ラゴンダ

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ラゴンダ
種類 自動車 ブランド
所持会社 アストンマーティン
使用開始国 イギリスの旗 イギリス
使用開始 1906年 (1906)
旧使用会社
ウェブサイト www.astonmartin.com/lagonda
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ラゴンダ (Lagonda) は、イギリスの高級車ブランド。1906年に設立された。1947年以降はアストンマーティンの傘下となる。ラゴンダのブランド名は1995年から2008年、2010年から2013年まで使用されていなかった。

歴史[編集]

12-24 LC 1925年
2½-リッター 16-65 1927年
2-リッター 16-80 ウェイマン・サルーン 1930年頃
4½-リッター M45 スポーツ・ツアラー 1934年
4½-リッター V12 ドロップヘッド・クーペ 1940年

創設[編集]

ラゴンダは1906年にサリー州ステインズでスコットランド系アメリカ人の元オペラ歌手[1]、ウィルバー・ガン(1859-1920)によって設立された[2]。ガンは1891年にイギリスの国籍を取得し、ステインズでスピードボートとオートバイのエンジニアとして働いていた。「ラゴンダ」の社名は彼の生地、ショーニー族の居留地であった現在のオハイオ州スプリングフィールドの町の名から取った物であった[3][4]。そこは氷河が崩壊した石灰岩の峡谷で素晴らしい勝景地であった。その地は歴史的にイーストン条約における重要地点であり、フレンチ・インディアン戦争におけるショーニー族とイギリスの講和に大きな役割を果たしていた[5]。ガンは元々ステインズの自宅の庭でオートバイを小規模に生産しており[2]、1905年のロンドン・エジンバラ裁判での勝利を含め、合理的な成功を収めていた。1907年に最初の車、6気筒エンジンを搭載した20馬力のトルペードを生産し、1910年にはモスクワ-サンクトペテルブルク間での走行試験を行っている[2]。この成功により、ラゴンダは1914年までロシアへの輸出の契約を取り付けた。1913年には先進的な小型車、1,099ccの4気筒エンジンを搭載した11.1の生産を始め、1914年にはパナールロッドとリベット留めのモノコックボディ、初のフライオフ・ハンドブレーキを採用した。

フライオフ・ハンドブレーキにあるラチェットコントロールボタンは、通常のものとは反対に機能するように設計されている。レバーを持ち上げて「オン」位置に戻すと、レバーを離す前にエンドボタンを押して保持しない限り、すぐに解除される。一旦セットされると、手動ブレーキレバー(ボタンを押していない)を設定方向(上または後)に持ち上げてブレーキを解除する。このメカニズムは、スポーツカーレースでのシグナルスタートを容易にした。また、リアホイールのスライドを助けるためにも使用することができる。

ラゴンダは第一次世界大戦中は砲弾を生産した[2]

戦間期[編集]

戦後、11.1は1400ccの大型エンジンと標準的なライトが装備され、11.9として1923年まで生産され、1926年には12にアップデートされた。1920年にウィルバー・ガンが死去した後、コーリン・パーバリーが率いる3名の取締役が会社を経営した[2]。ラゴンダの最初のスポーツモデルは1925年に発売された14/60で、半球式燃焼室を備えた1954ccのツインカム4気筒エンジンを搭載していた。14/60はリー・フランシスから移籍したアーサー・ディヴィッドソンが設計した。1927年には2リッターの高出力エンジンを搭載したスピードモデルが発売され、1930年にはスーパーチャージャーが搭載された。2.4リッターの6気筒エンジンを搭載した軽量化シャシーバージョンの16/65は1926年から1930年にかけて販売された。1920年代の最後のモデルは2931ccの6気筒エンジンを搭載した[6]。このモデルは1933年まで販売され、エンジンは3181ccに拡大され、セレクタースペシャルとして複雑な8速のマイバッハトランスミッションが搭載された。

1933年の新しいモデルは、2リッターのクロスリーエンジンを搭載した16-80で、1934年からはプレセレクター・ギアボックスを搭載した。新しい小型車のレイピアは1934年に発売され、1104ccのエンジンとプレセレクター・ギアボックスを搭載した。これは1935年まで続いたが、その後1938年まで別会社ネイピア・アンド・サンが生産を続けた。もう1つの極端な状況は、メドウズが供給する4467ccの6気筒エンジンを搭載し、100 mph (160 km/h)を発揮するM45であった。スポーツバージョンのM45RラピードはチューニングされたM45エンジンを短縮されたシャシーに搭載し、1935年のル・マン24時間レースで勝利を収めた[7]。1935年には3リッターエンジンが3.5リッターまで拡大された。

ラゴンダの経営は不調で、1935年には管財人が呼ばれたが[8]、同社はロールス・ロイスを上回る額を提示したアラン・P・グッドによって買収された[2]。グッドはまたW・O・ベントレーにロールス・ロイスから離れ、自らのレース部門のスタッフと共にデザイナーとしてラゴンダに加わるよう説得した[2]。4.5リッタークラスはLG45となったが、ボディは重く、LG45Rラピードも生産された。LG45にはサンクション1、2、3と呼ばれる3つのバージョンがあり、それぞれベントレーが手がけたエンジンを搭載した。1938年にはトーションバーと油圧ブレーキによる独立したフロントサスペンションを備えたLG6が登場した。

ベントレーは元ロールス・ロイスのスチュアート・トレシリアン、チャールズ・セウェル、ラゴンダの設計士であったフランク・フィーリーと共に、ラゴンダのファクトリーの原始的な状況に対する嫌悪感を飲み込み、1937年には新型エンジンを搭載した傑作、V12を開発した。4480ccのエンジンは180 bhp (130 kW)を発揮し、トップギアの5000rpmで7 - 105 mph (11 - 169 km/h)を発揮した。この車は1939年のニューヨークモーターショーで展示された。ニューヨーク・タイムズ紙は「今年のショーで最高価格の車は8,900ドルです。それはイングランドから輸入された『ラピード』モデルとして知られているラゴンダです。エンジンは12気筒V型で200馬力を発揮します。」と伝えている[9]

第二次世界大戦[編集]

リチャード・ワトニーは、第二次世界大戦の始まりからラゴンダのマネージング・ディレクターを務めた:

彼はラゴンダのマネージング・ディレクターになる前、1935年までロンドン地域のルーツの小売販売マネージャーであった。彼は生産の専門家であり、戦時中イギリスにおける最大の銃生産工場の一つとなったラゴンダを組織、管理した。工場は一日に50,000発の25ポンド砲弾を生産した。ワトニーはまた、装甲車用の火炎放射装置「クロコダイル」と「ワスプ」を開発、生産した。[10]

ワトニーは1930年のル・マン24時間レースベントレーをドライブし2位になった。 彼は1946年にルーツに戻り、オーストラリアに赴任した後1949年にメルボルンで交通事故に遭い死亡した[11]

アストンマーティン傘下[編集]

2.6-リッター ドロップヘッド・クーペ 1953年
アストンマーティン・ラゴンダ 1989年

1947年にラゴンダはデヴィッド・ブラウンに買収され、彼がもう一つ買収したアストンマーティンと共にミドルセックスフェルトハムに移転した。エガム・ハイスの古い工場はパターズ・リミテッドに渡り、A・P・グッドが経営権を取得した[12]。生産はW・O・ベントレーの最後のプロトタイプ、新しいシャシーと完全に独立したサスペンションを装備した1948年の2.6リッターから再開された。新しい2580cc直列6気筒エンジンは1950年代のアストンマーティンエンジンの基礎となった。エンジンは1953年に3リッターに拡大され、1958年まで引き続き使用された。

ラピード 1964年

多くの人がラゴンダのブランド名は姿を消したと思っていたが、1961年にラピードアストンマーティン・DB4をベースにした4ドアサルーンとして復活した。ラピードはカロッツェリア・トゥーリングによるアルミニウム製ボディに3995ccエンジンを搭載し、125 mph (201 km/h)を発揮した。このとき、アストンマーティン-ラゴンダはバッキンガムシャーニューポート・パグネルに移転した。ラピードは1965年まで生産された。

1969年にラゴンダのブランド名が短期間復活し、新しいDBSモデルの4ドアプロトタイプに使用された。このプロトタイプにはシャシー番号 MP230/1 が割り当てられ、1972年まで工場に保管された。この車はJPP 5Gというナンバーで登録され、デヴィッド・ブラウン卿が個人の車として使用した。元々は5リッターV8エンジンのプロトタイプが搭載されたが、これはすぐに初期の5.3リッター生産型 (VS4008EE) に換装された。

1974年から1976年の間に、7台のラゴンダ・4ドアサルーンが1969年のプロトタイプを元にして製造された。生産型は試作型のツインヘッドライトに換えて、ラゴンダの「蹄鉄」グリルにシングルヘッドライトを採用した。

1976年に新型のラゴンダ・サルーンが登場した。この大型で未来的なサルーンはウィリアム・タウンズが設計した。この正方形に近いくさび形の車はアストンマーティン・V8のコンポーネントを元に製作され、少なくとも1989年まで走行可能であった。

アストンマーティンは1993年のジュネーブ・モーターショーでラゴンダ・ヴィニャーレというコンセプトカーを発表した。

1993年から94年にかけて9台のラゴンダ・4ドアサルーンと7台のシューティングブレーク(後部ドアとトランク部分にレ・バカンスのバッジが装着された)が、アストンマーティン・ヴィラージュをベースに製作された。これらはアストンマーティンの歴史上唯一ファクトリーで製作されたシューティングブレークであった。6台は外国の王室が購入した[13]。エンジンは5.3リッターV8 (310 HP) および6.3リッターV8 (500 HP) が搭載された。

復活[編集]

Automotive News Europe」によると、アストンマーティンは2008年9月1日にラゴンダ・ブランドをリニューアルし、豪華セダンなどの新しい市場に参入し、2009年にラゴンダ100周年を祝うと発表した。

「ラゴンダ・ブランドは、スポーツカーとは異なる性格を持つ自動車を開発することを可能にするだろう」とCEOのウルリッヒ・ベズは声明で述べている。「ラゴンダは既存の市場と新たな市場の両方に適した、贅沢で本当に汎用性の高い製品で独自のニッチを持っている。[14]

「アストン・マーティンはスペシャルなスポーツカーが毎年3、4ヶ月しか使用できないロシアなどの市場で、年中使用可能な車両となるだろう。」とアストンマーティンの広報担当、ジャネット・グリーンは述べている[14]

2009年のジュネーブ・モーターショーで、アストンマーティンは、最初のラゴンダから100周年を記念して4座席の4WDSUVを発表した。それはV12エンジンと22インチホイールを装備していた[15]

「ラピード」の名前は2010年にアストンマーティン・ラピードとして復活した。

アストンマーティンは2011年3月9日にラゴンダ・ブランドの復活を確認した。その車種は当初主にハイエンドSUVで構成されていた[16]

2014年には大型のローボディ・サルーンのタラフを発表した。タラフは540 HPと465 lb-ftのトルクを発揮するV12ツインターボエンジンを搭載した100万ポンドの車である。タラフは限定200台の生産で、中東でのみ提供される予定であったが、イギリスおよびアメリカ市場でも販売されている。

生産車種[編集]

名称 エンジン 生産数
1906-13 20 3052 cc side-valve 4-cylinder
1911-13 30 4578 cc side-valve 4-cylinder
1913-21 11 1099 cc inlet-over-exhaust-valve 4-cylinder 6000 (inc 11.9 and 12)[17]
1920-23 11.9 1421 cc inlet over exhaust valve 4-cylinder 6000 (inc 11 and 12)
1923-26 12 and 12/24 1421 cc inlet-over-exhaust-valve 4-cylinder 6000 (inc 11 and 11.9)
1925-33 14/60 and 2-litre Speed 1954 cc ohv 4-cylinder 1440[17]
1926-30 16/65 2389 (later 2692) cc ohv 6-cylinder 250[17]
1928-34 3-litre 2931 cc ohv 6-cylinder 570[17]
1932-34 16/80 1991 cc ohv 6-cylinder Crossley 260[18]
1933-38 レイピア 1087 cc twin ohc 4-cylinder 470 + app 45 by Rapier Cars[19]
1935 M45 4467 cc ohv 6-cylinder Meadows 410 + 53 M45R Rapide[19]
1935 3.5-litre 3619 cc ohv 6-cylinder 65[19]
1936-37 LG45 4467 cc ohv 6-cylinder Meadows 278 + 25 Rapides[19]
1938-40 LG6 4467 cc ohv 6-cylinder Meadows 85[19]
1938-40 V12 4480 cc single overhead cam V12 189[19]
1948-53 2.6リッター 2580 cc double ohc 6-cylinder 510[20]
1953-58 3リッター 2922 cc double ohc 6-cylinder 270[20]
1961-64 ラピード 3995 cc double ohc 6-cylinder 55[20]
1976-89 アストンマーティン・ラゴンダ 5340 cc ohc V8 645
2014- タラフ 5935 cc V12 200[21]

コンセプトカー[編集]

関連項目[編集]

脚註[編集]

  1. ^ “Nachtschicht im Schloss: A report on a concours d'elegance at Schloss Bensberg”. Auto Motor u. Sport Heft 25 2010: 45. (18 November 2010). 
  2. ^ a b c d e f g G.N. Georgano, N. (2000). Beaulieu Encyclopedia of the Automobile. HMSO. ISBN 1-57958-293-1 
  3. ^ “My kind of car: Lagonda 16/80 1932”. Drive (Magazine of the British Automobile Association) 115: 66. (February 1985). 
  4. ^ "British Tradition from an American". The World of Automobiles. Vol. 10. Columbia House. 1974. p. 1129.
  5. ^ http://www.thecanadianencyclopedia.ca/en/article/easton-treaty/
  6. ^ Apra l, K. “Lagonda 1930”. www.classiccarcatalogue.com. 2013年7月10日閲覧。
  7. ^ The Autocar, 21 June 1935, Pages 1115-1124b.
  8. ^ The Manchester Guardian, 26 April 1935, Page 12.
  9. ^ New York Times, 17 October 1939, Page 16.
  10. ^ The Sydney Morning Herald, June 14, 1946, Page 1.
  11. ^ The Argus, Melbourne, Victoria, 10 August 1949, Page 5.
  12. ^ The Manchester Guardian, 11 February 1953, Page 2.
  13. ^ http://astonmartins.com/car/lagonda-virage-5-door-shooting-brake/
  14. ^ a b Aston Martin to Revive Lagonda Nameplate Archived 2010年10月31日, at the Wayback Machine. - Automobile.com
  15. ^ Lavrinc, Damon (2009年3月4日). “Geneva 2009: Aston Martin revives Lagonda to questionable effect”. Autoblog.com. 2010年12月25日閲覧。
  16. ^ http://www.autocar.co.uk/News/NewsArticle.aspx?AR=255789
  17. ^ a b c d Baldwin, N. (1994). A-Z of Cars of the 1920s. Bay View Books. ISBN 1-870979-53-2 
  18. ^ G.N. Georgano, G. N. (1968). The Complete Encyclopaedia of Motor Cars. George Rainbird Limited 
  19. ^ a b c d e f Sedgwick, M. (1989). A-Z of Cars of the 1930s. Devon, UK: Bay View Books. ISBN 1-870979-38-9 
  20. ^ a b c Sedgwick, M. (1986). A-Z of Cars 1945-1970. Bay View Books. ISBN 1-870979-39-7 
  21. ^ [1]

参考文献[編集]

  • Aston Martin and Lagonda; Frostic, Michael; ISBN 0-901564-24-9
  • Images of Motoring Lagonda 1899-1999; Davey, Arnold; ISBN 0-7524-1713-4 : A short history of the company and marque by the UK Lagonda club historian
  • Lagonda Gold Portfolio 1919-1964; ISBN 1-85520-155-0 : Collection of reprints of articles from early motoring magazines
  • Lagonda Heritage; Bird, Richard; ISBN 1-85532-363-X : Collection of colour photographs
  • Lagonda: An Illustrated History 1900-1950; Seaton, Geoffrey; ISBN 1-85223-107-6

外部リンク[編集]