウモドキはインドネシアジャワ島などに産する Monoon lateriflorum (Blume) Miq.タイプ種とする Monoon に組み替えられた。これに伴い、クロボウモドキ属に対応する学名は Monoon になり[1][2]Polyalthia の和名はサメハダノキ属となった[1]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 1979年の時点で故人[6]琉球大学の助教授を務めた後、普天間高校の教諭となった[7]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e 米倉, 浩司『新維管束植物分類表』北隆館、2019年、62頁。ISBN 978-4-8326-1008-8 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 大橋広好 (2015). “バンレイシ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 75. ISBN 978-4582535310 
  3. ^ a b c d e f g h i j k 沖縄県版レッドデータブック編集委員会, ed (2018). “クロボウモドキ”. 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-菌類編・植物編-. 沖縄県. pp. 158–159. https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/hogo/okinawa_rdb_kinrui_syokubutu.html 
  4. ^ a b 植田邦彦 (1997). “クロボウモドキ”. 週刊朝日百科 植物の世界 9. p. 103. ISBN 9784023800106 
  5. ^ a b クロボウモドキ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年8月20日閲覧。
  6. ^ a b c d e 初島 (1979).
  7. ^ 島袋しまぶく敬一 (1988年). “25年前のこと”. 沖縄生物学会. 2021年12月30日閲覧。
  8. ^ 菅沼 (1995).
  9. ^ Xue, Bine; Su, Yvonne C.F.; Thomas, Daniel C.; Saunders, Richard M.K. (2012). “Pruning the polyphyletic genus Polyalthia (Annonaceae) and resurrecting the genus Monoon (英語). Taxon 61 (5): 1032. doi:10.1002/tax.615009. https://www.researchgate.net/publication/232237991_Pruning_the_polyphyletic_genus_Polyalthia_Annonaceae_and_resurrecting_the_genus_Monoon. 

参考文献[編集]

日本語・英語・ラテン語:

日本語:

  • 菅沼, 孝之 著「わが国の社寺林調査」、加藤陸奥雄沼田眞・渡部景隆・畑正憲 監修 編『日本の天然記念物』講談社、1995年、271頁。ISBN 4-06-180589-4 
  • 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第7巻 シダ植物~まめ科』 新星図書出版、1989年。
  • 島袋敬一編著 『琉球列島維管束植物集覧』 九州大学出版会、1997年。
  • 環境省自然環境局野生生物課編 『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物植物I』 財団法人自然環境研究センター、2000年。
  • 沖縄県文化環境部自然保護課編 『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(菌類編・植物編)-レッドデータおきなわ-』、2006年。
  • 沖縄県版レッドデータブック編集委員会, ed (2018). “クロボウモドキ”. 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-菌類編・植物編-. 沖縄県. pp. 158–159. https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/hogo/okinawa_rdb_kinrui_syokubutu.html 
  • 大橋広好 (2015). “バンレイシ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 75. ISBN 978-4582535310 

外部リンク[編集]