キャッシュ・コンバージョン・サイクル

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会計学におけるキャッシュ・コンバージョン・サイクル: cash conversion cycleCCC)は仕入代金の支払いから売上代金の回収までにかかる期間である[1]現金循環化期間とも呼ばれる[2]

概要[編集]

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は次の式で定義される[3]

CCC=棚卸資産回転期間+売上債権回転期間-仕入債務回転期間

例えば、「仕入れ/現金・販売/即日・支払い/クレジットカード60日後決済」の場合、 となる。「仕入れ/クレカ60日後決済・販売/即日・支払い/現金」の場合、 となる。

CCCが正の場合、その期間中はキャッシュが流出している[4]。CCCが負の場合、キャッシュは流出せずむしろCCC期間中は一時的に運用可能なキャッシュが増加する[5]。すなわちCCC>0の企業は支払回収までの運転資金が必要であり、CCC<0の企業は運転資金無しかつ利益の先払いを受けることが可能になっている。

企業の売上が上昇している局面において、CCCが正の企業は事前に運転資金を積み増しておく必要がある。そうしないと売上上昇の元となる仕入が不可能になってしまう。ゆえに利益が発生しても研究開発への割り振り(先行投資)が難しい。一方CCCが負の場合は運転資金が不要であるため売上増にキャッシュを必要とせず、利益由来のキャッシュを更なる発展のために先行投資できる(あるいは今期の配当にできる)[6]。負のCCCを活かした急成長・積極投資をおこなう会社としてAmazon.comがよく知られている[6]

CCCを減少させる要素の1つは仕入債務回転期間である。すなわち仕入業者への支払期間を延ばす交渉ができればCCCは減少する。一方でこのことは、再契約時に支払期間の短縮を求められた場合CCCが増加することを意味している[7]

このようにCCCはキャッシュ・フローおよびそれを用いた投資戦略へ多大な影響を与える。ゆえにCCCは管理会計経営における重要指標としてしばしば利用される。またCCCはサプライチェーン・マネジメントにおける主要交渉要素となりうる。

脚注[編集]

  1. ^ "仕入債務の支払い時点から販売した商品・製品の売上代金を回収する時点までの CCC の期間" 井岡. (2018). キャッシュ・コンバージョン・サイクルにもとづくキャッシュマネジメントにおける財務分析. 商学論究.
  2. ^ "CCCは、 現金循環化期間ともよばれ" 井岡. (2018). キャッシュ・コンバージョン・サイクルにもとづくキャッシュマネジメントにおける財務分析. 商学論究.
  3. ^ "CCC は ... 次式のように定義される。 CCC=棚卸資産回転期間+売上債権回転期間-仕入債務回転期間" 井岡. (2018). キャッシュ・コンバージョン・サイクルにもとづくキャッシュマネジメントにおける財務分析. 商学論究.
  4. ^ "CCC が正の値となる場合 ... CCC の期間、 支払った仕入債務の額だけの資金需要が生じる" 井岡. (2018). キャッシュ・コンバージョン・サイクルにもとづくキャッシュマネジメントにおける財務分析. 商学論究.
  5. ^ "CCC が負の値となる場合 ... 売上債権回収時点から仕入債務支払時点までの間、 回収金額の分を運用可能な状況となる。" 井岡. (2018). キャッシュ・コンバージョン・サイクルにもとづくキャッシュマネジメントにおける財務分析. 商学論究.
  6. ^ a b "アマゾンの2013年のCCCは実にマイナス30.6日であった。 ... アマゾンの場合、キャッシュはすべて、継続的な急成長をまかなうために使われている。借り入れや株の発行をしなくても、新たな分野への進出と製品・サービスの改良のためにキャッシュを使い続けることができる。" ジャスティン・フォックス. (2014). キャッシュフローに見るアマゾンの真の優位. Harvard Business Review.
  7. ^ "サプライヤーはこの状況にいつまでも甘んじてはいないだろう、とする意見もある。実際に、最近のアマゾンの四半期報告書では支払い期間の短縮も見られ" ジャスティン・フォックス. (2014). キャッシュフローに見るアマゾンの真の優位. Harvard Business Review.

関連項目[編集]