ミズクラゲ

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ミズクラゲ
ミズクラゲの成体
分類
: 動物界 Animalia
: 刺胞動物門 Cnidaria
: 鉢虫綱 Scyphozoa
: 旗口クラゲ目 Semaeostomeae
: ミズクラゲ科 Ulmaridae
: ミズクラゲ属 Aurelia
: ミズクラゲ Aurelia sp.
学名
Aurelia sp.
タイプ種
Aurelia aurita
和名
ミズクラゲ(水海月)
ヨツメクラゲ
英名
Moon Jelly
Water Jelly
1.胃腔 2.触手 3.口腕 4.中膠 5.生殖腺 6.放射管 7.口

ミズクラゲ(水海月、Aurelia aurita)は、ミズクラゲ科に属するクラゲの一種。

日本近海でも最も普通に観察できるクラゲである。傘に透けて見える胃腔、生殖腺が4つあることから、ヨツメクラゲとも呼ばれる[1]

特徴[編集]

成体で傘の直径15 - 30cm、それ以上のものも稀に見られる。傘には、縁辺部に中空の細く短い触手が一列に無数に並ぶ。傘の下側の中央に十字形に口が開き、その4隅が伸びて、葉脈の位置で二つ折りにしたヤナギの葉のような形の4本の口腕となる。

体は四放射相称で、口腕の伸びる方向を正軸、その中間の軸を間軸という。間軸の方向に4つの丸い胃腔があり、馬蹄形の生殖腺に取り囲まれる。このため、4つの眼があるように見える。まれに五放射、六放射になっているものも見られるが、基本的な体の作りは同じである。

刺胞を持つが、刺されてもほとんど痛みを感じることはない。ただし、遊泳中に皮膚の角質の薄い顔面にふれたときに、人によっては多少の痛みを感じる。2005年の研究によると、ザリガニに対する毒性試験で猛毒のハブクラゲ14程度の毒を持っているとされ、分子量43000の酸性タンパク質が毒性物質の主成分と考えられている[2]

北緯70度から南緯40度くらいまでの世界中の海に分布し、30 - 32‰(パーミル)の低い塩分濃度で、水温9 - 19°C(-6°Cから30°C程度までは生息可能とされる)の沿海に多く分布する。日本沿岸でも大発生がしばしば見られ、漁網を破損させたり、発電所の取水口に詰まって発電を停止させる事故を起こすなどの害をなすことがある。遊泳能力はクラゲの仲間の中でも低い方で、水中に漂って生活する。雌雄異体であり、雄は透けて見える生殖巣が白っぽく、雌は若干茶色がかっていることで識別できることもある。

餌となるのは主に動物性プランクトンで、時に仔魚を捕食する。遊泳運動は捕食活動も兼ねており、傘を開閉することで縁辺部の触手の間で海水が濾過され、そこに浮遊する動物プランクトンが触手に捕らえられる。餌は触手の刺胞に刺されて麻痺すると同時に粘着性の刺糸に絡めとられ、粘液と繊毛運動により、傘の縁、縁弁の中央の8(胃腔の数の2倍)箇所に団子状に集められる。間欠的に口腕が触手をなでるときに口腕の溝の内側に餌が包み込まれ、繊毛運動によって口に運ばれる。胃腔消化された餌の粒子や液は、放射管から水管(血管のようなもの)を通って全身へと運ばれる。呼吸においても、同じ器官を通して体全体に拡散された海水より酸素を取り込む。

傘を開閉する運動は遊泳と捕食のためだけのものではなく、循環機能を働かせるための運動でもあり、つまり体そのものが心臓の役割を果たしている。また、クラゲ類は中枢神経系を欠き、体のどの部分にあっても一つの神経細胞が命令を下すと、新幹線並の速度で神経伝達が行われ、相対的に統合した運動を行うことができる。傘の縁の8カ所に、光の明暗を感じる眼点とバランスを取るための平衡器を備えた感覚器がある。

繁殖力が強く、生活環も明らかにされていることから研究用途に使われることが多い。また、その半透明の美しい姿は人々を魅了し、ペットとしてもよく飼育されている。

生活環[編集]

鉢クラゲ(ミズクラゲ)の生活史

成熟した雄から精子が水中に放たれ、雌がそれを取り込んで受精をする。受精卵は雌の口腕の保育嚢に運ばれ、卵割を繰り返して体表に繊毛が生じてプラヌラ幼生にまで成長してから海中に泳ぎ出る。プラヌラの長さは約0.2mmで体表の繊毛を動かして回転しながら遊泳する。数日間遊泳した後、適当な付着基盤に付着して変態を開始する。先端に触手が伸び、定着してから15時間ほどでイソギンチャクに似た、ポリプと呼ばれる段階に成長する。変態直後のポリプは2本の触手を持ち、中央に口が開く。触手には刺胞が備わっており、餌を摂ることができる。ポリプは摂餌により成長し、触手の数は4、8、16本と増え、24本に達することもある。成長したポリプは無性生殖で増殖し、コロニーを形成する。無性生殖は直接、あるいは走根(ストロン)上に新しいポリプを形成する出芽と、体が水平方向にのびて、縦に2つに分かれる分裂が主であるが、ポリプが移動した後にシストを作ることもある。

ポリプは非常に優れた再生能力を持つ。例えば細かくすり潰してしまっても、しばらくするとバラバラになった細胞組織が集まり始め、最終的にポリプを再生する。

成長していったポリプは徐々に体にくびれ(環溝)ができ始め(横分体形成、ストロビレーション)、くびれはさらに発達して8枚の縁弁が形成される。この時期のポリプを横分体(ストロビラ)と呼ぶ。横分体はくびれを増やしながら伸びてゆき、やがて先端の触手は吸収されて消失し、各節が分離して海中へと泳ぎ出す。この3mmほどの花のような形をしたエフィラはその一つ一つがミズクラゲの幼生である。腕状の縁弁の間が成長して円形になった時点で成体とほぼ同じ形の稚クラゲ(直径1から2cm)になる。エフィラと稚クラゲの間にメテフィラと呼ばれる段階を区別することもある。

プラヌラ→ポリプ→ストロビラ→エフィラ→(メテフィラ)→稚クラゲ→成体

一部の地域個体群では、プラヌラ幼生が直接エフィラ幼生に変態してそのままクラゲになるものがあることが知られている。


ギャラリー[編集]

泳ぐミズクラゲ

参考文献[編集]

  • 内田亨時岡隆・谷田専治 著「腔腸動物」、内田亨・監 編『動物系統分類学2 中生動物 海綿動物 腔腸動物 有櫛動物』 2巻、中山書店、1961年。OCLC 672633613 
  • 坂田明『クラゲの正体』晶文社、1994年。ISBN 4794961855OCLC 47346957 
  • 安田徹『ミズクラゲの研究』日本水産資源保護協会、1988年。NAID 10007462948 
  • 岩間靖典 著、江ノ島水族館・監 編『クラゲ-その魅力と飼い方』誠文堂新光社、2001年。ISBN 4416701284OCLC 54730374 
  • 安田徹、上野俊士郎・足立文 著、安田徹・編 編『海のUFOクラゲー発生・生態・対策』恒星社厚生閣、2003年。ISBN 4769909764OCLC 167761178 
  • ジェーフィッシュ 著、久保田信・上野俊士郎・監修 編『クラゲのふしぎ』技術評論社、2006年。ISBN 4774128570OCLC 675346795 

脚注[編集]

  1. ^ 四つ目・五つ目・六つ目クラゲ”. スタッフブログ. 名古屋港水族館. 2022年8月26日閲覧。
  2. ^ 刺胞毒とその利用東京海洋大学海洋科学部] 日本水産学会誌 Vol.71 (2005) No.6 P 989-990

外部リンク[編集]