ウクライナ鉄道HRCS2形電車

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ウクライナ鉄道HRCS2形電車
"ウクライナ・エクスプレス"
Український експрес
HRCS2-004編成
基本情報
運用者 ウクライナの旗ウクライナ鉄道
製造所 現代ロテム
製造年 2011年 - 2012年
製造数 9両編成10本
運用開始 2012年5月25日
主要諸元
編成 9両編成
軌間 1,520mm
電気方式 直流3,000 V、交流20,000 V 50 Hz
架空電車線方式
最高運転速度 160 km/h
設計最高速度 176 km/h
編成定員 1,162人(合計)
579人(着席合計)
168人(一等座席)
411人(二等座席)
編成重量 413.96 t
全長 21,700 mm
全幅 3,500 mm
全高 4,274 mm
車体 ステンレス
備考 主要数値は[1][2][3][4]に基づく。
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HRCS2形は、ウクライナ国営鉄道会社であるウクライナ鉄道2012年から営業運転を開始した交直流電車ウクライナ・エクスプレスウクライナ語: Український експрес)の愛称を持つ[2][3][5][4]

概要[編集]

2012年に開催されたUEFA EURO 2012に合わせて設定される都市間速達列車用として、先立つ2010年12月ウクライナ鉄道から現代ロテムへ発注された形式。2011年12月に最初の編成(002編成)が落成した[2][6][7]

編成は9両編成を基本としており、ステンレス製の車体は-40℃の極寒にも対応できる設計となっている。直流3,000 Vと交流20,000 V・50 Hz双方に対応しており、集電装置や主変圧器は付随車(T)に搭載されている。車内の座席配置は一等車が2列+2列、二等車が3列+2列のクロスシートで、シートピッチは一等車が500 mm、二等車が450 mmである。車内ではWi-Fi通信が可能な他、車内販売による飲食物の販売も行われる。編成の構成は以下の通りである[3][6]

編成
Mc1 T MB M2 T M1 M2 T Mc2

運用[編集]

2011年12月に製造された最初の編成(002編成)は翌2012年3月11日にウクライナに到着した。以降は走行予定の区間で試運転が行われ、残りの9編成についても同年8月までに導入が実施された。そして2012年5月25日からキーウ - ハルキウ間で暫定的な営業運転に投入され、同年6月7日から都市間高速列車"ウクライナ・エクスプレス"としての運用を開始した[6][5]2019年現在、ウクライナの首都キーウを中心にハルキウリヴィウドネツクなど各都市を結ぶ速達列車である"インターシティ"や"インターシティ+ウクライナ語版"(Інтерсіті+)に使用されている[7]

HRCS2形の導入により、キーウ- ドネツク間の所要時間がそれまでの12時間から7時間となるなど大幅な高速化・時間短縮が実現した。また、運用開始に先立ち走行区間の高速化対応工事[注釈 1]や電化工事を実施した他、新たな列車種別として"インターシティ"や"インターシティ+"が設定された一方、夜行列車の大規模な削減が実施されるなどウクライナ鉄道自体にも大きな変化が生じている[3][5]

トラブル[編集]

試運転の時点からHRCS2形はトラブルが報告されており、2012年4月5日は曲線走行時にせり出した車体がプラットホームに接触し損傷する事故が起きていた[8]。暫定的な営業運転が始まった直後の同年5月28日にはブレーキの故障が発生し、更にそこから1ヶ月半の間に10件の故障が報告され、1年後の2013年の時点でその数は178件にも増加した[7]。中には本来の目的であるUEFA EURO 2012へのファンを乗せた列車が故障により運行停止となったケースも存在する[9]

故障の種類は多岐に渡り、ブレーキ系統の故障やコンピュータの不具合、集電装置の故障、空調装置の停止などが発生した。特に冬季は車体下部に雪が付着することによる電力系統のショートが頻発し、それによる空調装置や照明の停止も起きた。2012年の冬季にはパンタグラフが炎上した事で電源が切断され、それにより電線全体に高圧電流が流れ、近隣の変電所の機器が全焼する事態も起きた[4]

これらの多数のトラブルにより乗客からの訴訟や改善を求めた署名が相次ぎ、運賃の払い戻しは2013年1月の時点で80万フリヴニャにも達した。そして同月にはヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領(当時)がHRCS2形の導入は失敗であった事を国民へ公式に謝罪する事態となった。現代ロテム側もウクライナ鉄道との協議によりトラブルの原因となった電気機器、集電装置、制動装置をはじめとする部品の修繕を行う契約を交わしたが、翌2014年2月12日、ウクライナ鉄道はHRCS2形の車体や台枠に金属疲労によって生じた亀裂が見つかった事を発表し、全車営業運転から離脱するまでに至った[4][10]

その後、韓国へ返却された車両は現代ロテム側からの費用捻出による台枠を含めた修繕・改良工事が行われ、2014年7月までに全車両とも完了した。営業運転への復帰は同年の5月6日からとなった[11][12]。以降も電源の温度低下や交直切換の失敗などによる運行停止などのトラブル[13]は報告されているものの、車両の構造が原因となるトラブルは冬季も含め大幅に減少しており、2017年11月22日には現代ロテムによる車両保守契約の延長が行われている[14]

関連形式[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 最高速度をそれまでの140 km/hから160 km/hへ向上させた。

出典[編集]

  1. ^ Ukraine Intercity Express EMU 현대로템 2019年7月23日閲覧
  2. ^ a b c 현대로템, 우크라이나 전동차 출고행사2011年12月20日作成 2019年7月23日閲覧
  3. ^ a b c d Hyundai Rotem HRCS2 na Ukrainie2012年10月3日作成 2019年7月23日閲覧
  4. ^ a b c d 加納信吾 2015, p. 37-38.
  5. ^ a b c «Хюндай»-революція - ウェイバックマシン(2013年10月29日アーカイブ分)
  6. ^ a b c Inter-city EMUs being commissioned for Euro 2012 Railway Gazette 2012年5月10日作成 2019年7月23日閲覧
  7. ^ a b c 加納信吾 2015, p. 37.
  8. ^ Новый корейский "чудо-поезд" уже разбили об украинский перрон? - ウェイバックマシン(2012年4月9日アーカイブ分)
  9. ^ НОВІ СУПЕР-ПОТЯГИ "ХЮНДАЙ" ПОЧАЛИ МАСОВО ЛАМАТИСЬ Більше читайте тут: 2012年6月11日作成 2019年7月23日閲覧
  10. ^ Упродовж новорічних та різдвяних свят швидкісні поїзди категорії Інтерсіті+ та Інтерсіті курсували за графіком/ - ウェイバックマシン(2013年1月23日アーカイブ分)
  11. ^ 加納信吾 2015, p. 38.
  12. ^ Поїзд Інтерсіті+ виробництва Hyundai Rotem повернувся на маршрут Київ – Харків – Київ - ウェイバックマシン(2015年12月22日アーカイブ分)
  13. ^ Скоростной поезд Интерсити застрял в Харьковской области на несколько часов2017年12月12日作成 2019年7月23日閲覧
  14. ^ a b Hyundai Rotem EMU maintenance contract extended Railway Gazette 2017年11月22日作成 2019年7月23日閲覧

参考資料[編集]