ジャンムー・カシミール州

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ジャンムー・カシミール州
Jammu and Kashmir
जम्मू और कश्मीर
مقبوضہ کشمیر
インドの旗 インド州(廃止)

1947年 - 2019年
 

旗 紋章
紋章
ジャンムー・カシミールの位置
ジャンムー・カシミールの位置
  実効支配地域
  領有権を主張している地域
政庁所在地 シュリーナガル(夏季)
ジャンムー(冬季)[1]
州知事英語版
 - 1954–1965
Sadr-e-Riyasat[注釈 1]
- 1965–1967
カラン・シング (初代)
 - 2018–2019[3] サトヤ・パル・マリク英語版 (最後)
州首相英語版
 - 1947–1948 チャンド・マハジャン英語版 (初代)
 - 2016–2018[4] メボーバ・マフティ英語版 (最後)
立法府 ジャンムー・カシミール州議会英語版
 - Upper house 上院英語版(36議席)
 - Lower house 下院英語版(89議席)
歴史
 - インドへの帰属英語版 1947年10月26日
 - ジャンムー・カシミール州再編成法英語版発効によって廃止。ラダック連邦直轄領ジャンムー・カシミール連邦直轄領に分割 2019年10月31日
行政区画 22県英語版
カシミール地方を支配国別に塗り分けた地図。青色の地域がジャンムー・カシミール州

ジャンムー・カシミール州 (ジャンムー・カシミールしゅう、ヒンディー語: जम्मू और कश्मीरカシミール語: ज्वम त॒ कॅशीर / جۄم تٕہ کٔشِیرウルドゥー語: مقبوضہ کشمیر‎、英語: Jammu and Kashmir)は、インド最北部に存在した

歴史[編集]

紀元前よりこの地域はマウリヤ朝が起こり、その後クシャーナ朝等を経て、ムガル帝国の支配下となる。ムガル帝国滅亡後、シク王国1799年1846年)が建国されてシク教徒の治世となり、1846年ソブラーオンの戦い英語版でイギリス軍がこの地を占領し、イギリス統治下でジャンムー・カシミール藩王国(1846年-1947年)が成立した。

第二次世界大戦後の1945年9月にイギリス領インド帝国が解体され、1947年8月インド連邦が成立した。しかし、インド・パキスタン分離独立の際、インドへの帰属英語版を表明したジャンムー・カシミール藩王や宗教などの軋轢から帰属権を巡って第一次印パ戦争が勃発、その後も紛争は継続した。

インドで唯一イスラム教徒が多数派となっている州であり、パキスタンとインドが領有を主張し、これまで大小の軍事衝突を繰り返し、現在はほぼ中間付近に停戦ラインが引かれている。1989年ごろから分離独立派による武装闘争が活発化し、その中心勢力であるジャンム・カシミール解放戦線(JKLF)はムフティ・ムハンマド・サイード英語版内務大臣の娘を誘拐する事件を引き起こしている[5]。さらにヒンドゥー教徒を襲撃する事件が相次ぎ、約4万5000人が殺害。こうした動きを受け、通常であれば州の政治を担う州首相を空席として大統領統治英語版による政治運営が1990年から1996年までなされた[6]

1999年カールギル紛争英語版2005年10月地震では、1,300人以上の死者を出した。

2019年2月14日イスラム過激派組織による治安部隊への自爆テロであるプルワマ襲撃事件が発生[7]2月26日には、インド空軍がテロ行為に対する報復としてパキスタン領内での空爆を48年ぶり[8]に実行した(バーラーコート空爆)。この一連の事件によって、インドとパキスタンの緊張が高まることとなった。

2019年8月5日、インド政府は憲法第370条英語版で認められてきた特別自治権[9]を剥奪する大統領令を公布[10]し、インターネット通信などを制限した[11]。特別自治権の剥奪を受けてインド議会ではジャンムー・カシミール州再編成法英語版が承認され、8月9日に成立した。これに対して抗議するデモ隊と治安部隊の衝突などが起き[12][13]、パキスタンは住民への人権侵害と反発した[14]。また同法の規定により、2019年10月31日付でラダック連邦直轄領ジャンムー・カシミール連邦直轄領に分割されて連邦政府直轄領となった[15][16]

自治権剥奪と州の分割については州側から異議申し立てが行われたが、2023年12月11日にインド最高裁判所が憲法370条は一時的な措置であったとして中央政府の決定を支持する判断を下し、2024年9月30日までに地方選挙を実施するよう命じた[17]

政治[編集]

州議会[編集]

2018年6月時点での議席構成

州議会の議員数は89議席で、2014年11月から12月にかけて行われた州議会選挙(改選数:87議席)での政党別議席配分は以下の通りである。

2014年州議会選挙後の会派別議席数
会派名 選挙後 選挙前 増減
ジャンムー・カシミール人民民主党 28 21 増加7
インド人民党 25 11 増加14
ジャンムー・カシミール民族協議会 15 28 減少13
インド国民会議 12 17 減少5
その他の諸派 4 6 減少2
無所属 3 4 減少1
合計 87 87

州首相[編集]

2019年8月、オマル・アブドゥッラー、メボーバ・マフティの両首相経験者は、自治権剥奪の決定時に他の政治家らとともに拘禁された[18]

地理[編集]

ラダック地方を含む広義のカシミール地方全域を州とするが、この州はパキスタンも全域の領有を主張している。この地の獲得を巡り、数度にわたってパキスタンと戦争になった(印パ戦争)が、現在は停戦しカシミールの中間付近で停戦ラインを引いている。

地方自治体[編集]

地方[編集]

ジャンムー・カシミール州は、ジャンムー地方英語版カシミール渓谷地方ラダック地方の3つの地方に分かれている。

[編集]

地方 コード 県都 人口 (2011年) 面積 (km2) 人口密度 (/km2)
ジャンムー地方
カトゥアー県 KT カトゥアー 615,711 2,651 230
ジャンムー県 JA ジャンムー 1,526,406 3,097 650
サンバ県 サンバ 318,611 904 320
ユーダンプール県 UD ユーダンプール 555,357 4,550 120
リーシー県 リーシー 314,714 1,719 180
ラージャウリー県 RA ラージャウリー 619,266 2,630 240
プンチュ県 PO プンチュ 476,820 1,674 280
ドーダー県 DO ドーダー 409,576 11,691 160
ランバン県 ランバン 283,313 1,329 210
キシュトワール県 キシュトワール 231,037 1,644 30
カシミール渓谷地方
アナントナーグ県 AN アナントナーグ 1,069,749 3,984 300
クルガム県 クルガム 423,181 1,067 400
プルワマ県 PU プルワマ 570,060 1,398 410
ショッピアン県 ショッピアン 265,960 612.87 430
バッジャン県 バッジャン 755,331 1,371 537
シュリーナガル県 SR シュリーナガル 1,250,173 2,228 640
ギャンダーボール県 ギャンダーボール 297,003 259 150
バンディポラ県 バンディポラ 385,099 398 1100
バラマラ県 バラマラ 1,015,503 4,588 305
カップワーラ県 KU カップワーラ 875,564 2,379 370
ラダック地方
カールギル県 KR カールギル 143,388 14,036 10
レー県 LE レー 147,104 45,110

主要都市[編集]

夏季の州都シュリーナガルは、カシミール地方最大の都市でインドの支配地域にある。冬季の州都はジャンムー市(ジャンム、ジャムとも表記されるが、原語で語末の音節は長母音である)。

など。

住民[編集]

この州を大きく分けるならば、ムスリムが95%を占めるカシミール渓谷地域、ヒンドゥーが過半数を占めるジャンムー地域、仏教徒とムスリムがほぼ半数ずつで構成されるラダック地域である[19]

民族[編集]

en:Meghwalシク教徒チベット系民族en:Kashmiri Panditドーグラー

言語[編集]

州の公用語はパキスタンの国語と同じ(簡易)ウルドゥー語のみ(カシミール語などは「公用語」と定められていない)で、第二言語としてヒンディー語英語が使用されている。

カシミール語ウルドゥー語ドーグリー語パハリ語英語版バルティ語ラダック語グジャール語シナー語パシュトー語

宗教[編集]

宗教もパキスタン同様イスラム教徒が多い。

注釈[編集]

  1. ^ 日本語訳は「元首」[2]

脚注[編集]

  1. ^ Desk, The Hindu Net (2017年5月8日). “What is the Darbar Move in J&K all about?” (英語). The Hindu. オリジナルの2017年11月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171110135648/http://www.thehindu.com/news/national/other-states/what-is-the-darbar-move-in-j-k-all-about/article18409452.ece 2019年2月23日閲覧。 
  2. ^ “<インド>カシミールの自治権はく奪は何を意味するのか?(2)崩される独自性”. アジアプレス・ネットワーク. アジアプレス. (2019年8月26日). http://www.asiapress.org/apn/2019/08/kashmir/kashmir-2/2/ 2019年11月2日閲覧。 
  3. ^ “Satya Pal Malik sworn in as Jammu and Kashmir governor”. The Economic Times. Press Trust of India. (2018年8月23日). オリジナルの2018年8月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180823110106/https://economictimes.indiatimes.com/news/politics-and-nation/satya-pal-malik-sworn-in-as-jammu-and-kashmir-governor/articleshow/65512757.cms 2018年8月31日閲覧。 
  4. ^ BJP-PDP alliance ends in Jammu and Kashmir LIVE updates: Mehbooba Mufti resigns as chief minister; Governor's Rule in state”. Firstpost (2018年6月19日). 2018年6月19日閲覧。
  5. ^ Sreedharan, Chindu (1999年9月18日). “'Elections in J&K have not been fair since 1987'”. Rediff.com. http://www.rediff.com/election/1999/sep/18inter.htm 2009年3月5日閲覧。 
  6. ^ “Jammu & Kashmir under Governor's rule for eighth time”. indiatoday. (2018年6月20日). https://www.indiatoday.in/india/story/jammu-kashmir-under-governor-s-rule-for-eighth-time-1265259-2018-06-20 2019年8月23日閲覧。 
  7. ^ “カシミールで自爆テロ、治安部隊の44人死亡”. 読売新聞. (2019年2月15日). https://www.yomiuri.co.jp/world/20190215-OYT1T50028/ 2019年8月22日閲覧。 
  8. ^ “インド軍機がパキスタン空爆 「テロリストの拠点」”. 産経ニュース. (2019年2月26日). https://www.sankei.com/article/20190226-ICPGXMJPOVJB3DCE5223LS4IGI/ 2019年9月6日閲覧。 
  9. ^ “インド最大野党が政権公約を公表、核政策見直しへ”. ロイター通信. (2014年4月7日). http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPTYEA3606020140407 2014年4月8日閲覧。 
  10. ^ “インド政府、ジャム・カシミール州の特別自治権を剥奪”. AFP通信. (2019年8月5日). https://www.afpbb.com/articles/-/3238581 2019年8月5日閲覧。 
  11. ^ “通信、通行の制限続く=カシミール自治権剥奪1カ月”. AFPBB. (2019年9月5日). https://www.afpbb.com/articles/-/3243227 2019年9月6日閲覧。 
  12. ^ “デモ隊と治安部隊衝突=数千人参加か-印カシミール”. 時事通信. (2019年8月16日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2019081601179 2019年11月20日閲覧。 
  13. ^ “「殴るくらいなら撃ち殺してくれ」 カシミール住民がインド軍の拷問を訴え”. BBC. (2019年8月30日). https://www.bbc.com/japanese/49519985 2019年11月20日閲覧。 
  14. ^ “「人権侵害」と印を非難 カシミール巡りパキスタン”. 日本経済新聞. (2019年9月20日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49652270Q9A910C1910M00/ 2019年11月20日閲覧。 
  15. ^ “10月末にカシミール州消滅 インド、連邦政府直轄地に”. 共同通信. (2019年8月10日). オリジナルの2021年2月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190810095135/https://this.kiji.is/532668908785927265 2019年8月10日閲覧。 
  16. ^ “インド、カシミール自治権撤廃 パキスタン・中国は反発”. 朝日新聞デジタル. (2019年8月7日). オリジナルの2021年2月14日時点におけるアーカイブ。. https://archive.ph/Zr0uk 2019年8月10日閲覧。 
  17. ^ “Indian court confirms end of special status for Kashmir”. Al Jazeera English. アルジャジーラ. (2023年12月11日). https://www.aljazeera.com/news/2023/12/11/indias-top-court-upholds-end-of-special-status-for-kashmir 2023年12月12日閲覧。 
  18. ^ 自治権剥奪のインド・カシミール、少なくとも4000人が拘束下に”. AFP (2019年8月9日). 2019年8月24日閲覧。
  19. ^ 伊藤融「遙かなる『東洋のスイス』」 / 広瀬崇子・近藤正規・井上恭子・南埜猛『現代インドを知るための60章』明石書店 2007年 288ページ

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]