読書猿

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どくしょざる

読書猿
職業
  • 読書家
  • 作家
活動期間 1997年 -
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読書猿(どくしょざる、英: readingmonkey)は、日本の読書家・作家である[1][2][3]。「独学の達人[2][3]」「博覧強記の読書家[1]」などと称されている。

来歴・人物[編集]

大学の哲学科出身[4]。既婚者[4]地方在住[4]

幼少期から読書が苦手で、読書開始から20分以内には集中力が切れていたために、本を1冊読み終えるのに5年ほど掛かっていたことから、「読書家、読書人を名乗る方々に遠く及ばない浅学の身」として読書猿を名乗っている[1][5]1997年からメルマガを開始し、2008年からブログ「読書猿 Classic」を開始し、主催している[5][6]。昼間は組織人として働いているため、通勤電車の中で原稿を書いたり、読書をしたりしていると話している[7][4]

トマス・アクィナスの『神学大全』のように、幅広い知識を網羅・注釈・組織した上で初心者が学習するための書物となることを願って、自身の書物に「大全」というタイトルを付けている[6]。『独学大全―絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』は、「紀伊國屋じんぶん大賞2021 読者と選ぶ人文書ベスト30」では3位に入賞し[8]、「アンダー29.5人文書大賞」では新刊部門の1位を受賞している[9]。2020年10月には、東洋経済オンラインAmazonと共同で行っている「ビジネス・経済書」200冊ランキングで2週連続1位にランクインし、[10]、その後も1位に数回返り咲いている[11][12]

『アイデア大全 創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール』は、ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」で紹介されており、東洋経済オンラインAmazonと共同で行っている「ビジネス・経済書」200冊ランキングでは13位にランクインした[13]

エッセイ「私をつくった中公新書」では、自分を作ったとする3冊として『数学の世界』『問題解決の心理学 人間の時代への発想』『人はいかに学ぶか 日常的認知の世界』の3冊を挙げている[14]

執筆の他に、良書の復刊をライフワークに掲げており[15][16]、これまで『現代文解釈の基礎』[17][18]『数学の世界』[19]『現代文解釈の方法』[18] 『作家の仕事部屋』[20][21][22]の復刊に関わり、いずれも巻末解説を書いている。また『証明の読み方・考え方 原著第6版』[23]については出版を後押しし[24]帯に推薦文を寄せている[25][26]

思想・主張[編集]

人文知[編集]

読書猿は、人文知を重視し、著書やインタビューなどで人文知について繰り返し発言している。

最初の著書である『アイデア大全』の序文では、人文学の任務を「人が忘れたものや忘れたいものを、覚えておき/思い出し、必要なら掘り起こして、今あるものとは別の可能性を示すことである」と定義している。

たとえば「好書好日」のインタビュー[7]では、イタリア・ルネサンス期の人文主義者たちは書記官や行政長官などの実務家であり、古代ローマの政治家で哲学者だったキケロを敬愛していたことを指摘し、人文学は実践知の流れから出てきたものだと主張している。

猫町倶楽部の読書会で著書『独学大全』が取り上げられた際には質問に答え[27]、人文知を「書き言葉を外部足場として活用する知的営為」と定義している。人間は書き言葉の量的拡大に伴い、目次や索引、文献目録などの技術を用いて書き言葉を扱うようになり、注釈や辞典などを通じて書き言葉を理解するようになった。こうした書き言葉を外部足場として活用する技術は、長い時間をかけて再帰的に拡張され、現在では専門分化した諸学問に分有されているという[27]

また、復刊に関わった『現代文解釈の基礎』をめぐるインタビュー[28]では、文学作品をロジカルに読むことは天賦の才能でもないかぎり教わらないとできないが、人文学ではそういう読み方が基礎の基礎だと述べている。『現代文解釈の基礎』という本は、そうした人文学の超入門書にもなっていると評価している。

独学[編集]

読書猿は、『独学大全』という独学についての書物を書く一方、インタビューなどでその意義や特性について発言している。

「好書好日」のインタビュー[7]では、独学を「学習の最後の砦、セーフティネット」のようなものだと指摘している。そして、どれだけ学ぶための機会や資源が限られていても、独学という希望が残されているからだ。彼は「あなたがあきらめないかぎり、知はあなたを見放さない」と述べ、独学の可能性を強調している。

著書『独学大全』の書き出しでは、独学者とは「学ぶ機会も条件も与えられないうちに、自ら学びの中に飛び込む人」のことであると定義している。また『BRUTUS』のインタビューに答え、独学の最大の利点は、何を学ぶか、どんな方法で学ぶかを自分で決められる自由にあると考えている[29]

著書[編集]

単著[編集]

共著[編集]

  • 『人生を変えるアニメ (14歳の世渡り術)』河出書房新社 編集(河出書房新社、2018年8月、ISBN 9784309617145[30]
  • 『ライティングの哲学――書けない悩みのための執筆論』千葉雅也、山内朋樹、瀬下翔太 共著、(星海社新書、2021年7月、ISBN 9784065243275[31]
  • 『独学の教室』読書猿、吉田武ウスビ・サコ、澤井康佑、鎌田敬介、志村真幸、青い日記帳、永江朗、佐藤優、柳川範之、石塚真一、岡部恒治、深川峻太郎、角幡唯介 共著(集英社インターナショナル新書、2022年8月、ISBN 9784797681079[32]
  • 『絶版本』古田 徹也、 伊藤 亜紗、 藤原 辰史、 佐藤 卓己、 荒井 裕樹、 小川 さやか、 隠岐 さや香、 原 武史、 西田 亮介、 稲葉 振一郎、 荒木 優太、 辻田 真佐憲、 畑中 章宏、 工藤 郁子、 榎木 英介、 山本 貴光、 吉川 浩満、 読書猿、 岸本 佐知子、 森田 真生、 ドミニク チェン、 赤坂 憲雄、 斎藤 美奈子、 鷲田 清一 共著(柏書房、2022年9月、ISBN 9784760154807[33]
  • 『つながる読書 ─10代に推したいこの一冊』小池陽慈 (編集)、三宅香帆、宮崎智之、安積宇宙、藤本なほ子、小川公代、田中健一、木村哲也、御手洗靖大、小川貴也、渡辺祐真(スケザネ)、木村小夜、仲町六絵、岡本健、向坂くじら、読書猿、草野理恵子(筑摩書房、2024年2月、ISBN 9784480684769[34]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 読書猿 | 著者ページ”. 東洋経済オンライン. 2021年4月29日閲覧。
  2. ^ a b 独学の達人が教える「歴史を学んでもどうせ意味がないよね」への究極の答え【新年度におすすめの記事】”. ダイヤモンド・オンライン. 2021年4月29日閲覧。
  3. ^ a b 横山耕太郎 (2020年12月30日). “「自己啓発の悪循環を断ち切れ」独学の達人・読書猿オススメの年末年始に読むべき1冊”. www.businessinsider.jp. 2021年4月29日閲覧。
  4. ^ a b c d 在野に学問あり 第6回 読書猿さん|B面の岩波新書”. B面の岩波新書. 2021年9月5日閲覧。
  5. ^ a b 読書猿 DOKUSHOZARU | 現代ビジネス @gendai_biz”. 現代ビジネス. 2021年4月29日閲覧。
  6. ^ a b 読書猿 | 著者ページ”. ダイヤモンド・オンライン. 2021年4月29日閲覧。
  7. ^ a b c 「独学大全」読書猿さんインタビュー 学ぶとは、生い立ちや境遇から自由になる最後の砦|好書好日”. 好書好日. 2021年4月29日閲覧。
  8. ^ 「紀伊國屋じんぶん大賞2021 読者と選ぶ人文書ベスト30」を発表 | 株式会社 紀伊國屋書店”. 株式会社 紀伊國屋書店 - (2020年12月25日). 2021年4月29日閲覧。
  9. ^ 30歳以下の投票による「アンダー29.5人文書大賞」 「若者たちが選ぶ本は一般のランキングとは違う」|じんぶん堂”. じんぶん堂. 2021年4月29日閲覧。
  10. ^ 最新!「ビジネス・経済書」200冊ランキング | Amazon週間ビジネス・経済書ランキング”. 東洋経済オンライン (2020年10月27日). 2021年9月12日閲覧。
  11. ^ 最新!「ビジネス・経済書」200冊ランキング | Amazon週間ビジネス・経済書ランキング”. 東洋経済オンライン (2020年11月17日). 2021年9月12日閲覧。
  12. ^ 最新!「ビジネス・経済書」200冊ランキング | Amazon週間ビジネス・経済書ランキング”. 東洋経済オンライン (2020年12月1日). 2021年9月12日閲覧。
  13. ^ 最新!「ビジネス・経済書」200冊ランキング | Amazon週間ビジネス・経済書ランキング”. 東洋経済オンライン (2017年6月20日). 2021年4月29日閲覧。
  14. ^ 私をつくった中公新書/読書猿”. Web中公新書|中央公論新社. 2021年4月29日閲覧。
  15. ^ 【読書猿】「伝説の参考書」で知の土台を磨こう”. NewsPicks. 2022年8月7日閲覧。
  16. ^ 元司書が語る! 国立国会図書館の絶版本「読み放題解禁」がスゴい 読書猿が推す「良書復刊」プロジェクト 読書猿×書物蔵対談”. ダイヤモンド・オンライン. 2022年8月7日閲覧。
  17. ^ 伝説の現代文教本が復刊! 『独学大全』読書猿がすすめる『着眼と考え方 現代文解釈の基礎〔新訂版〕』解説”. じんぶん堂. 2022年8月7日閲覧。
  18. ^ a b 現代文解釈の基礎・方法 特設ページ”. 筑摩書房. 2022年12月20日閲覧。
  19. ^ 中公文庫『数学の世界』”. 中央公論新社. 2022年8月7日閲覧。
  20. ^ 中公文庫『作家の仕事部屋』”. 中央公論新社. 2023年8月28日閲覧。
  21. ^ 読書猿のツイート 2022年2月3日”. twitter. 2023年8月28日閲覧。
  22. ^ 読書猿のツイート 2023年6月1日”. Twitter. 2023年8月28日閲覧。
  23. ^ 証明の読み方・考え方〔原著第6版〕”. 共立出版. 2023年11月26日閲覧。
  24. ^ 共立出版のツイート(2023年12月15日)”. Twitter. 2023年12月15日閲覧。
  25. ^ 共立出版 アリがと蟻、 2023年10月30日のツイート”. twitter. 2023年11月26日閲覧。
  26. ^ 【読書猿】「伝説の参考書」で知の土台を磨こう”. Newspicks. 2023年11月26日閲覧。
  27. ^ a b 【独学大全】読書猿さんからの回答がきたよ!!!【最終回】”. 猫町倶楽部. 2024年3月30日閲覧。
  28. ^ 『現代文解釈の基礎』と出会って、僕は人になろうと思った 『着眼と考え方 現代文解釈の基礎〔新訂版〕』復刊秘話 読書猿さんインタビュー”. 筑摩書房. 2024年3月30日閲覧。
  29. ^ 『独学大全』の著者・読書猿が伝授。好きなものを好きなだけ学ぶ「独学」のススメ〜前編〜”. BRUTUS. 2024年3月30日閲覧。
  30. ^ 人生を変えるアニメ”. 2021年7月24日閲覧。
  31. ^ ライティングの哲学――書けない悩みのための執筆論”. 2021年7月24日閲覧。
  32. ^ 独学の教室|集英社インターナショナル新書”. 集英社インターナショナル. 2022年8月7日閲覧。
  33. ^ 絶版本”. 柏書房. 2022年10月8日閲覧。
  34. ^ つながる読書 ─10代に推したいこの一冊”. 筑摩書房. 2024年3月6日閲覧。

外部リンク[編集]