ユウゼン

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ユウゼン
ユウゼンChaetodon daedalma
保全状況評価[1]
情報不足環境省レッドリスト
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
亜目 : スズキ亜目 Percoidei
: チョウチョウウオ科 Chaetodontidae
: チョウチョウウオ属 Chaetodon
: ユウゼン C. daedalma
学名
Chaetodon daedalma
D. S. Jordan & Fowler, 1902
和名
ユウゼン
英名
Wrought iron butterflyfish

ユウゼン(友禅、学名:Chaetodon daedalma)は、スズキ目チョウチョウウオ科に分類される魚類の一種。チョウチョウウオ科の魚で唯一の日本固有種とされている[2]。種小名は「芸術的な刺繍の様式」を意味し、本種の体側の網目模様に由来する[3]

形態[編集]

幼魚
  • 全長は約15cm[2]
  • 背鰭の後縁が垂直に落ちていて、体形は四角形に見える[4]
  • チョウチョウウオ科では珍しく全身が黒色で地味だが、体側には鱗の縁の色に由来する非常に小さい白い斑点が散りばめられ、背鰭後方、尾鰭、臀鰭の縁は黄色である。和名はその繊細な美しさから友禅にちなんで付けられた[2]
  • 幼魚も成魚も目を通る黒い帯がない[5]
  • 体側に白い横帯がある[注釈 1]
よく似た種
イースターアイランド・バタフライフィッシュ

よく似た種としてイースターアイランド・バタフライフィッシュがいる[7]。この種はイースター島の固有種で、胸鰭、尾鰭以外の鰭の縁が白い。本種[8]と同様に、この種も好奇心が強い[7]

生態[編集]

雑食で、プランクトン、魚卵、藻類などを食べる[9]小笠原諸島のものはパンに餌付いている[4]

成魚は潮通しの良い水深1-30mのサンゴ礁、岩礁域に生息している。普段はペアで行動するが、春と秋にユウゼン玉と呼ばれる集団を形成する[10]。この集団行動は繁殖のため[9]、岩に産み付けられたスズメダイの卵を奪って捕食するため[10]、身を守るため[11]と考えられている。

同じチョウチョウウオ属のカガミチョウチョウウオ[2]コクテンカタギ[12]との交雑と思われる個体が観察されることがある。

分布[編集]

八丈島から小笠原諸島にかけての島々に数多く生息する。三宅島より北では数が少なくなる[13]沖縄奄美群島本州中部以南の太平洋側にも生息記録がある[2][13][14]

大東諸島のユウゼンはミナミユウゼンと呼ばれることがある[15]

人とのかかわり[編集]

観賞用に飼育されることがある。滅多に輸出されない[14]ため、珍種として扱われる[9]。餌付けは容易だが、病気と高水温には弱い[4]

主要な分布域である八丈島[16]や小笠原諸島[9]では、本種を見るために来島するダイバーが多い。本種は好奇心が強く[8]、ダイバーに近寄る[9]

小笠原諸島では釣りで釣れることがある[6]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 飼育下では白帯が消失する[6]

出典[編集]

  1. ^ 【魚類】海洋生物レッドリスト” (PDF). 環境省. p. 5 (2017年). 2020年8月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月15日閲覧。
  2. ^ a b c d e 中村(2003), p. 13.
  3. ^ Christopher Scharpf & Kenneth J. Lazara (2021年1月10日). “Order ACANTHURIFORMES (part 1): Families LOBOTIDAE, POMACANTHIDAE, DREPANEIDAE and CHAETODONTIDAE”. The ETYFish Project. 2021年10月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年11月3日閲覧。
  4. ^ a b c 荒俣、中村(1997).
  5. ^ 瀬能、吉野(2008).
  6. ^ a b 荒俣、さとう、荒俣(2004).
  7. ^ a b 中村(2003), p. 23.
  8. ^ a b ユウゼン”. 美ら海生き物図鑑. 美ら海水族館. 2021年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月9日閲覧。
  9. ^ a b c d e 南俊夫 (2018年12月6日). “『ユウゼン』日本固有の魚がこんなに見られる小笠原の海は凄い”. 小笠原村観光局. 2021年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月9日閲覧。
  10. ^ a b 加藤(2014).
  11. ^ Bec Crew (2020年4月27日). “The wrought-iron butterflyfish is the most metallic of all fish”. Australian Geographic. 2021年8月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月20日閲覧。
  12. ^ 佐野、奥沢、山川、望月(1984).
  13. ^ a b 川瀬裕司 (2011年). “日本固有のチョウチョウウオ ユウゼン”. 千葉日報. 2020年2月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月19日閲覧。
  14. ^ a b Froese, Rainer & Daniel Pauly. “Chaetodon daedalma”. FishBase. 2020年11月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月11日閲覧。
  15. ^ 海の生物”. 北大東村. 2022年3月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月29日閲覧。
  16. ^ ユウゼン”. 島の生きもの. 八丈ビジターセンター (2006年11月6日). 2021年5月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月19日閲覧。

参考文献[編集]

  • 荒俣宏、中村庸夫(写真)『チョウチョウウオの地球』エムピージェー、1997年、156頁。ISBN 4-89512-223-9 
  • 中村庸夫『チョウチョウウオガイドブック』TBSブリタニカ、2003年、13,23頁。ISBN 4-484-03404-2 
  • 荒俣宏、さとう俊、荒俣幸男『磯採集ガイドブック』阪急コミュニケーションズ、2004年、81頁。ISBN 4-484-04401-3 
  • 瀬能宏監修、吉野雄輔著『日本の海水魚』山と溪谷社、2008年、233頁。ISBN 978-4-635-07025-6 
  • 加藤昌一『改訂新版 海水魚』誠文堂新光社、2014年、146頁。ISBN 978-4-416-71420-1 
  • 佐野光彦、奥沢公一、山川卓、望月賢二「小笠原諸島から採集されたチョウチョウウオ属魚類の種間雑種」『魚類学雑誌』第31巻第1号、日本魚類学会、1984年5月15日、79-82頁、doi:10.11369/jji1950.31.79 

関連項目[編集]