やねうら王

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やねうら王
作者 磯崎元洋
最新版
7.63 / 2022年6月15日 (22か月前) (2022-06-15)[1]
リポジトリ ウィキデータを編集
プログラミング
言語
C++
対応OS
種別 将棋エンジン
ライセンス GNU GPL v3
公式サイト yaneuraou.yaneu.com ウィキデータを編集
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やねうら王(やねうらおう)は、コンピュータ将棋プログラム。2010年代前半にプロ棋士平手で勝利した事がある強豪ソフトの一つ。

概要[編集]

開発者は磯崎元洋[2][3][4]。名称は開発者の磯崎がパソコン通信時代から使用している[5]ハンドルネーム「やねうらお」に由来する[6][7]。なお、開発者の磯崎自身は、将棋倶楽部24でレーティング1800ほど(二段)の棋力だが、R2400のPonanza開発者山本一成に比べると愛着が薄いと述べている[8]

やねうら王においては、評価値として絶対値「31111」を出力する場合がある。これはやねうら王独自の値で、「優等局面」を表すものであり、これは盤面(盤上の駒配置)は同じなのに、自分の手駒だけが増えている局面であり、この逆に、盤面は同じで、自分の手駒だけが減っている局面は「劣等局面」と呼ぶ。「優等局面」の内部的な評価値は28000であるが、これをcp(centi-pawn)という単位に変換する際、cpでは歩1枚の価値が100であるが、内部的な評価値は歩1枚の価値は90なので、優等局面の時に出力される値は、結果Tとして28000×100/90cp=31111cpとなるのである。なおこの「31111」の値は、勝勢の時に現れることも多いので、必至あるいは一手一手の寄り等の読み切りを表す値と誤解されることもあるが、必至や読み切りなどを表す値では決してなく、あくまでも優等局面を表す値である。

歴史[編集]

2014年に出場した第3回将棋電王戦において佐藤紳哉六段と対局を行い、95手で勝利。この対局においては、本来「前年の電王トーナメント出場時のソフトで対局を行う」というルールがあったのに対し、開発者側からの「致命的なバグがあるので修正したい」という要望を主催者のドワンゴが認めたところ、実際には思考部にも影響が及ぶことが判明したため相手の佐藤側が抗議するという一幕があり、結果的に当初のままのソフトで対局に臨んでいた[9]

2015年に出場した将棋電王戦FINALにおいて稲葉陽七段と対局を行い、116手で勝利。

同年11月に開催された第3回将棋電王トーナメントでは、「超やねうら王」と名称を変更して出場。「Deep Learning」から意味のあるところを抽出した「Cheap Learning」を新たに搭載した。

2016年10月の第4回将棋電王トーナメントでは、「真やねうら王」と名称を変更して出場。

2017年の第5回では「やねうら王 with お多福ラボ」の名称で出場したが準々決勝で敗れた。トーナメントを制した平成将棋合戦ぽんぽこは、やねうら王ライブラリを使用していた。

2018年8月、商用版である「将棋神 やねうら王」がマイナビ出版より発売された。商用版ではやねうら王以外にQhapaqtanuki-(SDT5版及び2018年版)・読み太の思考エンジンも搭載され、ユーザ側で任意に切り替えることができる[10]。磯崎は、続編の『将棋神 やねうら王2』の発売予定があることも明らかにしているが、2021年11月時点で発売日は未定である[11]

2019年の世界コンピュータ将棋選手権では優勝、さらに決勝に残ったソフトが全部やねうら王のライブラリを使用していた。2022年優勝のdlshogi開発者山岡忠夫は、「やねうら王の存在が大きすぎて、みんないなくなってしまった。あの美しいソースコードを読むだけで自分のプログラミングの腕が上がったように感じる」とその存在の大きさを語っている[12]

2023年の世界コンピュータ将棋選手権では磯崎が参加した「やねうら王チーム」が準優勝。ただし、使用したソフトはディープラーニング系ソフトの「ふかうら王」で、NNUE系ソフトである「やねうら王」とは異なる。優勝したのはdlshogiだった。磯崎は将棋AIはディープラーニングの学習のために高性能なマシンを必要とし、競争が札束での殴り合いとなっていると公式サイトで語った[13]

派生ソフトウェア[編集]

本ソフトは2016年にコンピュータ将棋協会(世界コンピュータ将棋選手権の主催者)に対するライブラリ登録を行っており[14]、そのため本ソフトをベースとした将棋ソフトが多数開発されている。

世界コンピュータ将棋選手権におけるやねうら王ライブラリ勢の主な成績
  • 2017年 elmo優勝
  • 2018年 Hefeweizen優勝
  • 2019年 やねうら王優勝
  • 2021年 elmo優勝

2020年の世界コンピュータ将棋選手権はCovid-19感染拡大のため中止となったが、代替開催された「世界コンピュータ将棋オンライン大会」でやねうら王ライブラリ勢の水匠が優勝した。

2017年の世界コンピュータ将棋選手権時に、Ponanza開発者の山本一成が「今年の世界コンピュータ将棋選手権のPonanzaはたぶんめちゃめちゃ強いことになる。過去現在、そして下手したら今後数年の未来までも含めて史上最強の将棋プログラムになるかもしれない。」と発言していたが、elmoが2次予選と決勝で2連勝し、優勝している。以降、Ponanzaは世界コンピュータ将棋選手権に出場していない。

2018年の世界コンピュータ将棋選手権決勝に残った8チーム中Apery以外はやねうら王エンジン使用。

やねうら王自身も2019年5月に世界コンピュータ将棋選手権に初出場し、優勝と同時に新人賞を獲得した。決勝に残った8チーム全てがやねうら王エンジン使用。

2020年3月に開かれたコンピュータ5五将棋の国際大会「第12回UEC杯 in GAT」にて、やねうら王を改造した5五将棋ソフト「ShioRamen」が全戦勝利を収め、優勝した[15][16]

競技会成績[編集]

大会/年 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
世界コンピュータ将棋選手権 1 3
将棋電王トーナメント 4 3 4 3 F

開発方針[編集]

電王戦FINALでのインタビューで、磯崎は以下のように述べている[17]

私はたぶん開発者の中ではいちばんやる気のない将棋ソフトの開発者だと思うのですが、将棋ソフトの開発者の方って、昔から卒業といいますか辞めていく方が多いと思います。つくりはじめて1年ぐらいはどんどん強くなって、自分の棋力を追い抜くのでやっていて楽しいのですが、2年目ぐらいからやってもあまり強くならないという状況になりまして、飽きが来るのかと思います。そういうことが分かっているので私の場合は、あまり打ち込まないようにして、毎年2週間ずつぐらい開発していくようにして、モチベーションを保つようにしています

出典・参考[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Releases”. GitHub. 2022年6月25日閲覧。
  2. ^ いそざき もとひろ。1971年生まれ。音楽ゲームBM98の作者。梯子メーカー勤務後、2015年現在はセキュリティ会社CTO。
  3. ^ 将棋電王戦FINAL 第3局――人類初の“勝ち越し”をかけて 稲葉陽七段 VS. やねうら王の見どころはねとらぼ2015年03月26日
  4. ^ 電王戦,なんで勝てたんですか?――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第15回は,「BM98」を開発した伝説的なプログラマー・やねうらお氏がゲスト4Gamer.net
  5. ^ http://bm98.yaneu.com/bickle/
  6. ^ ハンドルネーム「やねうらお」の由来は、中学2年の時に、屋根裏部屋でゲーム制作会議を開いた事だとされている
  7. ^ http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20081222
  8. ^ 磯崎元洋 (2013年8月23日). “第3回将棋電王戦にでますん”. やねうらお-ノーゲーム・ノーライフ. 2015年6月1日閲覧。
  9. ^ 「将棋電王戦」第2局は「やねうら王」改変前のソフトで対局-ドワンゴが会見 - マイナビニュース・2014年3月19日
  10. ^ 「将棋神 やねうら王」が8月10日に発売決定。5つの思考エンジンを収録 - 4gamer.net・2018年6月13日
  11. ^ スーパーテラショック定跡が76歩に34歩を全否定 - やねうら王・2021年11月5日
  12. ^ 最強CPU将棋ソフト『水匠』VS最強GPU将棋ソフト『dlshogi』長時間マッチ観戦記 第二譜『dlshogi』山岡忠夫の信念 | ニコニコニュース オリジナル
  13. ^ 第33回世界コンピュータ将棋選手権準優勝記”. やねうら王 公式サイト (2023年5月13日). 2023年5月21日閲覧。
  14. ^ コンピュータ将棋選手権使用可能ライブラリ
  15. ^ 第12回UEC杯 in GAT5五将棋大会 - 5五将棋 portal
  16. ^ 塩田雅弘, 伊藤毅志「5五将棋における自動対戦を用いた評価関数の学習」『研究報告ゲーム情報学(GI)』2020-GI-44第3号、2020年6月20日、1-6頁、ISSN 2188-87362020年12月28日閲覧 
  17. ^ たった21手で終局した将棋電王戦FINALの第5局顛末とFINAL総括|将棋電王戦FINAL - 週刊アスキー

関連項目[編集]

外部リンク[編集]