ジャコウアゲハ

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ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハ
Byasa alcinous alcinous
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
上目 : Panorpida
: チョウ目 Lepidoptera
亜目 : Glossata
下目 : Heteroneura
上科 : アゲハチョウ上科 Papilionoidea
: アゲハチョウ科 Papilionidae
亜科 : アゲハチョウ亜科 Papilioninae
: キシタアゲハ族 Troidini
: ジャコウアゲハ属 Byasa
: ジャコウアゲハ B. alcinous
学名
Byasa alcinous
(Klug1836)[1]
シノニム

Atrophaneura alcinous

和名
ジャコウアゲハ
英名
Chinese windmill
亜種[1]
  • ジャコウアゲハ本土亜種
    B. a. alcinous (Klug1836)
  • ジャコウアゲハ八重山亜種
    B. a. bradanus (Fruhstorfer1908)
  • ジャコウアゲハ奄美沖縄亜種
    B. a. loochooana (Rothschild1896)
  • B. a. mansonensis
  • ジャコウアゲハ宮古亜種
    B. a. miyakoensis Omoto, 1960
  • ジャコウアゲハ屋久島亜種
    B. a. yakushimana (Edwards[2] et Umeno, 1929)

ジャコウアゲハ(麝香鳳蝶、麝香揚羽、学名: Byasa alcinous または Atrophaneura alcinous)は、チョウ目アゲハチョウ科チョウの一種。

和名は、雄成虫が腹端から麝香のような匂いをさせることに由来する(成分はフェニルアセトアルデヒドであることが判明している[3])。

形態[編集]

成虫は、前翅長45-65 mmを大きく開くと約10cmほど。他のアゲハチョウに比べると、後翅が斜め後方に細長く伸びる。成虫は雌雄の判別が容易で、雄の翅色はビロードのような光沢のある黒色だが、雌は明るい褐色である。

幼虫は、ナミアゲハなどとは違い、終令になっても黒いままで、形も全体に状の突起に被われ、ずいぶん異なった姿をしているが、つつくと臭角を出す点(他のアゲハ類と違い、臭角は少ししか出さない)は同じである。

生態[編集]

成虫が発生するのはからにかけてで、その間に3-4回発生する。成虫は日中の午前8時ごろから午後5時ごろまで活動するとみられる。

川原荒地などの明るい場所や生息地の上を緩やかに飛ぶ。河川付近によく見られるのは、そこが食草の一つである草本のウマノスズクサの成育環境であるからで、生垣付近などウマノスズクサの成育環境があれば見られる。また、木本のオオバウマノスズクサを食草とする地域では、オオバウマノスズクサの生育環境である山林の林縁部、渓谷などで本種が見られる。

幼虫はウマノスズクサ類を食草とする。食草を良く食べ、食草がなくなると共食いをすることもある。 冬は蛹で越冬し、この時期の蛹は数か月羽化せずに過ごす。暖かい時期のは1-2週間ほどで羽化するが、ときに長期休眠する蛹もある。

ベーツ擬態[編集]

ジャコウアゲハ類が食べるウマノスズクサ類は、性のあるアリストロキア酸を含み、ジャコウアゲハは幼虫時代にその葉を食べることによって、体内に毒を蓄積する。この毒は一生を通して体内に残るため、ジャコウアゲハを食べた捕食者中毒をおこし、遂には捕食したものを殆ど吐き出してしまう。一度ジャコウアゲハを捕食して中毒を経験した捕食者は、ジャコウアゲハを捕食しなくなる。

このため、ジャコウアゲハ類に擬態して身を守る昆虫もいくつか存在し、このような擬態をベーツ擬態と呼ぶ。日本で見られる例としては、

がいずれもジャコウアゲハに擬態しているとされている。

分布[編集]

東アジア日本台湾中国東部、朝鮮半島ロシア沿海地方)に分布する。日本では、秋田県以南から八重山諸島まで分布し、南西諸島では多くの亜種に分けられる。

分布は局地的であるが、突然発生することもあるため、食草が無くなるとかなりの長距離を移動するものと考えられている。

人間とのかかわり[編集]

妖怪「お菊虫」(『絵本百物語竹原春泉画)

ジャコウアゲハの蛹は「お菊虫」と呼ばれるが、これは各地に残る怪談皿屋敷』の「お菊」に由来する。

寛政7年(1795年)には、播磨国姫路城下に後ろ手に縛られた女性のような姿をした虫の蛹が大発生し、城下の人々は「昔、姫路城で殺されたお菊の幽霊が、虫の姿を借りてこの世に帰ってきているのだ」と噂したという。このことに因み、兵庫県姫路市ではジャコウアゲハを市の蝶に指定している。戦前まではお菊虫を姫路城の天守やお菊神社でも売っていたといい、志賀直哉の長編小説『暗夜行路』では、主人公がお菊虫を買う描写がある。2010年代半ば頃から、姫路市内では本種の繁殖支援活動が盛んになり、姫路科学館手柄山など食草を多数植え付けられた拠点周辺では本種をよく目撃することができる。姫路市自然観察の森ではネイチャーセンターや園内で飼育しており、一年中、成虫や幼虫、さなぎを観察することができる。

近縁種[編集]

ベニモンアゲハ Pachliopta aristolochiae (Fabricius1775)
東南アジア。日本では、南西諸島南西部に分布する。後翅の中央に白い斑点が1つ、さらにその外縁に和名通り鮮やかなピンクの斑点が並ぶ。体側も鮮やかな赤色をしている。後翅は表側よりも裏側の方が模様が鮮やかである。
アンダマンホソバジャコウ Pachliopta rhodifer Butler1876
インド
アオジャコウアゲハBattus
中央アメリカから南アメリカ
アンテノールジャコウアゲハ(ホシボシジャコウアゲハ) Pharmacophagus antenor (Drury1773)
マダガスカル
トンボジャコウアゲハ Parides hahneli (Staudinger1882)
南アメリカ。
トリバネアゲハOrnithoptera
世界中の蝶コレクターを惹き付ける大型で美麗なトリバネアゲハ属及びキシタアゲハ属アカエリトリバネアゲハ属の総称。トリバネアゲハ属はインドネシアニューギニアオーストラリア北部。キシタアゲハ属は東南アジア。アカエリトリバネアゲハ属はマレー半島、インドネシアのボルネオ島スマトラ島に分布。

脚注[編集]

  1. ^ a b 日本産昆虫学名和名辞書(DJI)”. 昆虫学データベース KONCHU. 九州大学大学院農学研究院昆虫学教室. 2012年5月3日閲覧。
  2. ^ William Henry Edwards or シデナム・エドワーズ
  3. ^ 配偶行動”. 研究内容紹介. 広島大学生物圏科学研究科・化学生態学研究室. 2012年5月3日閲覧。

参考文献[編集]

  • 猪又敏男 編・解説、松本克臣 写真『蝶』山と溪谷社〈新装版山溪フィールドブックス〉、2006年(原著1996年)、13-14,100-101頁。ISBN 4-635-06062-4 
  • 森上信夫、林将之『昆虫の食草・食樹ハンドブック』文一総合出版、2007年、22頁。ISBN 978-4-8299-0026-0 
  • 安田守『イモムシハンドブック』高橋真弓・中島秀雄 監修、文一総合出版、2010年、20頁。ISBN 978-4-8299-1079-5 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]