準特急

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準特急を示す種別・行先案内板(京王)

準特急(じゅんとっきゅう)とは、日本私鉄における列車種別の一つである。2022年12月時点では阪急電鉄のみが運行している。

略称には画像のように、「準特」が用いられている

概要[編集]

1959年小田急電鉄が、特急と同一の駅に停車するが通常の特急形車両に比べて劣る車両で運行することから初めて設定した。続いて、近畿日本鉄道1960年に設定し、車両の格差に加えて停車駅を通常の特急よりも多く設定したものの、5か月足らずで特急に統合している。小田急も本格的な特急形車両の増備を行って1963年特急に統合したため、準特急を運行する事業者は一旦なくなった。

40年近くたった2001年京王電鉄は、急行と通勤快速の速達化を目的に、特急と急行の中間種別として準特急を設定した。多くの電鉄会社は同等の列車種別として「快速急行」を用い、「準特急」を用いる事例は僅少である。京王が運行する準特急は、使用する車種を制限していない[1]2022年3月12日のダイヤ改正をもって、京王電鉄は準特急を廃止した[2]。しかし、同年12月17日のダイヤ改正で阪急電鉄は京都本線において着席保証サービスが導入される列車を明確化するため、京都本線と神戸本線で運行していた「快速急行」を「準特急」に改称した[3]。近畿地方(関東地方以外)での「準特急」運行は62年半ぶりとなる。

従来はすべて鉄道(民鉄)での設定であるが、2023年よりバスにも「準特急」が設定される(後述)。

運行会社[編集]

英語表記は各社で異なる。

阪急電鉄[編集]

阪急電鉄では2022年12月17日に行われるダイヤ改正で、神戸本線京都本線において従来の快速急行に代わり設定された[3]。停車駅は改正前の快速急行と同一とし、京都本線での座席指定サービスの開始を見据えた変更となった。

停車駅は神戸本線では特急停車駅に塚口駅六甲駅を加えたもの、京都本線では特急停車駅に西院駅大宮駅を加えたものになっている[3]

過去の運行会社[編集]

小田急電鉄[編集]

小田急電鉄は、1953年から運行した料金不要の座席定員列車であるサービス急行を格上げし、1959年から1963年まで週末に特急を補完する列車として運転した。のちに設定される近鉄や京王の事例と異なり、停車駅の差異よりも特急用車両の絶対数不足と車内設備の格差によるものであった[4]。新宿駅 - 小田原駅間が無停車で、車両はセミクロスシート車の2320形及び特急から格下げ改造された2300形を使用した。当該車両は、準特急が運行されない平日は料金不要の一般列車に充当された[注 1]が、特急にロマンスカーNSE 3100形が導入されてロマンスカーSE 3000形と合わせて増発が可能となり廃止された。

近畿日本鉄道[編集]

近畿日本鉄道は1960年1月20日のダイヤ変更で、主要駅に停車駅する準特急列車を設定したが、6月15日に種別を特急へ統合して準特急を廃止した[5][6][注 2]。設定当時の準特急は小田急電鉄と同様に、10000系2250系6421系6431系などのやや設備が劣る車両が使用された。

現在の近鉄特急は、旅客案内をはじめ一般に特急の種別を区分していないが[7][8]、近鉄社内では本列車を「乙特急」[9]、「名阪ノンストップ特急」など始発駅と終着駅間でほとんど停車しない列車を「甲特急」とそれぞれを称し[9][注 3]、準特急が運行されていた時代はこれが特急であった。

京王電鉄[編集]

2001年3月のダイヤ改定で、新宿駅 - 高尾山口駅間を運行していた急行(平日夕方は通勤快速)を速達化する目的で設定され[11]、当時の特急停車駅[注 4]に加え分倍河原駅北野駅に停車した。2013年2月のダイヤ改定で高尾線京王片倉駅山田駅狭間駅が停車駅に加わり、高尾線内で下位種別の急行と停車駅に逆転現象が生じた。同時に運転が再開された特急は分倍河原駅と北野駅が停車駅に加わり、京王線内の特急と準特急の停車駅に差異が無くなり、準特急は全列車が高尾山口駅発着となり、京王八王子駅発着の準特急は特急に統合されて消滅した[12]。2015年9月のダイヤ改正で笹塚駅千歳烏山駅が停車駅に加わり、再び京王線内で特急と停車駅差異が生じ、京王八王子駅発着の列車が復活して同時に相模原線で運転を開始した[13]。2022年3月のダイヤ改正で笹塚駅・千歳烏山駅・京王片倉駅・山田駅・狭間駅が特急停車駅となったことで高尾線内も含め準特急と停車駅の差異が無くなり、特急と統合され廃止された[2]

相模原線の準特急運用に就く8000系 2017年 稲城
相模原線の準特急運用に就く8000系
2017年 稲城

鉄道以外の「準特急」[編集]

2023年4月1日より、中国ハイウェイバスに「準特急」便が設定される予定[14][15]。夜の大阪駅津山駅行き2便が対象で、いずれも神姫バスにより運営される。従来の特急便の停車停留所に加えて、泉と福崎インターにも停車する。

参考文献[編集]

  • 交通新聞社 トラベルMOOK『京王電鉄の世界』
  • PHP研究所『京王電鉄のひみつ』
  • 交友社『鉄道ファン』2007年10月号 特集「列車種別バラエティ」

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ セミクロスシート車による有料特急列車はほかにも京成電鉄の「開運号」(スカイライナーの前身)において1967年から1973年までセミクロスシート車が使用された事例がある。
  2. ^ 準特急は当初名阪1往復と阪伊・名伊各5往復で開始(『鉄道ピクトリアル』1988年12月臨時増刊号(通巻505号)、145頁)。準特急の種別名称は、旅客営業上は特急に統合され、運転上も「乙特急」に改称された。同時に従来からある速達形の特急(この当時は名阪特急のみに設定)は運転上「甲特急」と称されるようになった。なお、速達形の特急が設定されていない場合は運転上も「特急」と呼称される。ただし「しまかぜ」と「青の交響曲」では「甲特急」・「乙特急」・「特急」の区分けとは別に「観光特急」と称している。この呼称は近鉄公式ホームページでも使用されている。
  3. ^ 2021年現在の旅客案内上では名阪特急では速達形の列車(甲特急)を「停車駅の少ない名阪特急」、乙特急を「主要駅に停車する名阪特急」と称している[10]
  4. ^ 明大前駅調布駅府中駅聖蹟桜ヶ丘駅高幡不動駅・(以下高尾線)めじろ台駅高尾駅。1963年の運転開始から下記の2013年ダイヤ改定まで一度も定期列車の停車駅変更が無かった。

出典[編集]

  1. ^ 交通新聞社『トラベルMOOK 京王電鉄の世界』p 13
  2. ^ a b 2022年春 「さらに便利で快適な移動」が実現 京王線 ダイヤ改正を実施します』(PDF)(プレスリリース)京王電鉄、2021年12月10日。 オリジナルの2021年12月13日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20211213181936/https://www.keio.co.jp/news/update/news_release/news_release2021/nr20211210_daiya.pdf2021年12月19日閲覧 
  3. ^ a b c 2022年12月17日(土)初発より阪急全線(神戸線、宝塚線、京都線)でダイヤ改正を実施〜2024年に京都線で座席指定サービスを開始します〜”. 阪急電鉄株式会社. 2022年10月12日閲覧。
  4. ^ 電気車研究会『鉄道ピクトリアル』No.649 p.57
  5. ^ JTBパブリッシング 田淵仁『近鉄特急 上』p.117
  6. ^ 寺本光照「近鉄の列車運転アラカルト」『鉄道ピクトリアル』第954号、電気車研究会、2018年12月、128 - 141頁。 
  7. ^ 路線図(大阪線・山田線・鳥羽線・志摩線・信貴線・西信貴ケーブル) - 近畿日本鉄道
  8. ^ 路線図(名古屋線・湯の山線・鈴鹿線) - 近畿日本鉄道
  9. ^ a b 鉄道ジャーナル社『鉄道ジャーナル』No.433 p.31
  10. ^ 大阪難波駅・近鉄名古屋駅毎時0分発の名阪特急をすべて「ひのとり」で運転します』(PDF)(プレスリリース)近畿日本鉄道、2021年1月8日。 オリジナルの2021年3月7日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20210307063502/https://www.kintetsu.co.jp/all_news/news_info/hinotoriul.pdf2021年1月8日閲覧 
  11. ^ 3月27日(火) 京王線・井の頭線 ダイヤ改正インターネットアーカイブ) - 京王電鉄ニュースリリース 2001年2月22日
  12. ^ 京王ニュース2013年2月 No.697
  13. ^ 9月25日(金)に 京王線・井の頭線のダイヤ改正を実施します ~都心方面へのアクセス強化など利便性向上を図ります~ (PDF) - 京王電鉄、2015年8月26日、2015年8月26日閲覧。
  14. ^ 2023年4月1日(土) 中国ハイウェイバスダイヤ改正について”. 神姫バス株式会社. 2023年2月17日閲覧。
  15. ^ 2023 年 4 月 1 日 中国ハイウェイバス ダイヤ改正について”. 神姫バス株式会社. 2023年2月17日閲覧。

関連項目[編集]