ケニア山

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ケニア山
ケニア山
山頂部
標高 5,199[1] m
所在地  ケニア
東部州中央州
位置 南緯0度09分03秒 東経37度18分27秒 / 南緯0.15083度 東経37.30750度 / -0.15083; 37.30750[1]
山系 グレート・リフト・ヴァレー
種類 成層火山
初登頂 1899年 イギリスの旗 ハルフォード・マッキンダー
ケニア山の位置(ケニア内)
ケニア山
ケニア山 (ケニア)
ケニア山の位置(アフリカ内)
ケニア山
ケニア山 (アフリカ)
プロジェクト 山
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ケニア山(ケニアさん、スワヒリ語: Mlima Kenya, 英語: Mount Kenya)は、ケニア共和国中央にそびえる同国最高峰のである。

概要[編集]

標高は5,199 mで、タンザニアキリマンジャロに次ぐ、アフリカ大陸第2位の高さを誇る。赤道直下に位置するにもかかわらず、山頂部には氷河を戴いている。

標高の3,350メートル以上がケニア山国立公園としてユネスコ世界遺産(自然遺産)に登録されている。

山域には、バティアン (Batian, 5,199メートル)、ネリオン (Nelion, 5,189メートル)、ポイント・トムソン (Point Thompson, 4,955メートル)、レナナ(Lenana, 4,985メートル)などのピークが存在する。

名称[編集]

「ケニア山」は後世になってこの土地を征服したヨーロッパ人が命名したものであり、このあたりの原住民族であるキクユ人の間ではこの山を「神の山」という意味のキリニャガ(Kirinyaga)あるいはケレニャガキクユ語: Kĩrĩnyaga[2]と呼んでいた。これは、この山の頂上にはエンカイ英語版マサイ語: Enkai[要曖昧さ回避])あるいはンガイ英語版ヌガイとも; キクユ語: Ngai)と呼ばれる神が黄金玉座に座っているという、キクユ人やマサイ人の言い伝えに由来する。

地質[編集]

成層火山であるケニア山が活動した時期は鮮新世から更新世にかけてである。当時の高さは6,000メートルに達していたが、火山活動停止後の氷河期に氷河により2度削られた。これは氷河堆石が標高3,300メートル地帯に残っていることから推定される。また北東の寄生火山も氷河に覆われたため平坦な頂上になったと考えられている。山体をつくる岩石は玄武岩響岩粗面岩などである。標高3,950メートルから4,800メートルの間には多数の氷河湖モレーンがあり、他にはU字谷もある[3]

植物相[編集]

ケニア山に生育する植物には以下のようなものがあり、ケニア山のみに見られる固有種も数種存在する。また、ケニア山の西麓や南麓の現地語であるキクユ語名の存在する種は伝統的に有用植物として知られている傾向がある[注 1]。キクユ語での名称は基本的には Benson (1964) によるが、それ以外の文献による場合は個別に出典を示した。標高が高いところになると、巨大なキキョウ科ミゾカクシ属の植物(通称: ジャイアントロベリア (giant lobelia))やキク科デンドロセネキオ属英語版の植物(通称: ジャイアントグラウンドセル (giant groundsel)[注 2] またはジャイアントセネシオ)が見られるようになる。なお、ジャイアントロベリアにはケニア山に生育する以下4種のほかにも様々なものが知られており(参照: ミゾカクシ属#ジャイアントロベリア)、ジャイアントセネシオに関してもタンザニアキリマンジャロに生育する Dendrosenecio johnstonii (Oliv.) B.Nord. subsp. johnstonii(シノニム: Senecio johnstonii Oliv.)[注 3]が存在する[4]

標高約1,200-2,000メートル:

標高約2,000-3,000メートル:

標高約2,000-4,000メートル:

標高約3,000-4,000メートル:

標高約4,000-5,000メートル:

標高不明:

登山[編集]

最高峰バティアンへの初登頂は1899年9月13日にイギリス人地理学者ハルフォード・マッキンダーによって果たされ、第二峰ネリオン初登頂は1929年にイギリスの登山家パーシー・ウィン・ハリスエリック・シプトンによって果たされた。

人を寄せ付けない厳しい気象環境として知られ、昼間は30度を超え、夜になると厳しい寒さとなり、氷点下5度までに下がる。

通常の登山ではレナナ峰の頂上でケニア山登頂となる。他のピークに登るには、高度なクライミング技術が必要となる。

エピソード[編集]

レナナ峰は第二次世界大戦中に3人のイタリア人によって初登頂された[39]。彼らはイギリス軍捕虜だったが捕虜収容所からケニア山を眺めているうちに登りたくなり、半年がかりで食料、物資を集め収容所を脱走、登頂に成功した。3人は下山後に収容所へ戻った。脱走の罰は3人とも28日の独房暮らしだった。

3人のうちの1人であるFelice Benuzziイタリア語版が、この出来事について『No Picnic on Mount Kenya英語版』というタイトルの著書を出版している。この本に基づいて1994年に映画「The Ascent (1994年の映画)英語版」が制作された。

画像解説[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 詳細については Leakey (1977) や Maundu & Tengnäs (2005) を参照。
  2. ^ グラウンドセルとはノボロギクの意。
  3. ^ この2つを正名とシノニムの関係にあるとするのは Hassler (2018) であるが、The Plant List (2013) は両者とも独立種としている。

出典[編集]

  1. ^ a b "Africa Ultra-Prominences" Peaklist.org. Retrieved 2012-02-06.
  2. ^ 杜 (2015:162,194).
  3. ^ Mount Kenya National Park/Natural Forest” (英語). UNESCO World Heritage Centre. 2023年5月1日閲覧。
  4. ^ 湯浅 (2008:48).
  5. ^ William Henry Edwards or シデナム・エドワーズ
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af Bussmann (2006).
  7. ^ 熱帯植物研究会 (1996:189).
  8. ^ E. C. Stuart Baker (1864–1944; 鳥類学者) もしくはジョン・ギルバート・ベイカー (1834–1920; 植物学者)
  9. ^ 熱帯植物研究会 (1996:83).
  10. ^ 熱帯植物研究会 (1996:381).
  11. ^ a b Maundu & Tengnäs (2005:437).
  12. ^ World Conservation Monitoring Centre. (1998). Brachylaena huillensis. The IUCN Red List of Threatened Species 1998: e.T33474A9786563. doi:10.2305/IUCN.UK.1998.RLTS.T33474A9786563.en. Downloaded on 06 July 2021.
  13. ^ Leakey (1977:1320).
  14. ^ a b Kamau et al. (2016).
  15. ^ 熱帯植物研究会 (1996:360).
  16. ^ E. C. Stuart Baker (1864–1944; 鳥類学者) もしくはジョン・ギルバート・ベイカー (1834–1920; 植物学者)
  17. ^ 熱帯植物研究会 (1996:9).
  18. ^ William Henry Edwards or シデナム・エドワーズ
  19. ^ Schmitt (1991:220).
  20. ^ Beentje (1994).
  21. ^ Maundu & Tengnäs (2005:260).
  22. ^ 湯浅 (2012:72)
  23. ^ Leakey (1977:1322,1325).
  24. ^ a b c d Coe (1989:265).
  25. ^ Luke, W.R.Q. (2010). Carex monostachya. The IUCN Red List of Threatened Species 2010: e.T185241A8373530. doi:10.2305/IUCN.UK.2010-3.RLTS.T185241A8373530.en. Downloaded on 06 July 2021.
  26. ^ 冨山 (2003:160).
  27. ^ Williams, E. & Crook, V. (2016). Dendrosenecio keniensis. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T63923702A63934910. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T63923702A63934910.en. Downloaded on 06 July 2021.
  28. ^ 木谷 (2014).
  29. ^ a b c 水野 (2017).
  30. ^ Williams, E. & Crook, V. (2016). Dendrosenecio keniodendron. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T63923748A63934915. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T63923748A63934915.en. Downloaded on 06 July 2021.
  31. ^ a b 湯浅 (2008:20).
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  34. ^ Williams, E. & Crook, V. (2016). Senecio keniophytum. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T63925076A63935005. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T63925076A63935005.en. Downloaded on 06 July 2021.
  35. ^ a b 冨山 (2003:165).
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  37. ^ a b 冨山 (2003:162).
  38. ^ Williams, E. & Crook, V. (2016). Helichrysum brownei. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T63924333A63934965. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T63924333A63934965.en. Downloaded on 06 July 2021.
  39. ^ Thomas-Corr, Johanna (2018年12月29日). “Book clinic: which books will help me make a fresh start?” (英語). ガーディアン. ISSN 0261-3077. http://www.theguardian.com/books/2018/dec/29/book-clinic-fresh-start-after-redundancy 2019年1月13日閲覧。 

参考文献[編集]

英語:

日本語:

関連文献[編集]

  • Hedberg, O. (1951). “Vegetation belts of East African Mountains”. Svensk Botanisk Tidskrift 45: 140–202.  NCID AA00854282
  • Knox, E.B. (2005). "Dendrosenecio." In: H.J. Beentje and S.A.Ghazanfar (eds.), Flora of Tropical East Africa, Compositae, Part 3, pp. 548–563. Kew, London: Royal Botanic Gardens.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]