カタール (短剣)

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ジャマダハルから転送)
装飾用のジャマハダル

カタール(Katar, ヒンディー語: कटार)は、武器刀剣)の一種。歴史的にはインド地方で使われた短剣全般を指す言葉である。

よく混同されるが、刃に対して垂直なグリップを持つ特徴的な形状の短剣はジャマダハル(Jamadhar, ヒンディー語: जमधर)やブンディ・ダガー(Bundi dagger)と呼ばれ、主に北インドで使われていたものである。(本項でも説明する)。

握り部分が2本の平行するバーの間に刃に対して垂直に2本渡されているという特殊な形状をした刀剣(ジャマハダル)の名称として様々な媒体で紹介されることが多いが、「カタール」という語は一般的な『短剣』を意味する。

概要(カタール)[編集]

カタールは全長35~40cm、重さ350~400gの短剣。名前は前述のとおり「短刀」を意味する。

その名の通りごくポピュラーなタイプの短剣で、木の葉状の剣身を持ち、鍔は薄く長い。主に突き刺し、斬りつけることを目的としている。両刃のものと片刃のもののいずれも存在する。

古くは紀元前4世紀、アレクサンドロス大王による東方遠征の頃から使われていた剣で、古い文献にもその名前を見つけることができる。

概要(ジャマハダル)[編集]

ジャマハダルは全長30~70cm、重さ300~800g程度の短剣。

コの字型をした柄の平行な2本の枠の間に、1本ないし2本のグリップが刃と垂直方向に渡されている。この形状によって、装備すると握りこんだ拳の先に刃が伸びる形になり、拳を突き出すことで正拳突きの要領で相手にダメージを与えることができる。

斬りつけることよりも刺突することに重点を置いた短剣であり、鎧などの重装備を貫き通すのに用いられる。

また、二刀流において利き手以外の手に持ち、攻撃を受け流すためにも使われることがあった(このような使われ方をする短剣を総称してマインゴーシュ[1]という)。

剣身はまっすぐなものが一般的だが、二又や三又などにわかれているもの、S字状に湾曲したものなどのバリエーションがある。

鞘は多く皮で作られ、貴金属や木彫りなどの装飾が施されていることもある。

これを元に改良された武器にインド西部のマハラシュトラ地方に住むマラータ族によって使われていたパタ(Pata)があり、長い両刃剣のついた籠手のような形状をしている。

インドがイギリスの植民地となって以降は装飾品としてヨーロッパに多数が輸出され、特に、ラージャスターン州のブンディでは18世紀から19世紀にかけて、金箔をふんだんに使って豪奢に装飾したものが作られた。輸出用に、実際に戦争や儀礼で使われた伝統のない創作品も多数発明された(後述#形状の項を参照)。

火器の普及に伴い他のと同様に廃れ、19世紀には儀礼用もしくは装飾用として使われる以外には用いられることはなくなった。

ジャマダハルとの混同[編集]

西洋を中心に、「カタール」の名は別種の刀剣であるジャマダハルと混同されている。

ジャマダハルは握り部分が2本の平行するバーの間に刃に対して垂直に2本渡されているという特殊な形状をした刀剣である。インドに特有のこの短剣はファンタジー作品などでもしばしば見かけるが、その多くが「カタール」「カターラ」という名称になっている。

これはムガル帝国のアクバル大帝に仕えた記録官アブル・ファズルによる歴史書『アーイーネ・アクバーリー』において、カタールとジャマダハルの挿絵が取り違えられて掲載されたものがそのまま欧州に伝わってしまったことが原因である。

形状(カタール)[編集]

一般的なダガーとほぼ同様の形状をしている。古代ローマのグラディウスのような木の葉状の剣身を持ち、鍔は薄く長い。

突き、斬りどちらの用途でも使用でき、特筆すべき特徴は特にない。

形状(ジャマハダル)[編集]

刀身は通常は幅の広い両刃の“ダガー”形状であるが、フランベルジェクリスのように波打った刀身を持つものや、二叉もしくは三叉の刀身を持つものがあり、直剣ではなく湾曲した刀身を持つものも存在し、少数ながら現存している。

17世紀以降、インドがイギリスの植民地になると、この特徴的な刀剣はその外見からヨーロッパ人に人気を博し、特産の土産物として珍重された。

この時期にヨーロッパ向けに作られたものとして、閉じた状態では一つの刀身だが、柄を握り込むことによってのように刀身が開き、二叉もしくは三叉の形状になるものがある。この「可変式ジャマハダル」はイギリスを始めとしてヨーロッパ人に好まれたが、実際にインドの刀剣史に存在していたものではなく、また刀身の根元に可動部とその軸があることから強度が低く、武器としての実用性は低い。

柄の両側に小型のマスケット銃を備えた「ジャマハダル銃(ピストル付ジャマハダル)」という珍品も発明され、特に18世紀にやはりヨーロッパ向けの輸出品として多数が作られた。

呼称について[編集]

カタール[編集]

タミル語において「突き刺す刃物」の意味である「கட்டாரி (kaţţāri)」もしくは「குத்துவாள் (kuttuvāḷ)」 (サンスクリット語「 कट्टार (kaţāra/kaţārī)」、ヒンディー語: 「कटार(kaṭāri)」、パンジャーブ語「ਕਟਾਰ (kaṭār)」、カンナダ語「ಕಠಾರಿ (kaṭhāri)」、マラヤーラム語「കട്ടാരം (katāram)」、マラーティー語「कट्यार (kaṭyāra)」)を語源とする。 前述のとおり本来は短剣全般を指す言葉であるが、ジャマハダルと混同されて紹介されている媒体が多いため、特殊刀剣の名称としての誤用が非常に多い。

ブンディダガー[編集]

主に英語圏で使われる名称。1851年ロンドンで開催された万国博覧会においてラージャスターン州のブンディで制作されたジャマハダルが展示されたのがその名称の由来とされている。

ジャマダハル[編集]

主に北インドやペルシアで使われていた特殊な刀剣を指す呼称。

前述のとおり歴史書『アーイーネ・アクバーリー』において、カタールとジャマダハルの挿絵が取り違えられて掲載されたものがそのまま欧州に伝わってしまったため、この呼称で呼ばれる媒体は少ない。

フィクションでの扱い[編集]

コンピュータゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズで登場する「ドラゴンキラー」の設定イラストにおけるデザインはジャマハダルをモチーフとしている(ただし第8作目以降は通常の刀剣型の場合が多い)が、書籍などの説明では「カタール」をモチーフにしている、などと紹介されていることが多い。

また、『ファイナルファンタジーVIII』においてもプレイヤーキャラクターのひとりキロス・シーゲルの装備武器「カタール」として登場する。実体は本来のジャマダハル。キロスはこれを両手に装備し斬りつけるようにして使用していたが、ジャマダハルは突き刺すことを目的とした武器である。

格闘ゲーム『ソウルキャリバー』シリーズ登場キャラクターのひとりヴォルドが、シェイム&ブレイムという名を持つ一対のジャマダハルを装備している。刃が3つにわかれており、それぞれ柄が金色と銀色をしている。なお作中では「カタール」として扱われている。

脚注・出典[編集]


関連項目[編集]