シジュウカラ

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シジュウカラ
シジュウカラ
シジュウカラ Parus minor
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: スズメ目 Passeriformes
: シジュウカラ科 Paridae
: シジュウカラ属 Parus
: シジュウカラ P. minor
学名
Parus minor
Temminck & Schlegel, 1848[1][2]
和名
シジュウカラ[2]
英名
Japanese tit[1][2]
Eastern Great Tit [3]
Oriental Tit

分布域

シジュウカラ(四十雀、Parus minor)は、シジュウカラ科シジュウカラ属に分類される鳥類

和名は地鳴きの「ジジジッ」が「シジュウ」に聞こえることに由来する。

分布[編集]

日本を含む東アジアロシア極東に分布する。

近縁種の通称ヨーロッパシジュウカラParus major)が、ユーラシア中部・西部と北アフリカに生息する。アムール川流域では2種が交雑なしに共存している[4]

日本では4亜種留鳥として周年生息する。

形態[編集]

全長は約14.5cm[5][6](13 - 16.5cm)で、スズメぐらいの大きさである。翼開長は約22 cm[6][7]。体重は11-20g[3]種小名 minorは「小さな」の意だが、シジュウカラ科の中では大型種である。

体表を覆う羽毛は、上面は青味がかった灰色や黒褐色、下面は淡褐色である。頭頂は黒い羽毛で覆われ、頬および後頸には白い斑紋が入るが、喉から胸部にかけて黒い斑紋に分断され胸部の明色部とは繋がらない。喉から下尾筒(尾羽基部の下面)にかけて黒い縦線が入る。翼の色彩は灰黒色。大雨覆の先端に白い斑紋が入り、静止時には左右1本ずつの白い筋模様の翼帯に見える。

の色彩は黒い。足の色彩は淡褐色。

オスは喉から下尾筒にかけての黒い縦線が、メスと比較してより太い。幼鳥はこの黒い線縦が細く不明瞭であり、また頬および下面に黄色みがある[8]

ユーラシア中部・西部のP. majorは腹部が黄色いが、シジュウカラ P. minorの腹部は白い。また、イシガキシジュウカラなど日本の南部に生息する亜種では背の黄色みがなく、喉から胸部にかけての黒い斑紋は太いなど、他の亜種に比べて全体に黒っぽい。

生態[編集]

ごく普通に見られ、市街地の公園や庭などを含む平地から、標高の低い山地の湿原などに生息し、日本では小笠原諸島を除く全国に分布する。通常は渡りを行わないが、寒冷地に分布する個体や食物が少ない時には渡りを行うこともある。非繁殖期の秋季から冬季には数羽から10数羽、ときに数十羽の群れとなり[8]、シジュウカラ科の他種も含めた小規模な混群も形成する。色々な場所に巣を作り、巣箱も使う。

さえずりは甲高いよく通る声で、姿が双眼鏡を使っても見えないほどの遠くの距離で鳴いていても聞こえてくるくらい声量がある。高い木などに止まり、「ツーピツーピ」「ツィピーツィピーツィピー」「チュチュパーチュチュパー」「パチュパチュパチュパチュパチュパ」「ツーピピッ」「ジャージャー」など20種類ほどあり、同じさえずりを数回繰り返す。近くにいる天敵の種類(猛禽類かなど)により鳴き声の組み合わせを変えて仲間に警告するといった言語能力を持つとして、研究対象になっている[9]後述)。

食性は雑食で、果実種子昆虫クモなどを食べる。地表でも樹上でも採食を行う。

樹洞キツツキ類の開けた穴の内側などに[10]、メスが、主にコケを組み合わせ[8]、覆うように獣毛やゼンマイの綿、毛糸などを敷いた椀状の巣を作り[11]、日本では4 - 7月におよそ7 - 10個の卵を年に1 - 2回に分けて産む。卵の大きさは1.55 - 1.85cm×1.25 - 1.40cmで、色は白色に小さな赤褐色や灰色の斑点がまばらにつく[8]。メスのみが抱卵し、抱卵期間は12 - 14日[8]孵化してから16 - 19日で巣立つ[8]

動物言語学における鳴き声の研究[編集]

シジュウカラは、異なる鳴き声を使い分けて同種の他個体とコミュニケーションをとっており、鳴き声の組み合わせ、順番による「文法」があると推定され、言語学(動物言語学)の研究対象になっている[9]鈴木俊貴(2024年時点では京都大学准教授)は2008年に長野県軽井沢町の森でシジュウカラの巣箱を見回っている時、蛇が樹上に這いあがって来るのに気付いたシジュウカラが「ジャージャー」という、他の外敵を警戒するのとは違う鳴き声を出していることに気づき、捕まえた蛇を他の巣箱に近づけて同じ鳴き声を出させて録音して流すなど実験や研究を重ねた[9]。シジュウカラは冬季にコガラと群れを成すこともあるが、鳴き声の異なるコガラとお互いにそれぞれの言語を学び合い理解することができる上、一部をコガラ語に変えた、ルー語のような文章でも文法があっていれば意味を理解できることも明らかになっている[9][12]。鈴木によると、2024年時点で、シジュウカラが伝える「文」は200種類以上が判明している[9]

シジュウカラは警戒を告げる鳴き声を聴き取った際に、ただ機械的に周囲へ気を配るようになる訳ではなく、合図の意味を脳内でイメージを作り出して理解し直していることが判明している[13]

2016年、鈴木(当時は総合研究大学院大学所属)らのチームは、こうした研究結果を『ネイチャー コミュニケーションズ』に発表した[14][15]。2020年にはNHKダーウィンが来た!』第635回でも放映された[16]

分類[編集]

以前はParus majorの亜種とされ、P. majorの和名がシジュウカラとされていた。2016年時点でもBirdlife InternatinalではParus majorからの分割を認めていない(そのためBirdlife Internatinalに準拠した国際自然保護連合(IUCN)でもP. majorに含まれており本種のレッドデータも存在しない)[17]

以下の分類・分布(日本産亜種は『日本産鳥類目録 改訂第7版』に従う)はIOC World Birdlist(v8.1)に、和名は『日本産鳥類目録 改訂第7版』に従う[2]

Parus minor minor Temminck & Schlegel, 1848 シジュウカラ
アムール川流域から朝鮮半島中華人民共和国長江流域・四川省にかけて、日本(北海道本州四国九州壱岐隠岐対馬伊豆諸島五島列島佐渡島)、サハリン[2]
P. m. artatusP. m. kagoshimaeP. m. wladiwostokensisはシノニムとされる
Parus minor amamiensis Kleinschmidt, 1848 アマミシジュウカラ
日本(奄美大島徳之島[2]
Parus minor commixtus Swinhoe, 1868
中華人民共和国南部、ベトナム北部
Parus minor dageletensis Kuroda & Mori, 1920
大韓民国(鬱陵島
Parus minor nigriloris Hellmayr, 1900 イシガキシジュウカラ
日本(石垣島西表島
Parus minor nubicolus Meyer de Schauensee, 1946
タイ王国北部、ミャンマー東部、インドシナ半島北西部
Parus minor okinawae Hartert, 1905 オキナワシジュウカラ
日本(沖縄島座間味島屋我地島
Parus minor tibetanus Hartert, 1905
中華人民共和国中南部からチベット南部、ミャンマー北部
P. m. subtibetanusはシノニムとされる。

本種は、以前にはParus majorGreat tit)と同一種とみなされ、Parus majorの30以上の亜種の一つに分類位置づけられ、Parus major minorとされていた。

2005年に発表された分類研究により、Parus majorは、Parus majorParus minorParus cinereusの独立した3種に分割された。ただし、この新しい分類はまだ一般に普及しているとはいえず、鳥類図鑑などでは依然として、Parus major minorと表記されていることが多い。

人間との関わり[編集]

石垣や民家などの隙間といった建築物にも営巣し、樹洞に巣を作るため巣箱も利用する。伏せた植木鉢などに営巣することもある[8]

動物園などで飼育対象とされることもある[18]

日本では1997年(平成9年)7月22日から2014年(平成26年)3月31日まで販売された70円普通切手の意匠になった[19][20]

神奈川県茅ヶ崎市では「市の鳥」に制定している[21]

脚注[編集]

  1. ^ a b Waxwings and allies, tits, penduline tits, Gill F & D Donsker(Eds). 2018. IOC World Bird List(v8.1). https://doi.org/10.14344/IOC.ML.8.1(Retrieved 21 February 2018)
  2. ^ a b c d e f 日本鳥学会「シジュウカラ」『日本鳥類目録 改訂第7版』日本鳥学会(目録編集委員会)編、日本鳥学会、2012年、264-266頁
  3. ^ a b Brazil, Mark (2009). Birds of East Asia. Princeton University Press. p. 312. ISBN 978-0-691-13926-5 
  4. ^ Päckert, M.; Martens, J.; et al. (2006), “The great tit(Parus major) - a misclassified ring species”, Biological Journal of the Linnean Society 86 (2): 153–174 
  5. ^ 『フィールドガイド日本の野鳥 増補改訂版』(2007)、262頁
  6. ^ a b 『鳥630図鑑』増補改訂版(日本鳥類保護連盟、2002年)272頁
  7. ^ 中川雄三(監修) 編『ひと目でわかる野鳥』成美堂出版、2010年1月、201頁。ISBN 978-4415305325 
  8. ^ a b c d e f g 高野伸二『カラー写真による 日本産鳥類図鑑』学校法人東海大学出版会、1981年、363-364頁。 
  9. ^ a b c d e シジュウカラと動物言語学 動物と会話する未来への挑戦産経新聞』朝刊2024年3月3日(特集)2024年3月20日閲覧
  10. ^ 文一総合出版編集部編『BIRDER』1994年1月号 第8巻1号/通巻84号(文一総合出版)4-27頁
  11. ^ 小海途銀治郎、和田岳『日本 鳥の巣図鑑 - 小海途銀次郎コレクション』学校法人東海大学出版会〈大阪市立自然史博物館叢書5〉、2011年、260-261頁。ISBN 978-4-486-01911-4 
  12. ^ 日本放送協会(NHK). “【世界初】鳥の言葉を証明!シジュウカラの鳴き声が示す単語と文法とは”. サイエンスZERO. 2023年11月11日閲覧。
  13. ^ “天敵ヘビを鳴き声で警戒、種の壁を越えて 鳥の生態解明”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2020年5月15日). https://www.asahi.com/amp/articles/ASN5H3GQWN5DPLBJ001.html 2020年6月15日閲覧。 
  14. ^ “Experimental evidence for compositional syntax in bird calls”. Nature Communications. (2016年3月8日). https://www.nature.com/articles/ncomms10986 2020年6月15日閲覧。 
  15. ^ “シジュウカラ、「文を作る能力」あった 新発見、言語進化を読み解く鍵に”. ITmedia NEWS (アイティメディア). (2016年3月9日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1603/09/news078.html 2020年6月15日閲覧。 
  16. ^ 【放送後追記】3月15日のダーウィンが来たはシジュウカラ!鳥類屈指の言語能力で都会に進出?”. インコ生活〜飼い方・育て方の総合情報サイト (2020年3月15日). 2020年6月15日閲覧。
  17. ^ BirdLife International. 2016. Parus major. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T22735990A87431138. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T22735990A87431138.en. Downloaded on 21 February 2018.
  18. ^ 【野鳥舎】シジュウカラ、突然のお別れ 京都市動物園飼育員ブログ(2023年6月23日)2024年3月20日閲覧
  19. ^ 新料額の普通切手及び郵便葉書等の発行等(2 販売を終了する普通切手・郵便葉書等の内容)”. 日本郵便株式会社 (2013年12月6日). 2022年6月9日閲覧。
  20. ^ 別紙3 販売を終了する普通切手の意匠等”. 日本郵便株式会社. 2022年6月9日閲覧。
  21. ^ 市の鳥「シジュウカラ」茅ヶ崎市役所ホームページ(2024年3月20日閲覧)

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • 上田ネイチャーサウンド. “シジュウカラ”. 鳴き声図鑑. 2014年1月23日閲覧。