ウルシゴキブリ

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ウルシゴキブリ
ウルシゴキブリ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: ゴキブリ目 Blattaria
: ゴキブリ科 Blattellidae
: ゴキブリ属 Periplaneta
: ウルシゴキブリ
P. japanna
学名
Periplaneta japanna
Asahina, 1969[1]
和名
ウルシゴキブリ

ウルシゴキブリ(漆蜚蠊、学名:Periplaneta japanna)とは、ゴキブリゴキブリ科に属する昆虫の一種である。名前の通り、漆塗りのような光沢を放つ黒色をしている[2]

形態[編集]

卵鞘は長さ13ミリメートルに達するものがあり、他のゴキブリ属の種類のそれに似る[3]。幼虫は成虫同様クロゴキブリに似ており、特に若齢幼虫は区別しがたいが、一般に体色は黒みが強く、終齢は全身真っ黒な印象を受ける[3]

成虫の体長は雄が24 - 27ミリメートル、雌が26 - 28(30)ミリメートルで、前翅長は雄が21 - 23ミリメートル、雌が(17)21 - 25(27)ミリメートル[3]。体は光沢の強い濃黒褐色で、頭部は横幅が広く、前胸背板も分厚く幅広い[3]。前翅は幅広いが、長さは辛うじて腹端まで達するか程度で、展開しない時は体全体が丸みを帯びている[3]

クロゴキブリに酷似するが、本種はクロゴキブリと比べて、頭部・前胸部の幅がより広く、前翅は腹端まで達する程度の長さしかなく、雄の腹部の肛上板・肛下板は丸みを帯びるといった違いがある[3]

他の近似種としてはセイロンゴキブリP. ceylonica[注釈 1]P. lata[注釈 2]D. robinsoni[注釈 3]が挙げられるが、セイロンゴキブリよりも雄の肛下板の尾突起が短く、P. lataとは肛上板と肛下板の形状が異なり、D. robinsoniとは肛上板の形状が異なるという違いがある[3]

生態[編集]

住家性の害虫として知られるクロゴキブリと違って本種は野外生息種であり、恒温環境下での飼育は可能ながら住家性は認められていない[3]摂氏27度の飼育環境下では最短104日で成虫に育つ[3]。日本に生息するゴキブリ属の野外種は本種以外にスズキゴキブリP. suzukii)が知られているが、こちらは分布域がより限られている[9]

常緑照葉樹林の林縁部を中心に、林内周縁のリター層英語版や倒木などに生息するほか、カナヘビの越冬穴で同居越冬することが知られている[10]。野外種だが稀に家屋内へ入り込むこともある[11]

食性は雑食性で、自然下では、各種動植物の遺骸樹液等を食している。

分布[編集]

日本の伊豆諸島から四国九州琉球諸島まで広く分布し、捕獲記録も多い[9]。九州においては熊本県三角半島大分県佐賀関半島を結ぶ仮定線以南で普通に見られる[10]

具体的な採取記録は少なくとも東京都八丈島長崎県男女群島女島、鹿児島県阿久根大島枇榔島佐多岬)、屋久島トカラ列島悪石島中之島宝島)、徳之島沖縄本島石垣島西表島からのものが知られる[3][12]。軒並み黒潮の影響の強いところから記録されているが[12]北海道苫小牧市でも温室で繁殖した例が知られ、こちらは南西諸島からの移入種と見られている[13]神奈川県三浦半島でも発見されており、こちらは局所的に定着している可能性が高いとされている[14]

保全状態評価[編集]

和歌山県は本種を学術的重要種に[15]高知県は本種を準絶滅危惧種に[16]、それぞれ指定している。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 中国インドスリランカに分布するゴキブリ属の一種[4]。セイロンゴキブリの和名は朝比奈 (1980)[5]による。なお、出典とした朝比奈 (1969)ではPeriplaneta fallax Bey-Bienko1957も近似種として挙げられているが、こちらはセイロンゴキブリのシノニムとされている[6]
  2. ^ マレーシアムラカ州インドネシアスマトラ島ボルネオ島に分布するゴキブリ属の一種[7]
  3. ^ マレーシア・ムラカ州、インドネシア・スマトラ島、ニアス島、ボルネオ島、セラム島に分布するDorylaea属の一種[8]。かつてはゴキブリ属とされていた[3]

出典[編集]

  1. ^ species Periplaneta japanna Asahina, 1969Beccaloni, G. W., Cockroach Species File Online(Version 5.0/5.0). 2023年3月9日閲覧。
  2. ^ 昆虫採集にゴキブリはいかが?ゴキブリストに聞いた捕まえ方のコツゴキラボ、2022年1月18日。2023年3月10日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k 朝比奈正二郎「日本産ゴキブリノートⅣ ウルシゴキブリ(新称)について」『衛生動物』第20巻第2号、日本衛生動物学会、1969年、63-68頁、doi:10.7601/mez.20.63 
  4. ^ species Periplaneta ceylonica Karny, 1908Beccaloni, G. W., Cockroach Species File Online(Version 5.0/5.0). 2023年3月9日閲覧。
  5. ^ 朝比奈正二郎「琉球・台湾・香港・タイ国より得られた野棲Periplaneta属ゴキブリ類の分類」『衛生動物』第31巻第2号、日本衛生動物学会、1980年、103-115頁、doi:10.7601/mez.31.103 
  6. ^ synonym Periplaneta fallax Bey-Bienko, 1957Beccaloni, G. W., Cockroach Species File Online(Version 5.0/5.0). 2023年3月9日閲覧。
  7. ^ species Periplaneta lata (Herbst, 1786)Beccaloni, G. W., Cockroach Species File Online(Version 5.0/5.0). 2023年3月9日閲覧。
  8. ^ species Dorylaea robinsoni (Hanitsch, 1915)Beccaloni, G. W., Cockroach Species File Online(Version 5.0/5.0). 2023年3月9日閲覧。
  9. ^ a b 小松謙之、戸田光彦「鹿児島県徳之島におけるスズキゴキブリの追加記録」『衛生動物』第70巻第2号、日本衛生動物学会、2019年、83-84頁、doi:10.7601/mez.70.83 
  10. ^ a b 菊屋奈良義「九州地方のゴキブリ類の分布状況(予報)」『家屋害虫』第13巻第1号、家屋害虫研究会、1991年、29-39頁。 NDLJP:10507192
  11. ^ ウルシゴキブリ八丈植物公園・八丈ビジターセンター(東京都公園協会 - 自然公園へ行こう!)、2023年3月10日閲覧。
  12. ^ a b 宮田彬「男女群島夜間採集記」『やどりが』第1973巻第72号、日本鱗翅学会、1973年、3-10頁、doi:10.18984/yadoriga.1973.72_3 
  13. ^ 服部畦作「北海道の生活害虫」『家屋害虫』第16巻第1号、家屋害虫研究会、1994年、1-6頁。 NDLJP:10507307
  14. ^ 学芸員自然と歴史のたより「最近みつけためずらしい昆虫たち」横須賀市自然・人文博物館、2023年3月10日閲覧。
  15. ^ 和歌山県レッドリスト2022【昆虫種】3/4. 和歌山県「和歌山県レッドデータブック」、2023年3月9日閲覧。
  16. ^ 高知県 レッドデータブック2018 動物編p.146. 高知県「高知県レッドデータブック2018 動物編:H30.10.15日発行」、2023年3月9日閲覧。

参考文献[編集]